祝いの花は答えと共に
駆け引き台詞ちょっとは上達しましたかね。いつもより文字数多めですが台詞多めなので読みやすいかと。
ニーロの処刑が告げられる前の二日間、ダクトはひたすら魔力回復薬を飲んで魔力の供給を絶やさなかった。一度かけた魔法は相手が破らない限り、もしくは流れる魔力が絶えない限り効果が続く。
ニーロにかけた身体強化の魔法が消えてしまったらと思うと恐怖で手が震える気持ちだった。しかし、同時に手記に関しての疑問も尽きず、正常な判断をするための精神は徐々に蝕まれていく状態に陥っていた。
(もしあれが事実なら、いや罠かもしれない。魔法でなら改ざんなどいくらでもできる。しかし事実なら?だとしても彼らはどうなる?今までの先祖たちの思いは?間違っていたら全てが台無しに…。私が)
彼が願い、背負っているのは白の子たちの未来、独断で決める事などできなかった。かといえ、父に頼ることも出来ずにいたのは、現状を知られたら間違いなくニーロを切り捨てる決断をするとわかっていたから。引退したとはいえ、大勢の命のために一人の命を捧げる事を躊躇なくできる男に主導権を渡したくなかったのだ。
結局答えは出ないまま、処刑日が告げられた。
コンコン
「ダクト様」
「何用だ」
「第二王子とリバニアの者が来ました」
「なに?」
通しておけと言った部屋を足早に目指す。その際、厚めの生地が擦れて音を立てるが気にしていられない。
入室すると既にソファーに座るルキウスとシザルがいた。
「当主不在時に連絡も無しに来て申し訳ない。ダクト殿。精霊教会にも関係する話故、シザル殿も同席してもらっている」
「お気遣い感謝申し上げます。寧ろ殿下自ら足を運ばれるなんて…。御用件をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「ゲッダ王国には様々な植物があるがナヴィオラの花は無い。戴冠式は既に終わってしまったが、改めて祝いの品を贈りたいのだ」
「またゲッダ王国に訪問する予定があるのでしょうか?」
「気になるか?」
ルキウスに挑発的な目を向けられて一瞬、ダクトがひるんだ。
「いえ、出過ぎた真似を…、お許し下さい」
「よい、近く発表される事だが、ゲッダが立ち上げた新機関と聖霊教会の共同研究が本格的に始まる。それの打ち合わせも兼ねている」
「何を研究されるのでしょう?」
「シャーキ草です。ゲッダ王国での生産量を上げるための研究を行う予定でございます」
「さっ、左様ですか」
会話に割って入ったシザルの態度を気にする余裕も無くなってるのは、この会話の本当の意味に気づきつつあるためだった。
ニーロの命はルキウスたちに握られている。実際、シザルを襲ったはずのニーロがセタンタを襲った犯人として発表された時点で彼らは繋がっていることは明白だ。
「よい、紛らわしい聞き方をしてしまったな。二日後という緊急な依頼だ。無理は承知しているため、褒美は弾もう」
「ナヴィオラの花がそんな重大な国交のための大事な贈り物になるなんて…。代々、洞窟を管理している家の者として誇らしい限りです」
「あぁ、大事な物だ。多少、懐が痛んでも手に入れたい」
「懐が痛んでも、ですか…」
「ダクト様にはございますか?懐を痛めても欲しいものは?」
「シザル殿…」
「ご存知の通り、私は貴族の身分を剥奪佐された身。ですが、教会の総責任者の地位を得ました。私の行動理由は全て信徒と教会のため。我が身を削ってでも信徒たちの安全と将来を手に入れたい。ですが、時々恐ろしくなるのです。私の決断のせいで損なわれる者が出るのを…」
わざとらしいため方に下向きの視線。
「そして、これで正解のはずだと思っている決断を責められ、この地位から追い落とされやしないか。もし落ちてしまえば二度と実行できなくなるでしょう。それどころか全てを失うかも」
「シザル殿はどうなされたのですか?」
「責められる覚悟で実行しました」
「……」
「っと、申し訳ありません。御二方の邪魔をしてしまいました。お許し下さい」
「いえ」
「そなたは急に話を振って答えを出させるのが好きだな。その話、今でなくてもよいだろう」
