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ギルドと精霊協会2


「はい。これで登録は終了でございます。」


 職員に渡された書類に必要事項を記入するだけの簡単な作業だったため、早く終わった一同は再びエレナたちと対面していた。


「これからどうするおつもりですか?」


「とりあえす、アントニオはこれからブリカダルに送り、執事修行をしてもらう。荷物は既に送ってあるから身一つで大丈夫だ。」


「第二王子殿下、しばらくご予定は空いておりますでしょうか?」


ジンドが威圧感ある声で聞いてくる。


「あぁ。公務自体ほぼ任されていないしな。」


その答えにため息をついた後、先ほど書いた登録用紙を叩きながら話し始める。


「第二王子殿下の能力自体は高いものです。戦闘訓練なども受けておられるようなので実力者のための依頼を受けていただきたいですが。私どもは殿下には戦闘よりも政治に長けていてほしいので、敢えて難易度が低く他者と組むパーティーものの依頼を受けていただこうと思います。そして、中級階級の中でも位の低い貴族という設定にしていただきたいと思います。」


「王子だと容姿がこれでも相手がやりにくいからか?」


「それもありますが、上品な言い回しには慣れているでしょうから、たまには遠回しな言い方もクソもない真っ直ぐな言葉に慣れてほしくて、です。」


「ジンド。」


 笑顔で言い切ったジンドにすかさずエレナがくぎを刺す。


「鍛えられそうだな。」


「依頼の難易度など気にしなくてよい。私がいれば大抵の敵はなんとかなる。だが、人型の精霊は私しかいないならどうするつもりだ。精霊教会とやらには知れ渡っているんだろう。一般人の多い精霊教会の人間が知っているなら他の者が知らぬはずがない。設定通りに演じても私を見た瞬間、王子と気づくのではないか?。」


シギが面白そうにジンドに問う。


「それに関しては上級精霊様がなんとかできるのはないですか?」


「ククッ、さすが副長だな。よくこちらの事を見ている。」


「隠す気など微塵もなかったでしょう。」


「我らは簡単な法の下で生きている。精霊は人間ほど複雑な感情は持たぬ。執着という感情にも囚われにくい。嫌なものは消すなり、自分が去ればいい。隠す必要なんて全く無い。」


「羨ましい生き方ですな。」


「そして、お前の言う通り私ならなんとかできる。体などどうにでも変えられる中級の精霊にでも変化すれば怪しまれないか。」


「えぇ、それで大丈夫かと。」


「今日中に今後二週間の計画を立てます。二週間後にはシザル様と対等に話せるだけの交渉力を持ってもらわなくてはいけません。第二王子殿下は何の実績も無いままあの方に会うのですから。」


「そうだな。色んな意味で名ばかりの王子だな。」


「主よ。中級階級貴族に化けるというのなら、そう見える服を買わなければならないだろう?ほら、動こう。」


「それなら仕立ててもらえる。中級階級貴族の服装も知っているからね。」


その言葉にアントニオがルキウスの顔を伺いながら意見を言う。


「王子、それでは意味は無いと思います。町に出る機会もそうなかったのですよね?ついでに視察しましょう。シギがいればなんかあっても大丈夫ですし。この辺りで中級階級貴族御用達の店はありますか?」


「未来の執事は賢明な判断をなされる。いい部下をもちましたな。それなら、職員に案内させましょう。」


「ありがとうございます。」


職員に案内された店で何着か買った後、馬車で城に戻り反省会を開いた。


「予想はしていたが、非常に嫌われていたな。」


「特にジンドにいたっては嫌悪感が凄かったな。あれは、よく主が受けていた容姿からくるものではなく何もしてこなかった主に対してだな。」


「シギー、ほどほどになー。」


「何も言い訳できぬし、する気もない。私は同じ思いを抱えてきた者なら動かせたはずなのに、変えれたはずなのに、何もしてこなかった。口では独学で知識を培ってきたなどと言っていたがそれだけでは足りんか。王族だというのに、何の権限の与えられない私にできることなど何も無いと、思っていた。」


「主よ、だからといって嘆くばかりが王族ではないだろう。この反省会は先の手を打つためのもの。」


「そうだよ。一か月以内にシギとベストパートナーって思われよう作戦を考えなきゃだろ?今の作戦じゃそこらの貴族が精霊といい関係築いてるとしか思われないよ。それとも最後に実はってバラす?」


