新たな伝承候補と零れる決意
最近、本当にこの下りを書くのが難しくて…、迷走してない?って思われてないか不安なこの頃。
同時にそれでも最後までついてきてほしいと思うこの午後。勉強会続きで飽きているかもしれませんがついに捕虜に本格的な動きが出てきます。
「誤解させたな、精霊王自体がいないとは言っていない。何より私もまだ疑いの域をでていないが、精霊王が真に人型であるなら。一番、暴走しやすかったのは彼女だったはずだ」
『なぜかしら?』
なぜ五百年前の精霊王の状態が推測できるのかと再びペンを構え直す一同。
「精霊が人型になれる方法は大きく分けて二つ。一つ、莫大な魔力を得ること。これは得る方法にもよるが、精神が不安定になることは少ない。二つ、人と同等の感情を持つ、部類としては、そうだな…執着だ」
『感情を持つことが精霊を人たらしめるの?』
声の主であるキーニャに向けた顔は、今まで無表情に近い顔で解説していたとは思えないくらい表情が出来上がっていた。
「たらしめるとも…。感情を持つ生き物は多い、しかしな、人は重いのだ。一つ一つの感情が途轍もなく。元々、感情があまり発達していない精霊にとっては過ぎた刺激物よ」
『確かに、同種族でここまで憎み合い時には利益のために全てを犠牲にする、生きるのに非効率的な選択をここまで多く重ねる生き物なかなかいないでしょうね』
そう言って少し口角を上げるシザルは、まるで自分は違うと言わんばかりで、しかし自嘲の笑みにも見える。
「世界を崩壊させかける事件を起こし得る要素、候補として上げておいたまでだ。だが、崩壊と同時にヨドミとシミが誕生し、罪歌はヨドミとシミに向けてのためのもの。なら、精霊王を疑うのは道理だろう。何より、あまりにも召喚陣の仕組みが精霊の弱点を突いているのだ。同胞でなければここまで分かるはずない」
その言葉にシザルが自身の質問の答えが入っていることに気づく。
「確実に違うもの以外、伝承通りに辿っていこう」
ルキウスが新たに大きい紙を引っ張り出す。
「伝説通りだと、精霊王は初代国王に声に応えて来た。でもそう名乗ったとは限らない、最初に書き残した人や後世の人間が精霊王と名付けた可能性もありますよね」
「いや、子供向け絵本では省略されてそうなっているが、他の文献では精霊王と名乗ったと書かれている」
アントニオの言葉にすぐそばにいるルキウスが訂正する
子供向け絵本でしか知らないアントニオにも分かりやすいよう、ルキウスたちが補足を入れながら伝承通りに進めていった。
その結果、一番可能性の高い新たな伝承が完成された。
五百年前以前の暗黒期から魔法は存在。精霊王が精霊の召喚陣ならぬ強制服従の陣を教えた。魔法での精霊の強制服従が始まり、ヨドミとシミと化した、もしくは発生した。王と精霊王が接触、罪歌を与えた。
そこまでいったところで彼らは中断せざるを得なかった。ヨドミとシミの誕生の後に、精霊召喚の交渉、魔法の教授が起こり得るはずなかったためだ。
王、ひいては人間側と精霊が出会った過程は不明。ヨドミらの出現を狙っていたのか、事故なのか。王と精霊王の本当の関係とは、と未だに疑問は尽きない。
『この通りだとすると、同じ精霊であるはずの精霊王が人間に魔法と強制服従の手助けをしたってことになる。シギさんの人の感情を持って人型になった説が有力になってきたね。不安定な精神になってるならやりそう』
『謎の男、この人はどこから出てきたのかしら』
「適当に出したにしては特徴がありすぎると思います。それともあえて特徴を付け加えたのでしょうか」
まるで余り物のようになってしまった登場人物である謎の男に関しての議論が始まるかと思いきや、キーニャが机に突っ伏しそうになっていた頭をもげる勢いで跳ね起こす。
『僕たちは魂の生き残り、だから本当は五百年前に存在していた可能性が高いんだよね?謎の男は薄銀色の髪、ルキウスの髪色は白銀、似てると思わない?それにヨドミとシミに触れるとおかしくなることは証明されているんだし。僕たちが唯一当時、触れられていない存在だとしたら生き残りの意味が上手く合うと思うんだけど!』
「その男性がルキウス様と血縁関係にあるということですか?ヨドミたちに関してはまだわかりますが…」
少し前まで戦犯扱いされていた男と血縁関係など、ルキウスが傷つくのではとつい意見してしまったアントニオ。必要な議論であることを頭が理解しているため、言葉は尻すぼみになっていた。
そんなアントニオを手で制したのはルキウス。まるで気にも留めない顔でキーニャの意見を冷静に消化する。
「確かにそういう意味で私たちが魂の生き残りだと言われるのなら納得できる。ヨドミらはシギの力で浄化可能だった。そして現に私たちは、シギの力で洗脳が解けた。解けてない者たちが魂まで侵されている状態の者たちの子孫なら、正に私たちは生き残りだろう。だから、男の話も可能性はある」
(ルキウスが直視しているのに、俺が見ないなんて駄目だ)
こういう時、友人や付き合いの長い人にとって酷な予想ができるのも、自身に関して残酷な意見や推測が出てきても躊躇なく咀嚼できる彼らはやはり人の上に立つ人間なのだとアントニオは思い知った。
アントニオが新たに決意を固めた瞬間、
『シザル様!』
普段は礼儀正しく扉を叩く信徒が、珍しくドンと殴るような勢いでノックをしてシザルに向かって声を張り上げる。
『申し訳ございません。落ち着きなさい、何があったのです?』
ルキウスたちに一言謝罪を入れると、扉の方に身体を向ける。
『捕虜がっ!シザル様方を襲った者が目を覚ましたとのことです!』
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(早く来いっ!死ぬ前にその醜悪な面を拝んどいてやるっ…)
未だに吊るされたままのニーロは、敵であるルキウスたちが来るのを今か今かと待っている。
彼は友人兼主人である慈悲深い青年、ダクトが自分を切り捨てられなかった場合の時を考えて先に動き始めたのだ。
ニーロの計画はルキウスたちに酷い態度を取り続けて自分を処刑させる、もしくは拷問死させる。要するに、自分を生かしても益は無いと判断させればいい。ごろつき、捨て駒のような者を演じれば見せしめか、処分のため殺すはず。自分が死んだ知らせが入ったら流石に諦めるだろうと、ダクトに次に進んでもらうための作戦。
どうせ逃げられない、最初は意識不明の状態の演技をし続けて餓死してやろうかと思ったが時間がかかるのと発覚する恐れが高いとみて止めた。
どっちにしろ地位の高い美人を襲った、拷問されるのは確定。白の子たちの命などお構いなしの行動をとっている彼らが自分を生かす確率は低いとみて、まるで今さっき目覚めたような呻き声を出した。
案の定、牢屋番は報告のためにこちらを確認すると物凄い速さで階段を上がっていったのだ。
シザル以外のまだ見ぬ敵、壁に穴が開きそうなほどの殺意こもる目でニーロは前を見据える。
「俺はやってやる…」
牢屋に静かな決意が零れた。
捕虜に動きが…!いや、あんまり動いてなくね?と思った方、申し訳ございません。個人的には、作者的には動きだったんです。新伝承、どうでしたか?回想シーンもチラチラ挟んでいるので、皆様はまた違った予想が立てられるのではないでしょうか?次回はまた回想シーンが久しぶりに出ます。