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闇夜のお茶会

 暗い闇夜に月明りをよく通すガラス張りの庭園ドームがある。庭園内に色とりどりの薔薇が咲き乱れ、花びらには水をあたえたばかりなのか水滴がのり、月光が反射して薔薇と共に神秘的な空間をつくりあげている。


 甘い香りが辺りに充満する中、薔薇の香りと相性の良い紅茶を用意した主催者。使用人たちに客人に紅茶をふるまうよう命じる。一見、夜中に行う風変わりな茶会に見えるが、和やかな雰囲気は見当たらない。


 庭園には、音や気配を遮断するためのあらゆる結界を張っている。集まっているのは、老若男女問わず様々な人間だ。使用人たちも含めて、この場には口の堅く主催者に忠誠を誓った者しかいない。注がれた紅茶を見た瞬間、人々は今日集められた意味を察した。


「今日、集まってくれたのに感謝する。この日のために取り寄せた茶葉だ。茶器の美しい装飾と一緒に楽しんでほしい。」


 茶葉に使われているのはシャーキ草、精霊教会本部の畑でしか生産できないものだ。


 元々、万が一人に聞かれてもいいように紅茶やお菓子で議題を伝えているため、この場にいる者は精霊教会が今回のお題なのだろうと瞬時に理解できる。


 シャーキ草の紅茶は健康に良いとされているが同時に匂いが強く、希少性が高い割には好む人は少ない。その反面、精霊の魔力回復としても使えるため、そちらでの方が需要はある。


「本当によき茶葉です。百合の装飾もとても美しい。」


 茶器に描かれているのは繊細で風にそよいでいるような白百合だ。これも議題についてのことだろう。シャーキ草の精霊教会本部、精霊教会本部で百合と言えば…


「シザルとはよい取引をさせてもらっている。特に品質の高い物をなるべく優先させてもらっていて申し訳ないくらいだ」


 百合はアルガディア王国の王族に古くから仕える三大貴族の一つリバニア家の家紋。そして主催者が口にしたシザルとはリバニア家の長男、シザル=リバニアのことである。


 本来なら精霊教会に貴族の長男が属することはないが、リバニア家は次男がいるため長男であったシザルを精霊教会に入れた。シザルは実質、リバニア家から縁を切られたもの。


 精霊教会としては、元とはいえリバニア家の長男を他の一般の信徒たちと同じ扱いをするわけにはいかず、本部の最高責任者である(アックス)の補佐の座をつくって与えた。


 当然、任命したばかりの時は、ほとんどの信徒たちが不満の声を上げた。しかし彼が優秀だったため、すぐに騒ぎは収まった。それから五年たった今では当時の斧は高齢だったため、シザルに最高責任者である斧の座を譲り、シザルはその実力から信徒たちの支持を集めている。


「シザル様と直接ですか?これは羨ましい。王や女王は精霊教会と繋がりを持つことを忌避されますが、上級精霊を従えやすい王家の方々こそ、シャーキ草を生産することのできる教会と繋がりを持つことは必要なことだと思うのです。この考えは不敬罪に当たりますかね?」


「いい顔はされないでしょうね。特に期待されている第一王子が繋がりを持つことには…」


「出来損ないの第二王子は?むしろ面白がるでしょうね。」


 主催者の目的はルキウスが精霊教会と繋がりを持つこと。特に、シザルと個人的な繋がりを持てれば王族として必要な民が得られる。

 

 また、どんなに王族をはじめ、貴族連中が精霊教会を嫌っていようが、精霊教会も今や大きな組織。精霊にとっても必要不可欠な存在でギルドにも大きな貢献をしている。


 出来損ないと見下している第二王子と落ちこぼれの寄せ集めだと笑っている精霊教会が手を組めば面白がるだろうが、いずれ無視できない勢力になる。もっとも、手を組んだ時点でそれに気づくことができる者は王族側の者にはいないだろう。


「第二王子が精霊教会の者たちと繋がったとして上手く動かせるとは思いませんわ。」


「ごもっともです。」


「使用人すらまともにつけてもらっていないのだからな。」


 ルキウスは王族でありながら、醜さのせいで人は寄ってこなかった。王や女王も醜いルキウスに使用人をつけるくらいなら、いっそ全てエバルスに付けてしまおうと考え、人として必要最低限の教育こそ受けさせたが、王族としての教育は受けさせなかった。そんなルキウスが人の上に立ったところで一体何ができるのか。政治に関しては独学でやってきたルキウスだが、実践はない。それこそが、この場にいる者たちが懸念していることだ。


