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魔脈と土産の準備

ゲッダ王国でシャーキ草の生産が少ない理由が出てきます

-------------------五百年前のとある日-------------------------


「陛下。こちらをご覧下さい」


 ふくよかな男が広げた計画書には、建設予定の庭園の図が載っている。


「精霊に頼らない文化を作るため、まずシャーキ草とナヴィオラとラヴィオラの花が生産できない環境を作ります」


「だから魔脈(まみゃく)を」


 魔脈とは地中に張る魔力を放出する根のようなものであり、魔力を得て育つシャーキ草、ナヴィオラ、ラヴィオラの花には必要不可欠だ。計画書を見せられた白銀の髪の男は、手でもてあそんでいた王冠を机に置いて身を乗り出す。


「かつては魔物や人々が協力しあい、己の魔力だけでどうにかしてきたのです。何より、今の精霊は隣人というよりかは、自身に箔を付けるだけの存在となっております」


「だがここに住まう者はどうする?この庭園型住居に先の研究員達だけを住まわせるわけにはいかないだろう」


「既に見繕っております。王家、何より私たちの方針に賛成してくれて他の貴族と縁の薄い方々で森近くの離宮に住んでおられる」


「リパウ夫人!」


「亡きおじい様の三番目の側室。夫人の実家は既に先の大戦でなくなった。今、縁あるのは我が王家のみだが…。よもや、それを盾にして引き受けさせたのではないな?」


 凄みが増した声を発するのは白銀の髪の男。


「まさか。私がそのようなことをしないのは陛下がよく分かっておられるはずかと」


「当たり前だ。ただあの方が協力してくれる理由がな…」


「実家の件もありますが、元々今の社会風潮に嫌気がさしてこもられたので、それを変えるのなら力を貸すと約束して頂きました」


「そうか」


 そう言って白銀の男がふっーと息を吐いて執務室の背もたれに身を預ける。


「やはりお前より城外の貴族を知らぬ。母上と父上の過保護も考えものだな」


「結果的に精霊王のエルメニアと繋がれたからよかったものの、父上たちの判断は正しいかと」


「それで?次期精霊王の育成計画は?」


 もう話は終いだと言わんばかりに違う話題で逸らす王にふくよかな男は苦笑しながら書類を手に取る。


「候補の精霊たちから同意を得ました。精霊王になるのには多くの魔力が必要なため、魔脈を大樹に集中させます。そして大樹の真ん中に精霊の殻を埋め込み、集中させた魔脈で直接魔力を注ぎます」


「数百年後には新たな精霊王、そして精霊に頼らない習慣の地が出来上がっていると。大樹の育ち具合はどうなっている?」


「研究員と庭師が共同で確認しながら急速成長させております。周辺の精霊、魔物から生態系を学びつつ庭の調整を進めていくつもりです」


「そうか。全て順調だな。こちらも周辺の国との話し合いは問題ない。大樹の事を先に話しておいたから警戒されることはないだろう」


「ありがとうございます。陛下…?」


 急に自分の髪をいじり始めた白銀の男の様子に思わず声をかける。


「あぁ。エルメニアがな、この髪色が息子にも遺伝するかもと」


「あぁ、何か問題でも?兄上の髪は元々銀色ですし、綺麗ですよ」


「いや、どうせなら妻の愛らしい桃色の髪色を」


「はいはい」


----------------------------------------------------------------------------------------



「これルキウスだよね?」


 思わず指を指してしまい、まずいと思ったがルキウスはルキウスで別の何かに注目していることに気づいた。


「ルキウス?」


「このようなジュッセ陛下の絵画は見たこともない」


「周りの人たちは?このルキウスそっくりの人とか?」


 言われて初めて周りの人たちに視線を移したルキウスの瞳が少し揺れて動揺しているのが分かった。


「いや、この者たちも知らない」


 どうなっているんだとアントニオが動揺している横でルキウスが息を吐いて気を落ち着かせる。


「この絵は後にする。先に頼まれていた史料を探そう。シギ、隠してくれないか」


「あぁ」


 再び史料探しに戻ったルキウスだったが、それらしきものは見つからない。


「あのさ~」


 とりあえず歴史系の本を手に取って関連する情報が載ってないか調べているアントニオが二人に話しかける。ルキウスたちは顔を上げてアントニオに注目するが、アントニオは視線を本から離さない。