「何をおっしゃいます殿下。ゲッダ王国との会談後では遅いです。忙しくなる故、ここで親交の芽を撒いておかないと」
ルキウスの言葉でさえ演技臭く感じられるダクトは、一体自分がどんな顔をしているのか気にする事もできなくなっていた。
(試されている。もし私が全てを捧げればニーロは…、それとも知らぬふりをして今の地位を守るのか。期限は…)
「今回は責任を持って、私共で採取します。いつまでにお届けすればよろしいでしょうか?」
「二日後の午前九時。頼めるか?」
「全力であたらせていただきます」
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とりあえず進めさせたナヴィオラの花の採取。もう届ける準備自体は出来ているが、心の準備はまだできていない。もう期限は明日だ。
部屋に戻ってベッドに腰掛ける。
ポケットの上から手記の存在を確かめる手の動きは最近癖になりつつある。そして厚み無く下ろされた手の力に逆らう物体は無かった。
「っ!?」
ハッとしてあちこち服と腰掛けていたベッドを探すが見当たらない。
見回していると見覚えのない折りたたまれた紙が、探していた手記と共に机の上に置いてあるのに気づく。手に取って広げて見ると置き手紙だとわかった。
「ダクト様が私たち白の子を大事にしてくれている事は理解しています。そしてニーロを友として特別に思っていることも。ダクト様が近頃、何かに悩んでいることも理解しております。ですから、私たちが貴方様の憂いを払いたいと思います。最早減少しつつある白の子の未来を何とか切り開こうとしてるダクト様の思い、先祖の思いをここに来て踏みにじるような真似をして申し訳ございません。まだ訓練中の子供たちは三軍以下の手により第二、第三施設に避難済みです。私たち一軍から三軍は成すべき事を成します。ダクト様に家族のように扱っていただいた事は忘れません」
地下に急いで駆け込んで扉を開くが誰もいない。
「逃げたのか?」
「父上…」
後ろを振り向くと白髪交じりの髪に髭を蓄えた男がいた。
「全く。お前がどうしてもと言うから指揮権を渡したというのに、やはり私が」
「彼らは逃げてなどいませんっ!父上はこれを見たことありますか!?」
手記を父の目の前に掲げる。
「知らん」
大して興味も無さそうに答える父をダクトは睨んだ。
「そうですね。貴方はそうでした。白の子を助けるのが使命なのにっ、貴方の命令でどれだけの白の子の命が散ったことかっ!」
自分以外の先代たちが手記を見つけられなかったのは、今まで白の子たちの居住区にそこまで立ち入らなかったからだと、ダクトは推測していた。
保護する者を訓練し戦いに向かわせる家の方針に疑問を持ち続けていたダクトは、ニーロの件と他の白の子たちの特攻で暴走状態に陥っていた。
「大勢を助けるため、未来に繋げるのに多少の犠牲はつきものだ。それを分かっているからどんな力を持っているか分からない精霊持ちの泉の元に白の子たちを行かせたのだろう」
「違いますっ!私はっ、私はっ、怖かったのですっ。父上に無理を言って指揮権を譲って頂いたのにも関わらず、自分が彼らの命を背負う覚悟ができていなかったっ。それをあの手記を見つけるまで自覚すらしていなかったのですっ。私の考えでっ、意思で彼らの人生をっ、希望を潰すのが恐ろしかったっ」
ダクトの告白を父は静かに聞いていた。その表情には驚きも呆れもない。
「今はどうしたい?」
「恨まれて、殺されてもいい。貴方や家を巻き込んででも、私はこれを殿下に伝えて白の子の保護を乞います」
「恨まれる事も殺される事もないだろう。お前は彼らに愛されている。好きにしろ」
そう言って自室に引き返す父の後ろ姿を最後まで見る前に、抽出した魔力回復薬が置いてある部屋に走っていく。乱暴に瓶をひっつかむとありったけの量を体に流し込んだ。
手を地面の方に向けると魔法陣が展開されていく。地図を開いて目的地を思い浮かべながら転移魔法を発動するとダクトの姿は消えた。
今回も活動報告書書けません。




