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【第5部完結】隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~  作者: すずすけ
第3部2章 禁書庫

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 揺れるキリシヤのように自信なさげな声とは違い、確固たる信念を持つ自信に満ち溢れている声。


「……ほう。君は」


 キリシヤに向かい合うようにして立っているエインズはその声の主を確認する。

 続いてキリシヤも振り向く。


「……リーザロッテ様!」


 そこにいたのは、数人の騎士を連れて立つ、真っ赤なドレスを身に纏った気品高く妖艶な女性。その美貌ゆえ見る者全てを惑わす現代の魔女リーザロッテ。


「妾の書庫に侵入者を確認したゆえ、急いで来てみたら……、なんだこれは?」


 荒れ果てたリーザロッテの書庫。

 そこには整然と管理されていた元の姿はない。

 そしてリーザロッテは確認する。キリシヤとセイデル。そして彼らに向かい合うようにして立つエインズ。


「……また、お前かエインズ」


「君は王城で見た、リーザロッテ、だったかな。なるほど、ここは君の書庫だったのか」


 そのエインズの軽い態度が気に障るリーザロッテ。


「それで、セイデル。これはどういう状況だ?」


 エインズの不愉快な姿をいつまで見ていても仕方がない。この場において冷静に話が出来るのはセイデルだけだと判断したリーザロッテが、彼に尋ねる。


「ご機嫌麗しく存じます、閣下。我ら、キリシヤ様とエインズ殿は偶々こちらに来たのですが、その前に侵入者がいたようでございまして、そこの二人にございます」


 セイデルが差し出す手の先には、ルベルメルとダリアス。


「あの童、どこかで見た気がしなくもないが……」


「ソビ家長子、ゾイン=ソビ侯爵の子ダリアス=ソビ殿にございます、閣下」


 なるほど、だから見覚えがあるのかと合点がいくリーザロッテ。

 しかしその隣に立つ、真っ赤な唇をした女についてはまったく見覚えがない。そして纏う空気もどこか一般のものとは違う。


「横の女性はルベルメル。『次代の明星』の魔術師とのことでございます」


 思わぬ言葉に、リーザロッテに控える騎士が警戒を高める。


「……お初にお目にかかりますリーザロッテ閣下? いえ、禁書庫の主、悠久の魔女。私は『次代の明星』が一人、相克の魔術師ルベルメルにございます。以後、お見知りおきを」


 と落ち着いた様子で口上を述べるルベルメルだが、その顔を冷や汗が垂れる。


「ほう? では学院を覆うあの魔法は、お前のものか。どうりで手間をかけさせられたものだ」


「魔女からそのようにお褒めいただくとは、嬉しいかぎりですわ」


 と頭を下げながらルベルメル。

 彼女の魔法には『相克』が展開されている。幹の大蛇に対抗するには、セイデルが使用した火の上級魔法やそれに類するものを使用しなければならない。


 しかしその魔法を打ち消すように、ルベルメルの『相克』が発動する。

 正に防衛に関しては鉄壁の魔法を誇るルベルメルの『相克』。リーザロッテとその後ろに控える騎士がここにいるということは、ルベルメルの『相克』が打ち破られたということを意味する。


「(流石は悠久の魔女といったところでしょうか。彼女もまた、エインズ様のような……)」


 であるなら、こうして囲まれたのはルベルメルにとって絶望的状況。


「ルベルメルは、ここに保管されてございました『原典』その原本の強奪が目的だったようでして、横のダリアス殿は彼女に協力していたため、あちら側にございます」


「原典は今、どこにある?」


 リーザロッテが見たところ、ルベルメルの手にはそれがない。


「はい、エインズ殿が既に奪還してございます」


「……チッ」


 舌打ちをするリーザロッテ。

 それには思わずセイデルも怯えを見せる。彼は何も知らず、何も悪くないのだが。


「まあ、よい。それだけ分かれば、あとはそこの二人から詳しく話を聞くだけだな。ここに一番来てほしくない人間が既に来てしまっているが仕方がない。切り替えるとしよう」


 忌々しく横目でエインズを見ながら、騎士を連れてルベルメルとダリアスへ向かっていくリーザロッテ。

 だが、そこで彼女は気づく。


「(……待て。エインズがここに来たのは偶然だったかもしれない。不愉快だが、それは良い。だが、それなら、どうして……)」


 エインズの右腕は展開されている……?

 はっと気づくリーザロッテ。


「……正義か悪か。そんな小難しいことを僕は喋ったけども、だからといって法を破ってもいいなんてもちろん思わないよ? 彼らが王国の法を破ったのならば、それは罰せられるべきだ。そこに僕はとやかく言わない」


 それは王国の治安を守る者と彼らの問題だ、僕は関与しない。エインズは続ける。


「賽は既に投げられている、自らの手で。後は君が君の力をどのように使うかだけだ。君が君である価値は誰のためにある? 何のためにある? ……ダリアス」


 目の前の魔女を相手にどう対抗しようか、絶望的な淵にいるルベルメルは考えあぐねていた。


「ルベルメル。僕は既に王国のお尋ね者だ。お前と一緒に捕まってしまえば終わりだ」


「静かにしてください、ダリアス様。この状況において貴方のご機嫌を取っている暇なんかございません」


 このガキには全く危機感がない、とルベルメル。気が紛れてしまうのを必死に抑える。


「僕と君らは既に共犯だ。君らの思想はあまり詳しく知らないが、僕が僕であるためにはここで捕まるわけにはいかない」


「……黙ってください!」


 何かに気づいた様子で立ち止まるリーザロッテ。しかし、連れていた騎士たちは足を止めず、武器を構えながらルベルメルに近づく。


「家柄なんか関係ない、『僕』自身で生きていく環境。……ルベルメル、僕はもうダリアス=ソビに未練はない」


「……黙って!」


「これから僕は、魔術師の、ただのダリアスだ。連れていけルベルメル。僕を君ら『次代の明星』に」


「……黙れ」


 ガキが横で、何か自分に酔ったように垂れる。

 敵の動きに集中しなければならない状況で、ガキの戯言が不快にもルベルメルの耳に届いてしまう。


「僕と君が初めて会った、あの部屋。あそこに置いていた調度品、その全てを僕に寄越せ。そうすれば、僕らは捕まらずにここから抜け出せる」


 ダリアスが言っているのは、彼女とこの計画を練った商業区の一室。そこに置かれていた下品なほどに分かりやすく高価な調度品。


 ルベルメルは、このガキはこんな状況にもかかわらず彼女が用意した調度品をがめつくなんて本当に良い性格をしていると思った。


「ええ、ええ! 差し上げますから黙ってください! 相手は悠久の魔女なんですから、貴方に構っている状況ではないのです!」


「だから交換条件だ。ここから無事抜け出せたのなら、僕を君らの所まで連れていけ」


「ったく! 分かったから黙れガキ! てめえが黙れば私の思考がまとまってこの状況を打開できるかもしれねえんだよ! 下らん戯言言うくらいなら黙るか、その大した自信をやってみせろ!」


 とうとうブチ切れたルベルメル。これまでの彼女の様子からは想像できない荒々しい口調が表に出てしまう。

 ブチ切れながらもダリアスの要望を飲むルベルメル。


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