「正直、さっきの絵画もそうだけどさっきみたいに隠し部屋?みたいな空間があちこちにあって、そこに色々あるんじゃね?」


 ふむとルキウスは考える。図書室の本は読破済みのルキウスにとってこの作業は念のためというものだった。正直、記憶に残っていたらすぐに出てくる。


「少し待ってくれ、地図を持ってくる」


 そう言って五分ほど経つと紙とペン、地図を持ってきた。図書室の机に置くと地図を見ながら簡易的な上から見た王宮の内部地図を描いていく。


「ここが私たちがいる場所だ」


「全体像初めて見たけど縦長なんだな。真ん中が膨らんでるように広くて…」


「主要な部屋の殆どが真ん中とその奥に集中しているな」


 図書室があるのは膨らみのように大きい空間の中心部分。使用人区域も縦長の王宮の真ん中の左奥と後ろ端の奥のニか所とばらけていて奇妙な配置だった。


「外から見ると違和感無かったけど地図を見ると前はどちらかというと…」


「主」


 シギの声で地図に這わせていた手を止める。


「襲撃者の周辺位置の詳細が分かった」


「おぉ」


「忘れてた」


 キーニャたちとの会議では捕虜だけが唯一の手がかりという感じの会話だったため、アントニオはすっかり忘れていたのだ。


「ってことは、かなりの距離にいるってこと?」


「いや、魔脈がいじられていて付けた痕跡が追いにくかっただけだ」


「「魔脈?」」


 ルキウスとアントニオが同時に声を上げる。その反応に驚いたのはシギだった。


「アントニオはまだしも主、魔脈を知らないのか」


「すまない、聞いたことが無い」


「主が聞いたことが無いということはゲッダ王国側は当然知らないな」


「だろうな。いじられていたと言ったな。ならばそれも消された知識の一つと考えられる」


「うむ、魔脈は地中にはる魔力の根のようなものだ。それを通して魔力は大地から世界に放たれる。この魔力と生物が持つ魔力は区別がつくが、犯人が逃げた先は魔脈が密集させられていて私の魔力が埋もれて見えなかったのだ」


「ご歓談中の所、申し訳ありません。シザル様がお戻りになられました」


 メイドに話しかけられて咄嗟にそちらの方を向く。


「ご苦労。部屋に案内せよ」


「かしこまりました」


(執事の館では大分気遣われていたのに…。王族に仕える使用人となると階級がまた上なのか、それとも現国王夫妻の命令のせいか?)


 急ごしらえのアントニオでも分かるほどに気の抜けた姿勢のメイドに対し反感を覚えたが、それを抑えて執事としての姿勢をとる。


----------------------------------------------------------------------------------------


「報告に上がりました。殿下」


「かけてくれ」


 用意された茶菓子と紅茶が少し減った頃、シザルの報告は終わった。


「どうなさいますか?」


「そなたは以前言ったな、守るべき下の者がいれば自然と心が奮い立つと」


 そこで一旦言葉を置くとルキウスはゆっくりと笑みを作る。ルキウスにも皆にも確かめねばならない事が山積みの今、手段を選ぶ時間が惜しい。


「居場所は分かっている。この者はどうなのか、土産でも持って確かめにいこう」


「御心のままに」


 初めてシザルがルキウスの策を気に入った瞬間だった。

報告書暫く書けないかもです。次回はルキウスたちとダクト青年の話し合いです。

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