四つの頭蓋
お久しぶりです。
ついに内部に入り込みました。
五百年前の王城。
「どうしてこんな事に」
「一体、何が原因なんだ!」
「兵の損失は…!魔法兵団を…!」
外では阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっている。王城や王宮の中でさえも酷い惨状が広がっている。生き残った技術者が必死に冷静に頭を回して、原因を解明をしようとしている。
「エルメニア、精霊王の貴方なら何か分かることはあるかしら」
桃色の長髪を高く結い上げ冠を被る女性が室内の壁際で縮こまっている人間の見目をした女性の元へしっかりとした足取りで歩み寄った。
「貴方があくまで力を持っている精霊という意味で精霊王という称号を持っているのは知ってる。けど今は色んな人の力を借りて状況を打破しないといけないの」
「エルメニア、私からも頼む。民の避難もまともに進まないんだ」
「その、あの」
自身の手をあぁ、どうしようと祈るようにすり合わせ、揉むエルメニアと呼ばれた女性が上手く返答できずにいると、
「できるわけがない」
突如割り込んだその声は、異常、異常。
脳の許容範囲を超えた現象が無理矢理それを人の型に押し入れて、視界に入ってきた。
「嘘の代償、払ってもらうぞ」
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「兄上を刺激したくない。夜中に動こう。シギ頼めるか?」
「あぁ、勿論だ」
せっかくキーニャたちが勘ぐられないように動いてるのを邪魔したくなかったのもあったルキウスはゲッダ王国で頑張る二人に合わせて隠密行動を取ることにした。
「ルキウス殿下、私はこの辺で失礼させていただきます」
「そうか、ご苦労だった」
「いえ」
シザルが退室しようと扉に近づくのをルキウスは静かに目で追っている。
「…そなたが、私に協力してくれるのは信徒たちを守るためだと認識している。これまでの功績を含めてその想いは本物だと確信している」
「えぇ、殿下がおっしゃった通りにございます。それがいかがされました」
「過去の事に関して、そなたの姿勢のばらつきが気になっている。これが私の本心だ」
シザルにとって痛いところを突かれたも同然だった。少し前のルキウスなら気付かなかったかもしれない。しかし、シギと契約してから人々の態度の変化を目にして敏感になった。
「いずれ引き出して見せよう。そなたの言葉を。考えではなく、本心を」
「…失礼いたします」
それに対しては言葉を返さずに黙って退室していった。
「双緑花様は危険です」
精霊教会の斧の執務室にジンドがいた。王族の精霊召喚以降、こうして集まる回数
は一気に増えた。
「それは、どういう意味だ?」
口頭での報告でも記憶に自信はある双方だが、書き残した方が後々確認はしやすい。書類をめくって己の中の確認事項とすり合わせていたジンドはシザルの言葉に顔を上げた。
「あの方はこちら側でしょう?些か情報を出し過ぎかと、ただでさえ変更点が多いのに」
「なら今からでもバルトイ家をこちら側に引きこめばいい。元々、ゲッダ王国側と例の人間は第二王子の精神のためにもそのままでいてもらおうという話だった」
「バルトイ家を引きこめば白の子が手に入る。白の子が手に入れば、双緑花様と接触できる。えぇ、双緑花様を説得する機会さえ頂けるなら。ですが、あの方はあまりにも人とは違い過ぎる」
「あの方を思うのなら絶対成功させろ。第二王子を思うのなら、計画が露見しない程度にこれまで通り協力すればいい」
「…」
シザルには迷いがある。自身が五百年前の魂の生き残りと知ってからずっと抱え続けていた。
「一応伝えておくが、双緑花様は計画の事は知っているとのことだ。お前と同じ状況だろう。尤も、どっちにつくかは決心されておられるようだが」
「私は最後まで変わらない。立つべき場所は決めている」
「貴方だって新王のっ」
「関係ない。忠臣とはただ命令を遂行するだけの人間ではない。そして卿がどちらについても私は構わない」
まだ月光は煌々と部屋を照らしている。今頃はルキウスたちはあの場所を探索している頃だろうとシザルはやりきれない思いをほぼカーテンの隙間から見える夜闇に無理矢理流した。
シギの術によって図書室の穴が塞がれていく。目の前の完全に塞がれたのを確認すると、既に灯されてる蠟燭がのるアントニオの燭台のに加えてルキウスが魔法で炎の灯りを点けた。
例の絵画、座っているルキウスによく似ている男とその傍らで立つ初代国王が描かれているそれが掛けられた壁の一部は綺麗に長方形の切れ目が入っていた。試しにルキウスがぐっと手で押すと、ゆっくりと押した側奥に動いた。反対側は逆に手前に動く、回転扉だった。
灯りを向けても少し開いた先の空間には暗闇が広がっており、覗き込むルキウスをシギがやんわりと自分と位置を入れ替えさせる。
「主、アントニオ。私から離れぬようにな」
「あぁ、よろしく頼む」
「いざという時はマジでよろしく」
決して小さくない光だが、それでも目の前と左右に広がる闇は深い。
靴音を鳴らしながら前に進んでいくと、ふと金属製の塊が視界に入る。ルキウスとアントニオが灯りを近づけると巨大なシャンデリアと分かる。受け皿らしきものの上に蝋燭は無く代わりに幾何学模様が彫られてる。
「魔法陣か…?」
ルキウスが近づいて受け皿に触れると埃の感触がする。試しに魔力を流してみると、陣をなぞるように黄色味がかった光が走り、ぽうと光の玉が幾つも浮かぶ。
じゃらじゃらじゃらっ
明かりをたたえたまま、シャンデリアがぐんとひとりでに天井まで高く上がった。それを合図に、奥にまだあった数個のシャンデリアがひとりでに順番に灯りをともし、上昇していく。
一気に明るくなり、全体像が見えた。
謁見の間とは正にこれかと言いたくなるような豪華絢爛な大広間の一部が見渡せる。部屋の途中から図書館に改造されているからか、半円形の空間に三人はいた。どこも年代を思わせる様相だが、気品までは褪せていない。
シャンデリアに浮かぶ灯りがよく反射する金色の模様に少々古びているが恐らく白地の壁、床は少し磨けばすぐ光沢のある木目が見れるだろう艶らしきものが時折ちらつく。中央奥に視線を導くような床と壁の模様に従って目線を動かすルキウスたち。
「あ…」
ほつれ一つない赤い布地が張った玉座が二つ、そこにはあった。それらは絵画の中のものと似ていて本当の、この国を統べる者が座すべき場所。長らく空席だったのだろう、埃でくすんで見える金の玉座が装飾とは正反対に静かに在った。
足がそこを目指すのは自然なことでルキウスに続き、アントニオ、シギが玉座に向かう。座しか見えていなかったルキウスとアントニオだったが、あと数歩のとこで段差の先、玉座の手前に小さな白い何かが転がっているのが目に入る。
「っ…!」
「これって…」
ルキウスが息を飲み、アントニオは驚愕で声を零した。そんな二人の間からゆっくり出てきたシギがそれを覗き込む。
「人の骨だな」
「そ、だけど、このサイズは…」
「幼い…」
子供の骨が辺りに散らばっており、その頭蓋は一つではなかった。一つ、二つ、計四人分の骨はそれぞれ僅かだが大きさにバラツキがあった。一番小さな骨は赤ん坊のものに見えなくもない。
「なるほど。神格を下げたか」
一応この後の展開はあるので二ヶ月も空きはしないけど、調整するので情報量は少なめになりました。活動報告書もこの後出すので良ければ楽しんでください。