もう一人の凡人1
一ヶ月ぶりの投稿。またスランプ気味になっていたので結構きつかったですね。
暗い部屋の中、それほど高級でもない椅子に座る人間とその傍らに立つ人間がいた。
「第一王子の思惑にのった者はこれで全てか」
茶会の主催者はギルドに行動制限を課された貴族たちの情報が載った書類を直立姿勢のジンドに返す。
「はっ」
「やはりもろ共処分すべきか」
「大混乱が起きましょう、その人数は。利用できそうな者は残しておくべきかと」
「ジンド、お前が私情を挟むなどらしくない」
助言の裏の意図を顔も見られる間でもなく見透かされたジンド、彼も同じく茶会の主催者の言いたいことを読み取った。
「当初の計画通りにだ、ジンド」
「仰せのままに」
自分を慕ってついてきた者に酷な役目を任せている自覚はあった。しかし、ジンド以外にそれを務め上げられるような実力、度胸、胆力を持った者はいない。
ジンドは茶会の主催者からの信頼を感じる度に拳を握りしめたい衝動に駆られた。
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紅茶と菓子が用意された机にルキウスとダクトが向かい合うかたちで座っている。
「そなたにも協力してもらうかたちになるだろうから先に言っておく。私は兄上と王位を争うつもりだ」
「なっ」
ダクトが驚愕する、あまりにも無謀な考えとしか言えなかったのだ。
「どのくらい不利であることは理解している、中途半端な状態では勝てない。作戦を練ってる最中、そなたたちの襲撃があったが、寧ろおかげで判明したことは大きい」
「判明したこと?」
「恐らく手記にも関することだ。そなたの先祖が嘘の使命を継がした理由はまだ掴んでいないだろう?」
「はい」
襲撃が無かったら発覚が遅かったこの世界の状態、それと各自が持っている記憶についてルキウスは話した。シギはいずれ折を見て話していただろうが、結果的に襲撃事件はいいきっかけになった。
「先祖に一体何の利益があったというのでしょう」
「それこそ当時のことが分からなければどうにもならない。別の問題もある、カレハテタモノの社会進出と共に絶対と思われていた精霊の軽視が増加している。多くは無いが少なくもない」
白の子たちとダクトを追い詰める予定の実行日前に、ジンドからギルドに行動制限を課貴族たちについての書類をルキウスたちは貰っていた。
記載されていた貴族たちの悪行の中には精霊に対しての虐待もあった。貴族にとって精霊の位、絆は貴族たちの中で差をつけるために重要な要素。それを壊すような行為をするのは普通に考えておかしい。
「最近のこの問題が五百年前と繋がっていたら?」
「と、おっしゃいますと?」
「これを見てくれ」
ルキウスは自身の傍らに置ていた紙の束を広げてダクトに見えるようにした。
「これは…、シミとヨドミの目撃数と討伐数、被害者数の年間推移、でしょうか?」
「そうだ。報告されていないのも含めて少しズレはあるだろうが大まかな数字は変わらないだろう」
ルキウスはある仮説を立て、それを確かめるためアルガディアとゲッダの精霊教会からシミとヨドミの討伐に関しての書類を見せてもらっていた。結果、討伐数、目撃数、被害者数、全ての項目が減少、ひいては発生数が減少傾向にあることが分かった。
「私たちが洗脳、またはそれに近い状態にあるということは手記からも確定だ。それが容姿主義、そしてその上をいく絶対とされた精霊尊重主義の風潮をつくっていたとしたら?」
ダクトが目を見開き、前のめりになって興奮気味に喋る。
「ヨドミとシミに触れて人々はおかしくなった。原因であるヨドミたちが少なくなってるから私たちだけでなく他の人たちの洗脳も解けていった!」
「そうみている。だが、仮説は仮説。それに洗脳を完全に解くのは難しいだろう、恐らく代を経るごとに狂った原因となる何かが薄まったのではと考えている。だから調査をゲッダと精霊教会と一緒に進めるつもりだ、勿論そなたにも。真実が明らかになれば、世界のためやらなくてはならない事が明確になるはずだ」
そこまで話すとルキウスは今一度姿勢を正す。それを見たダクトも前のめりになっていた姿勢から急いで座りなおす。
「この世界の救済、ゲッダ王国との付き合い方の見直し、精霊やこの社会に関しても見直すべき点はあるが、それも過去に何があったのか知らねばならない。そして知ったとき王位がなければ世は変えられない」
ダクトがルキウスの言葉に聞き入ってる時、シギは外に気配を感じて探っていた。
(迷いのない歩の進めかた)
動く気配が扉の前に来て数秒後、扉が派手な音を立てて開く。開いた扉の奥から登場したのはエバルスだった。
「こんなとこにいたのか愚弟。わざわざこの私に王宮まで足を運ばせて」
演技がかった身振り手振りでゆっくりと歩きながらルキウスが座っている椅子に近づく。自分が入室しても立ち上がる様子を見せないルキウスの態度が気に食わないのか眉をしかめる。
「お呼びしたつもりはございません。それよりもなにか御用でしょうか?客人の前でございます、兄上」
「良からぬ噂が城と宮殿内を巡ってると臣下たちが騒いでいる。なら次期王としてそれを収めるべく動いたまでよ。それで…?」
座ったままルキウスは身体はおろか顔もエバルスの方には向けずに話す。
当然、先ほどの話を聞いたとしてもルキウスのような態度をとるわけにはいかないダクトは入室前には立ち上がり、礼の姿勢をとっていた。
「この私と王座を争うと?上級精霊様を奪っただけでなく、王座を?調子にのるな」
エバルス、王族側には現在、ルキウスとシギを引き裂くための策は無かった。
一ヶ月が過ぎ、パートナーとの問題が軽視される期間は終わった。だが、キーニャたちが立ち上げた機関、精霊教会にルキウスが正式に関係すると既に発表されてしまった。
協力してくれる貴族たちを下手に動かせば、精霊機関や他貴族に潰される可能性がある。かといってエバルスたちがこの時期に自らルキウスの冤罪をでっち上げれば、貴族たちはともかく精霊機関は間違いなく疑う。
「兄上にご足労いただき、嬉しいことこの上ないです。しかし、それは憶測では?」
「ふん!いくら臣下のためとはいえ、この私が憶測だけで貴様一人に会いに来るとでも?お前と違い予定というものがある。今日はフィオレナーレ嬢と会う。だから庭園の方にはちかづくなよ」
「そうでしたか。気を付けます」
「ふん!」
最後までダクトに見向きもせず、扉を閉めないまま去ったエバルスの足音が消えるとやっとルキウスは扉の方に目を向けた。その表情は何かを考えているようにも、無感情にも見える。
アントニオはルキウスの目線を気にしながらもゆっくりと伺うように扉を閉めるが、ルキウスが何も言わないのを確認して謎の安堵に包まれた。
「フィオレナーレ嬢に…」
緊張が解けたのかやっと姿勢をやすめたダクトの言葉に雰囲気を変えたかったアントニオはその言葉にとびついた。
「フィオレナーレ嬢、というのはどういった御方なのでしょうか?」
「兄上の婚約者だ」
今回も活動報告書はないです。ちょっと書ける状態じゃないです




