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「そういえばエインズ、あんた何をしたの?」


 スープにパンをつけて食すライカ。


「ん? 何ってなんのこと?」


 まったく見当がつかないエインズは、息を吹きかけてスープを冷ましながら口に運ぶ。


「キリシヤのことよ。今日、キリシヤと会っていたんだけど、びっくりしたわよ。この前と雰囲気が変わっていたわ」


「キリシヤが?」


「ええ、そうよ。なんというか、前よりも目力が強くなったというか。ふとした時の言葉に重さを感じたわね」


「へー、それはいいことじゃないか。王族に連なる者として言葉に重みが増すことはいいことじゃないの?」


「そうだけど……。ダリアスと次代の明星によるあの一件以降よ? 絶対エインズが何かしたでしょう!」


「ああ、それなら絶対こいつが何かしただろうな」


 パンを齧りながらタリッジ。


「……エインズ様のお言葉には影響力がありますから」


 静かに前菜に手を付けるソフィア。


「やっぱりエインズ、あんたキリシヤに何か言ったんでしょう」


「んー、なんだったかな。僕も、その場に合わせて特に思ってもないことを言っているからさ、細かく覚えていないんだよね」


 何かキリシヤの琴線に触れるようなことを言っただろうかと記憶を呼び起こすエインズだったが、程よい焼き加減のパンの美味しさに思考が飛ぶ。


「……あんたキリシヤに何かしら変わるきっかけを与えたんだから、せめて覚えておきなさいよ」


 呆れ口調のライカ。


「また今度、思い出しておくよ」


 と、エインズはライカを向くことなくテーブル上の料理にばかり目が留まっている。

 その様子を見て、これは絶対に気にも留めず忘れるだろうなと諦めるライカ。


「そうだエインズ。あんたこれからどうするの? 魔術学院に対して興味を失ってしまったようだけど」


「うん、セイデルさんにも同じことを聞かれたよ。ちょっと別の街に行こうかなと思っててね」


「別の街? キルクを離れるってこと?」


「そう。ソフィアもタリッジも良ければだけど」


 エインズは、ソフィアとタリッジの二人に目を向ける。

 静かに動かしていた手を止め、ナプキンで口元を拭うソフィア。


「私は勿論エインズ様にご同行させていただきます」


 ソフィアの答えが分かりきっていたエインズは、うんうんと頷いた。


「俺もいいぜ。別に何かすることがあるってわけでもねえしよ、それにまだエインズには教えてもらってないことがあるしよ」


「意外だね。タリッジのことだから、面倒くせえからパスって言うかと思ったんだけど」


 旅は一人よりも二人、二人よりも三人の方が道中楽しく過ごせる。加えて、ソフィアと二人きりでは息が詰まって仕方がないため、タリッジが付いてくると言ってくれたのは素直に嬉しいエインズであった。


「というわけだからさライカ、どこかいいところ知らない?」


「はぁ、それくらい自分で決めなさいよ。というか、ソフィアさんとタリッジに聞いたらいいじゃない」


 あしらうようにエインズへ返すライカ。

 タリッジは「……あいつは敬称がついて、なんで俺は呼び捨てなんだ?」と小さなところで無駄に引っ掛かっていた。これも性格が水と油の相手であるソフィアだからだろうか。


「私は基本的にずっとアインズ領にいましたので、他はあまり知らないのです。用事でキルクへ何度か来たことはありましたが、それ以外はさっぱりです」


「俺も知らねえな。元はガイリーンにいたけどよ、向こうでは剣を振ってばっかりだったんだ。自分の国すらあんまり詳しくねえんだ、サンティアなんてさらに分かんねえよ」


「僕は……、言わずもがなだよね?」


「はぁ……。あんたたち、それで本当に旅なんかできるの? ……まあ、いいわ」


 そして考えるライカ。サンティア王国において、魔法文化のレベルが一番高いのが王都キルク。そして、エインズが興味関心を向けるものは魔法と魔術くらい。


「(他にどこに行けって言うのよ)」


 と難しそうな顔で見つめるライカ視線の先には、呑気に舌鼓を打ちながら肉料理を食べるエインズ。


「南の方に行ってみたら?」


「南? なにがあるの?」


「港湾都市があるわ。港湾都市というだけ、広大な海に面した街よ。物流の中心地であり、海鮮の中心地。わたしたちが食べている魚も港湾都市で取れたものよ」


「港湾都市……」


 聞き馴染みのない言葉に、上を向いて復唱するエインズ。

 その横のソフィア、向かいに座るタリッジもピンときていないようだ。


「うん。面白そうだね。僕、海を見るのはかなり久しぶりになるし行ってみたいかな」


 一つ、パチンと指を鳴らし、今後の行き先を決めたエインズ。


「エインズ、泳げなさそうよね。大丈夫?」


「確かに泳げないけど、僕は魔法が使えるから溺死することはないって」


 そうかエインズは魔法が得意だったなとライカ。そこでふと、エインズが一人で風呂に入る時はどうしているのだろうかと思った。エインズの身体である。片腕はなく、片足も膝から下がない。浴槽に入るのも出ることも一苦労だろうとライカは思った。


 が、それは別にここで口に出すことでもないと思い、心の中で留める。


「ではエインズ様、次の目的地は」


 ソフィアがエインズへ確認を取る。


「うん。港湾都市へ向かおう。二人とも付き添い頼むよ!」


 ソフィアは「畏まりました」と手を胸に当て、軽く頭を下げる。

 タリッジは「当然馬車で移動だよな? ……違うのか?」とソフィアの顔を見やるが、彼女はタリッジを無視する。


「カンザスさんが戻ってきたら、お礼と挨拶を済ませてから向かおうか」


 エインズは再び食事に取り掛かった。


【お願い】


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