「それも最終手段だと思うが、なんにせよ精霊教会を味方に引き込むほうが先決だ。とりあえす依頼を受けよう。」


「アントニオは今日の内に修行開始だろ。」


「おう。」


反省会が終わり、アントニオは馬車でブリカダルに送られた。


「ブリカダルは治安が比較的良い方だ。まぁ、外出する機会がどのくらいあるかは分からないけど。」


「私はアントニオとも繋がっている。アイツに何かあればすぐわかる。」


「なら安心だね。」


「明日からジンドの下で修行というわけだが、この時点でちと意地悪されているのに気づいているか?」


 シギがルキウスの瞳を覗き込みながら尋ねた。


「正直、どこか目立って仕込まれた覚えは…。最初から敵対心が強かったから。」


「うん。鍛えがいがあると言えば聞こえはいいが…。お忍びというのはしたことはあるか?」


「いや、生憎そういうことに付き合ってくれる者はいなかったから。」


「外出の頻度はどのくらいだ?」


「少なくとも月に一回は。公務はほぼ任されないが、他国との会談など王族一家で迎えなければならないものには行っている。まぁ、行ったとしてもほぼ空気のような扱いだけけどね。」


「主は…、よく勉強している。だが、偏っているな。ギルドは国の運営の要にもなっているだろう?」


「あぁ。ということは他にもあったのか?」


「考えてごらん。ヒトの子よ。私は主のパートナーだ。たとえ主が泣き叫びながら拒んでも、手は離さん。」


 どこか恐ろしい響きを持った言葉にルキウスは考え込んだ。王族の言葉、決定は絶対だ。いついかなる時も判断を間違ってはいけない。そう頭では理解していてるからこそ常に精進してきた。たとえ、このままお飾りにもならずに城の中でいつか息絶えようとも王族として必要な知識を蓄えたのだ。教育係がいない中、兄の自慢話と両親の侮蔑の言葉から、必要な知識とは何かの手がかりをかき集め、図書室の本を全て読破した。だが、その知識で戦ったことはない。容姿のせいで土俵にも上がることすら許されなかった。その悔しさ、悲しさを包み込んでくれるような優しいパートナーと友人兼執事見習いたちの暖かい対応で忘れていた。民にとってはそんな事情はどうでもいいことを。我々のような地位のある者は、よほどのことがない限りはその地位や暮らしが崩れることは無い。だが、民にとってはそうではない、ましてやギルドの冒険者といった者で安定した生活をおくれている者の方が少ない。それに貴族間や王族間の社会の回り方など知らない、きっと誰でも同じに見えるだろう。嘆いたところで何も変わらぬことをある意味、私よりよほど知っている。私は王子として今から何ができるのか。ジンドは私と同様、容姿があまり良くなく、それでもあの地位に上り詰めた。それに比べて私は…


「主。不甲斐ない王など誰も求めん。私は感情の迷路に迷い込めと言った覚えは無い。励んできたのだろう?武器の扱い方を学ぶのは明日からだ。その前の敵情視察、どのくらいできたかと私は聞いている。容姿の不利だけに目を向けているが、正直今の主は容姿を抜いても王族として立つのはキツイ。ジンドが直々に指導係になるのだぞ?実力社会と言われる場所で何の実績もない主に。」


 珍しく心に刺さるような言い回しでルキウスに気づかせようとするシギにルキウスは、少ないギルドについての知識を頭の中でかき集めた。


「ギルドでギルド長や副長は雲の上の存在。本来なら指導なんてことは滅多に無い。ましてや、一般の冒険者と違い常に仕事があるから新人の、中級階級貴族の指導などしない。というか管轄外だ。だから…、立場が危ういということか?当然、周りの冒険者はよく思わないだろう。わざわざ時間を割く必要のない者に、尊敬に値する副長が指導など、よほどの面倒くさい貴族たちしかやらせないことをやらせられるのだから。彼がそんなこと予測できないはずがない。これを含めてか。」


「正解だ。だが、ヒントをやるのは今日までだ。」


「あぁ。ありがとう。」


「さぁ、ヒトの子よ。今日はもう遅い。早くお休み。」


 見た目は同じ人間の同年代なのに、声をかける様子は誇り高き長寿の精霊、いや神獣としての何かを感じた。


「お休み。」

次はアントニオinブリカダルです。(次のタイトルはここまでふざけていません。)

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