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【第5部完結】隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~  作者: すずすけ
第3部2章 禁書庫

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09

「原典を奪うなど、そんな悪事は許されません!」


 強くルベルメルへ声をぶつけるキリシヤ。


「キリシヤさんは、あのように怒っているけどルベルメルさんの目的は分かったよ。それで、そこに隠れている……誰だっけ? 君の目的は?」


 本棚に隠れるようにして、魔法戦に怯えていたダリアスに顔を向けるエインズ。


「そういえば、ダリアスさん。あなたはどうして彼女の側にいるのですか!」


 可愛らしい顔には似合わない厳しい視線をダリアスに飛ばすキリシヤ。

 自身に注意が行ってしまったのならば仕方がないといった様子で本棚から姿を現すダリアス。


「ぼ、僕は何も知らない! 僕が父上の評価を取り戻すために、彼女が協力したいと言うから協力関係になっただけだ! 彼女の正体なんか知らなかった!」


 と、唾を飛ばしながら弁明するダリアスだが、それが嘘であることが分からないキリシヤやセイデルではない。


 『原典』のその原本を奪い取るというルベルメルの暴挙に協力するのだ、それによる彼のメリット、並びにルベルメルの素性を聞かずしてダリアスが行動に移す訳がない。

 だが、同時にそれを証明する証拠がないのも事実だ。


「ですがダリアス様がここに来られた際の口ぶりから、そこのルベルメルの原典強奪に協力したことは事実でございますキリシヤ様」


 セイデルの言葉に怯むように後ずさるダリアス。

 その様子を見て、ダリアスが国宝である原典の盗みに加担したのは間違いないと判断するキリシヤ。


「……ソビ家の長子だろうと同じ学友だろうと関係ありませんね。サンティア王国の王女としてダリアス=ソビを許してはおけません」


 強い眼差しをダリアスに向けるキリシヤ。

 とはいえ、セイデルの魔法はルベルメルに届いていない。


 ルベルメルの側に立つダリアスと、セイデルと共に二人に向かい合うキリシヤ。状況が動かないのは、セイデルの魔法を下したルベルメルが追撃をしないからだ。

 この状況を打開しなければ、ルベルメルと彼女に協力したダリアスを捕らえることができない。


「確かに僕は原典の盗みに加担した! だけど、この魔術学院の図書館からソビ家の屋敷に保管場所が変わるだけで王国全体としての損失はないじゃないか!」


 原典の原本が他国に移っていないのだから何も問題はない、と言わんばかりのダリアス。

 もちろん、ダリアスの言うように王国内で保管されているのであれば何も問題はないが、それは中立的な場所である必要がある。


 ソビ家は王族、ブランディ家と並ぶ主要貴族。加えてソビ家現当主のゾインは野心が強く、悪い噂が立つ侯爵位の人間だ。そんなゾインの懐に原典が入ってしまえば、それこそパワーバランスが一気にソビ家側に傾いてしまう。結果的に国内に混乱が生じてしまい、それは民へのしわ寄せといった形で表れてしまう。


 それだけは避けなければならない、と思うキリシヤ。

 ダリアスに対してキリシヤが反論しようとした矢先、横からエインズが再びダリアスに話しかける。


「どうして原典(それ)があれば君の評価が戻るの? それをどんな風に使うつもりなの?」


 それはダリアスに向けた言葉だったが、同時にルベルメルにも問うていた。


「これは貴重な聖遺物だ。魔力の濃度や生成量、全てが他の聖遺物と別格。であるなら使い道は自ずと分かるだろう」


 ルベルメルも静かに同意する。

 つまりは魔石のように、魔力の生成機として捉えているのだ。


「なるほど。……それじゃ、それはあげられないね。ルベルメルさんも、返してもらうよ?」


 エインズは一歩前に踏み出して、ルベルメルとダリアスに相対する。


「エインズ様? 先ほどは私と戦わないとおっしゃっていましたが、考えが変わったのですか?」


 穏やかな声色ではあるが、ルベルメルからエインズに対する殺気が漏れ出る。


「いいや、戦わないよ。ただ、返してもらうだけ」


「エインズ様には申し訳ありませんが、私が貴方に原典をお渡しすることは決してありません」


 ルベルメルは原典を強く握りしめ、エインズの動向に注視する。魔法を発現させようものなら速やかに対処する覚悟で。


「気をつけろ、ルベルメル。不愉快だが、あいつは剣の腕もそこそこ立つ。近接戦に持ち込まれる可能性もあるぞ」


 ダリアスはエインズとタリッジの模擬戦を思い出し、ルベルメルに伝える。


「ダリアス様、ご助言ありがとうございます(このガキ、少しは役に立ちますのね)」


 ルベルメルはエインズの腰元に帯剣されていないことを確認する。


「(となれば、体術でも使うのでしょうか。エインズさんも所詮は王国の魔法士。魔法であれば恐らく対処は楽でしょう)」


 間合いを詰められることだけは注意しようと考えるルベルメル。


「エインズ殿、ご助力致しましょうか?」


 セイデルがエインズの背中に声を投げる。


「不要ですよ、セイデルさん」


 セイデルに振り向くことなく返し、エインズは紡ぐ。


「限定解除『奇跡の右腕』」


 キリシヤは即座に分かった。

 これは王城でリーザロッテを相手取り、見せたエインズの魔術。


「な、なんだ、それ……。その、右腕は……、なんなんだ」


 ダリアスは初めて目にする異様な光景。

 隻腕のエインズ、ジャケットのその空の右袖から半透明な手が現れる。

 まるで人の手ではない、奇妙な右手。


 ルベルメルもエインズの右腕に、思わず瞠目する。だが、まだ彼女に向けて何かしらの攻撃をしたわけではない。よって相克による迎撃も出来ない。


「……エインズ様の魔法、ですか? 初めて見るものですね」


「違うよ、ルベルメルさん。これは魔法じゃなくて、魔術」


 あっけらかんと答えるエインズは、右肩に留めてある手袋を外し、半透明な右手に嵌める。感触を確かめるように二、三回開閉させてから、ゆっくりと視線をルベルメルに移す。


「……どこからでも来てください。私の相克がエインズさんを討ち果たします」


 さらに集中するルベルメルだが、エインズは首を横に振る。


「もう終わった。原典(これ)は返してもらったよ」


「っ!?」


 ルベルメルはエインズの右手に持つものを見つけた。

 彼女が奪われないように強くその手で握りしめていたはずの原典。それが、次の瞬間にはエインズの手の中にあった。


 ルベルメルは視線をエインズから外さず原典を掴んでいた手の感触を確かめる。そこには先ほどまであったはずの革製カバーの感触はなく、空を掴んでいるだけ。


「……何を、した、された? のですか。何かしらの魔法であれば、私の相克が反応するはずですが、それが……ありませんでした」


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