カチャ


 主催者が紅茶をソーサーの上に置いたことで、会話が止み次の言葉を待った。


「ルキウスの精霊は見たところ、人の上に立つことに慣れているようだった。また、ついてきたあの男は執事として仕えるそうだ。それにいずれ王が動き出す。ゲッダ王国へのお披露目前に何としても第一王子に精霊を譲渡させるために。」


「何をなさるおつもりでしょう。」


「恐らく、儀式での異変の事を取り上げるだろうな。呪文詠唱前の魔法陣の光、突風、そして花びらを違法召喚とみなすやも。けど何か足りない。他国の批判を避けるには。」


 そう、物的証拠が何も無いのだ。他の事ならまだしも、精霊に関しての犯罪を作り上げるなら物的証拠が必要なのだ。


「まさかっ、強制発芽をでっちあげるのでは?」


「そのような、大罪をっ?」


「一国の主がそのようなことをするとは信じ難いが、物的証拠を作り上げるならそれが一番だろうな。」


 強制発芽、この世界での生を終えた精霊を強制的に自分の精霊として召喚することだ。花である精霊の種となった姿、つまり主が死に、役目を終えた精霊の死体を再利用する大罪行為。


 主が死ぬと、精霊も死んで花から種へと変わる。見た目はビー玉サイズの種になり、きれいな川のある森林に埋めることでいずれ元の世界に戻り、再び精霊として生を取り戻す。


 だが、稀に上位の精霊の種を盗み、召喚する者がいる。そして、強制発芽に必要なのは自分の血とシャーキ草の原液、そしてラヴィオラの花。


 ラヴィオラの花は非常に高価な花で、それこそ手に入れられるのは上位貴族や王族だろう。さらに、ラヴィオラの花は紫色で儀式中にルキウスの周りで舞っていた花びらと同じ色だ。王が異例な儀で起こった事を記録させていないわけがない。当然、花びらは証拠として回収させてあるはずだ。どうせ、それっぽい証拠さえあるなら、それが本当にラヴィオラの花か確かめないだろう。そして強制発芽による召喚は認められない。


「だが、その場合精霊は元の世界に帰すのが決まり。あぁ、そうか譲渡というのはただの脅しか。」


 要するに、第一王子の顔を立てるというだけなら、わざわざ他国の批判を浴びたり精霊王の怒りを買うリスクも負わなくていい。そもそも、ルキウスが精霊持ちになるなど誰も思っていなかったのだから召喚自体を間違いだったとすれば、多くの批判はルキウスに集中にするだろう。恐らく国にルキウスに関しての管理責任を問われるだろうが、エバルスがそれを解き明かしたことにすればそれも、少しはましになるだろう。譲渡をしろというのは、ルキウスがいずれ譲渡可能な時期になったら自分から精霊を差し出すと思っているから、もし差し出さなかったら大罪人として吊し上げる。そうなれば、もう王として人の前に出る事は叶わない。

 誰もがその結論に至った時、黙って主催者を見た。これからの自分たちの動きにこの世界の未来はかかっている。


「第二王子たちはギルドに行くらしい。やはり、社交界で味方を募るのは不利だろうからな。いすれにせよ苦労するだろうが。そなたたちもギルドと繋がっている者は多いと聞く。貴族と繋がりのあるギルドの者はほとんどが支援を受ける代わりに貴族たちの仕事を秘密裏にこなしている。必ず、第二王子を潰すよう命じられている者たちが障害になるだろう。そこで挫折するか良い経験として身につけるか。」


これは命令だ、ルキウスを育てろという。事態を動かし、ルキウスに人の上に立つ者としてふさわしくなるように鍛え上げることで自ら王の策略から抜け出させろと。人々の間に緊張感が走る。


「これはどうなるやら。」


「今宵はこれでお開きにする。」


「失礼します。とても良き茶会でした。」


主催者がお開きの合図した途端、全員が立ち上がりお辞儀をした瞬間、転移魔法で次々と退場していった。一人残った主催者は黙って、空を見上げる。ルキウスに試練を課すなど本意ではない。しかし、この世界の存続のため、ルキウスの幸せのために他に方法が無いのも確かだ。目を閉じれば思い出すのは、涙を流す薄い青い目と長い白銀の髪。昔の記憶を、頭の奥底にしまいこんでゆっくりとした足取りでその場を去った。^






精霊教会については次回、もっと詳しい設定を書きます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 文字がぎゅっと詰まっていて少し読みづらいかもしれません。 ストーリーはすごく面白いので、引き続き読ませていただきます!
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