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【第5部完結】隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~  作者: すずすけ
第3部2章 禁書庫

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20


「ここまで来ればひとまず大丈夫でしょうね」


「スラムの方には来たことがなかったが、こんなにも広いところだったんだな」


 エインズとキリシヤ、セイデルに加え、リーザロッテと王国騎士に囲まれ窮地に立たされたダリアスとルベルメルだったが、ダリアスがエインズの助力もあり魔術に目覚めたことで脱することができた。


 今ダリアスら二人は、魔術学院があった王都の北東部から最も離れた位置にある南西部スラム街まで抜け出してきたところだ。


 一般街区に入ったときは人混みに揉まれ思うように動けず時間を費やしてしまったが、西部の商業区に出てからはスムーズだった。


 学院を離れてそれほど時間も経っていない。それでも今ごろは国王やそこに連なる王国の中枢に伝えられているところだろう。

 手配書がまわるまでにはまだ少しばかり余裕はありそうだとダリアスは一息つく。


「それで、これからどうするんだルベルメル」


「まずは汗を流しましょう、ダリアス様。私、書庫では冷や汗に脂汗、こちらまで駆けたせいで汗だくになってしまってございます」


「そんなことをしている場合か?」


「急いては事を仕損じますよダリアス様。せっかく窮地を脱せたのです。ここはまず落ち着くとしましょう。私達の情報が広まるにはまだ少し時間があることは、貴方も分かっているでしょう?」


 まるでダリアスの心中を読み取ったかのように話すルベルメル。ダリアスはそんな彼女との会話にいまだ慣れず、変な気持ち悪さを覚えていた。


「……そうだな。これからどこに向かうのか分からないが、長い旅路になるのなら当分満足に身体を洗えないだろうからな」


 スラム街といっても、すぐ横は商業区。南に下っていかなければ飲食店や宿などもそれなりに並んでいる。


「そういえば、この辺だったな。この前の原因不明の火事で一帯まるごと焼失してしまったのは」


 そしてダリアスの従者であったタリッジがエインズの側についた事件でもある。

 終わった話ではあるが、ダリアスにとってはふと思い出してしまう出来事。


「寄りますか?」


「……いや、いい。僕にとってはきっかけになった場所だったが、今となってはもう捨てていかねばならん残滓だ」


「……」


 ダリアスらが立っているところからもう少し南に行ったところが焼失した現場である。

 ダリアスは南を背にし、ルベルメルの顔を見る。

 対して、きょとんとした顔でダリアスを見つめるルベルメル。


「ルベルメル、僕の名前はなんだ?」


「はい? ダリアス様でしょう?」


 ルベルメルの目にはダリアスが映っている。

 ダリアス=ソビ、ではない。


「そうだ、僕はダリアスだ。……向かおうかルベルメル。お前の知っている浴場は良いところなんだろうな?」


「……ふふ」


 ダリアスの問いの意味が分かったルベルメルは、そこに魔術に目覚め一皮むけたダリアスに残る可愛らしさを見た。


 何を笑っている、とダリアスがルベルメルに怪訝な顔をするがルベルメルは「いいえ、なにも。ダリアス様」と浴場へと先導する。


 ルベルメルを先頭に二人は並ぶ建物の一つに入った。

 三階建の建物の一階に受付があり、話をするルベルメルを後ろからそわそわしながらダリアスは観察する。

 浴場ということもあり、建物の中はじめじめと湿度が高い。


「ダリアス様、個室を取りましたので行きましょう」


「……あ、ああ」


 初めて来る場所にダリアスは勝手が分からずぎこちない。

 尋ねたいことが多くあるダリアスだが、今はルベルメルに任せているため、黙って彼女についていくしかない。

 木札を手にするルベルメルの後ろを歩き、ダリアスは受付の横を通ってうす暗い廊下を歩く。


 廊下の先にはいくつも似たような無骨なデザインのドアがならんでいた。違いがあるとすれば、各ドアに番号が振ってあり、その数字の違いくらいだ。

 ドアの前を通り過ぎる際に、中から悲鳴のような喜悦のような女の声がかすかに聞こえてくる。


 中で何が行われているのか。ここは浴場ではないのか。廊下のうす暗さに、じっとりと肌にまとわりつく湿気がダリアスを寒心させる。


「……な、なあルベルメル。この上はなんなのだ? 浴場が一階なら二階、三階はどうなっている?」


 言葉の端々からダリアスの感情を読み取るルベルメル。


「この上は宿になっているのですよ? といっても、一泊もせず後にする方のほうが多いと思いますが」


「どういうことだ?」


「あら、ダリアス様は初めてなのですか? そうですか、それはいけませんね。高貴な身分を捨てたダリアス様が一般市民の文化を知らないままでは」


 艶っぽい声で話すルベルメルに、意味も分からず眉間に皺を寄せるダリアス。


「……つきましたね。ここです」


 ルベルメルは湿気に強い木で作られたドアを開けて中に入る。

 中は人数にして三人はのびのびと入れるであろう大きさの浴槽に、少々広すぎる洗い場になっていた。

 ルベルメルの言っていた通り、個室である。

 個室だが……。


「お、おい! 仕切りがないじゃないか。これでは僕が入れないではないか! それともお前が入らないのか?」


 声を上げるダリアスだが、ルベルメルは気にせず後ろ手にドアを施錠し、徐に着ている服に手をかける。

 平然と服を脱いでいくルベルメル。


「ダリアス様。一般市民がどのようなところに住んでいるのかご存じですか?」


「きゅ、急になんだ? そして、どうして服を脱ぎ始める!」


 すぐさまダリアスは顔を背けるようにルベルメルから視線を外し、床の一点を見つめる。


「一般市民は、浴室が備わっていなければ壁も薄い雨風を凌ぐ程度の粗末な住まいで暮らしているのですよ」


 はらり、とルベルメルの服が床に落ちる。

 小さい音だが、いやにダリアスの耳に届く。


「それとこれとでどう関係していると言うんだ!」


「では、そんな男女はどこで色恋すると思いますか? そんな周りが気になる状況で蜜月の時間を過ごせると思いますか?」


 下着が肌擦れ音を立て、脱ぎ捨てられる。


「お、おい! まさかお前!」


 そこまで言われてダリアスは察した。ここがどういった場所なのかを。


「どうぞ、いつまでも突っ立っておられないでダリアス様もお脱ぎになってください」


 ルベルメルを視界に入れていないダリアスには見えていないが、既に裸になったルベルメルがぺたぺたと歩き、「でしたら先に入っていますね」とダリアスの横を通り過ぎ浴槽に浸かる。


【お願い】


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