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【第5部完結】隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~  作者: すずすけ
第3部2章 禁書庫

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05

「鍵が開いていてね、思わず入っちゃった。でも管理人の人がいたみたいで、快く中に入れてくれましたよ」


 紅茶も美味しかったし、と語るエインズ。


「管理人、ですか。それは、一度挨拶をしておきたいところですね」


 禁書庫に管理人などいない。

 禁書庫の所有者は悠久の魔女なのだ。悠久の魔女は優れた魔術師。同じ魔術師であるエインズであれば、交流を持ったのだとすれば彼女を魔術師と呼ぶことはあっても、管理人と呼ぶことはない。


「良い人だよ、きっとセイデルさんも仲良くなれますよ」


 エインズは、奥の方へ振り向き、「ルベルメルさん、僕の知り合いが来たようでした」と声を投げる。

 少し間を空けてから近づいてくる足音が鳴る。

 セイデルは額に汗を浮かばせながら、その姿が現れるのを待つ。


 真っ赤な唇が印象的な女性がティーポットを片手に本棚の角から現れる。

 ルベルメルは穏やかな表情でセイデルを見つめる。


「あら、エインズさんのお知り合いの方ですか。申し訳ございません、お約束があったのに長居させてしまいました」


 ルベルメルは恭しく頭を下げる。


「ルベルメル殿はここの管理人、なのですか?」


「管理人などと大それた者ではございません。ただ、本を一冊とりに来ただけでございますよ」


 それにはセイデルも穏やかな声色で、


「そうですか。これはまた不躾にもお邪魔してしまい、申し訳ない。すぐにお暇いたしましょう」


 セイデルはルベルメルのその顔、姿を目に焼き付けるように見つめてから、エインズを連れて禁書庫を後にしようと踵を返す。

 相手の技量が測れない。この段階で敵対するのは得策ではない、とセイデルは判断する。


 ルベルメルも同様にセイデルと同じ考えをする。だが、彼女はセイデルに姿を見られた。セイデルがここをどのような場所か理解しているのであれば間違いなく後で追手がルベルメルに放たれるだろう。


 だがそれでもセイデルがここを離れてから連絡を入れるまでの間に時間が出来る。その間に逃げれば良いだけなのだ。


「ごめんなさいね、セイデルさんにもお茶の一杯でもお出ししたかったのですが……」


「申し訳ございません、業務中にお茶を嗜むことは禁止されておりまして。お気持ちだけ頂戴しますよ、ルベルメル殿」


 互いに心にもない茶番を繰り広げ、その場をやり過ごす。

 が、それもまた別の人間によって無に帰す。


「おい、ルベルメル。例のモノは手に入ったのか? こんなに容易に進むんだったら結局、僕は何のためにあれを撒いたのか——、」


 ダリアスである。

 入口の扉を勢いよく開け放ち、ため息交じりに中にいるであろうルベルメルに声をかけたのだ。

 ダリアスの突然の登場にはエインズもセイデルも呆然としてしまう。

 ルベルメルは頭を抱えたくなる。本当に、空気が読めない貴族のガキは嫌いだ。


「なっ!? お前は、エインズ!」


 中に入り、ルベルメルと向き合うようにして立っていたエインズを見つけ、ダリアスは驚きの声を上げる。


「どうしてお前が、ここに! また僕の邪魔をしようとするのか!?」


 しかしエインズはダリアスのことなど覚えてもいない。


「いや、僕はそこのルベルメルさんと仲良くお話をしていただけで」


 エインズの何気ない言葉は、ダリアスには違った意味合いで受け取られる。

 ダリアスと協力関係にあったルベルメルが裏で、彼が抱える問題の原因であるエインズと繋がっていたという意味で。


「ルベルメル、貴様! どういうことだ! 僕を利用するだけして、こんなやつと!」


「……ダリアス様、どうぞ落ち着きください」


「黙れ!」


 顔を真っ赤に激昂するダリアス。


「『原典』の原本を僕に渡すなんて嘘をついて、結局僕を利用して原本を自分のものにしようとしたのか! 薄汚い盗人が!」


 ルベルメルを指さし、まくし立てるように語ったダリアス。

 その後、場に沈黙が生まれる。

 セイデルとしては既に見過ごせない状況にいることを理解した。ここで見逃せばキリシヤに仕える者として、そしてセイデルの主人であるキリシヤに批難がいく。


 ルベルメルは今すぐにでも、ダリアスのその回る口をきつく縫い合わせるか、無駄に喋らないようにその頭を切り落としたくなった。

 エインズは単純に状況を理解していない様子。


 そんなエインズを置いて、一触即発な状況の中、ルベルメルは徐に持っていたティーポットを傾ける。

 ポットの先にはカップはなく、注ぎ口から出る鮮やかな紅茶は石張り床にそのままこぼれる。


「ちょっとルベルメルさん、紅茶がもったいないですよ」


 ルベルメルのまさかの行動に驚くエインズ。

 だが、ルベルメルはすでにエインズの言葉に耳を傾けることなく、事態の収拾に行動を移す。ダリアスの登場により、既に言葉だけでは場を丸く収めることは出来なくなっていた。


「ダリアス様、あなたのご協力は、本当に助かりました。私の魔法には、クセがありまして咄嗟の状況には弱いのです」


「何を言っている?」


 眉間にしわを寄せるダリアス。

 魔法と聞いて、目を輝かせるエインズと、臨戦状態になるセイデル。


「『水気は木気を生じる』」


 ルベルメルの紡いだ言葉の後、魔術学院の敷地全体の地面がうなりを上げる。

 巨大な木の幹が地面から数多く現れる。

 それは外からの侵入を拒むように。中から逃げようとする者を一匹たりとも逃さないように。

 ルベルメルの魔法は魔術学院とその外を完全に隔離した。


「ここまで状況が動いてしまってはどうしようもありません。時間いっぱい、粘らせていただきます」


 ルベルメルはうなりを上げる幹に怯えるダリアスを見ながら心底ため息をついて、セイデルをその双眸に捉える。


「……申し遅れましたエインズ様、セイデル様。私、『次代の明星』が一人、相克の魔術師ルベルメルにございます。以後、お見知りおきを」


【お願い】


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