勉強会と黄金の蜜
文字多めとなっております!メリクリです!説明台詞がかなり多いです!申し訳ない!
いつもより早めの投稿が素敵な贈り物となっていたら幸いです。
黄金の蜜の正体、楽しみにして下さい!
世界には、必ず一柱の守り神がいて気の構成が決まっている。たとえ、生き物が滅び、誕生、進化しても気の構成に変化はない。守り神は基本的に、世界の外にある無数の他の世界との衝突を防ぐ役割を担っている。
守り神の気も世界の気の構成内に含まれており、神がいなくなることは通常は有り得ない。それが起こりえるのは神が持てる力、全てを使う必要があった時だけ。守り神は自分の世界であっても干渉するのは許されない。
ルキウスたちがいる世界は守り神の霧散した気だけで何とか形を保っている。
そこまで説明をしたシギの前にいるのは、この間と同じ人間。前回同様、シザルやキーニャは魔法により繋がっている。それぞれペンを手に構え、メモをとっている。
最初に疑問を投げかけたのはアントニオだった。
「シギと同格の存在に縁が結ばれてたって言ってたけど、シギは半神だよな?完全な神である守り神の穴埋めにシギがなるとは思えないんだけど」
神という概念がほぼないこの世界の人間より元の世界、日本という国で寺育ちだったアントニオの方がこの問題については理解が早かった。
「ならないな。だが、世界を守れば神格が上がり私は半神から完全な神になる。そうなれば穴埋めをできる条件を満たす。恐らくそっちが目的だ」
「最初から完全な神を呼ばない、呼べない理由は何が考えられるだろうか」
今度の質問はルキウスからだった。
「先も言ったように、守り神は基本は世界の外からの脅威を防ぐのが役割だ。世界で起きてる事、ましてや住人が起こした事に関しての干渉は禁じられている。なぜかというと世界が形を保つために必要な核は繊細、神が触れたら一瞬で核は破壊、世界は崩壊する。だが半神なら、そもそも核触れられるほどの力は持たないからその心配ない」
『ということは、世界が壊れかかっている原因は内側、住人側にあるということになるのね』
『それが五百年前の事件…』
セタンタとキーニャが呟く。
だが、ここでシギ以外の者たちは引っかかるものがあった。果たしてここの住人たち、人間と精霊たちだけで世界の崩壊を招くことができるのか。
『そもそもの話さ、世界を蝕んでるモノって何なの?ここがおかしいということは認めるよ。でも世界の崩壊っていうけどそこまでの片鱗は僕たちは感じたことはない』
キーニャの言う通り、世界がおかしいという点を認識できるようになった今の頭でも世界の危機を感じさせる何かがあったかというと、無いと感じるのだ。
「一つ、気の構成には穴がある。守り神の席が空いている、そしてお前たちが一番知りたがっている危機の原因。強制服従による生物の本質の歪みだ」
シギが手を空にかざすと、立体型の扇形グラフのようなものが浮かび上がる。全てピースが揃っていた扇形グラフ、しかし展開されてすぐ一番大きいピースが光の塵となって消えていく。残るは、不自然に真ん中が空いた扇。
「種族の絶滅、誕生、進化がある中、気の構成が保たれているのは気の量の割り振りが種族ではなく、もっと深い本質の違いでされているからだ。犬や人間と細かく区別していては構成があっという間に狂う。だから肉の身体を持つ種族とそれ以外の種族とかで区別される。だがこの本質が捻じれた、つまりは変化してしまったのだ」
『それがどうして強制服従によってだと分かったのでしょう』
前回の集まりではほぼ無言、あまり質問をしないのも怪しまれるだろうとシザルが挙手する。
「ルキウス、ギルドの依頼でヨドミに会ったことを覚えているか」
「なかなかないことだからな、もちろんだ」
『その節は私の信徒が世話になったようで感謝しています』
出現したヨドミを精霊教会の信徒が罪歌で浄化した後、シギに罪歌について説明したことを思い出すルキウス。その時の様子がおかしかったのが再び心に引っかかる。
「その時に罪歌を聴かせてもらったが、今一度尋ねよう。あの歌は罪を咎める歌なのだな」
無言で頷く一同、だがシギに問われた時点でこれも本来は違うのだろうなと確信した。シザルは内心、違うことを考えていた。
(精霊の血が流れている神獣だからあの歌の本当の意味を理解できた)
シギはあの時、少しだが寂しい気持ちに襲われたのだ。同胞に許しを乞う切ない歌は、作った者の悲しみや罪悪感を充分過ぎるほどシギに伝えた。
「あれは…許しを乞う歌だ」
最早、この場に驚きはない。ただ淡々と伝えられる事実を紙に残すだけ。
その中、ルキウスとアントニオだけはシギの目に微かに滲んだ切なさを見た。
「懺悔し、許しを乞い、全てが自分に責があると述べた上で怒りを鎮めて浄化されてほしい。大まかな歌詞の意味はこれだ」
もうとうに失われた古い言葉で綴られた歌、これまでと同じようにシギの言葉を信じるしかない。
『ということは世界崩壊の原因は…』
「「精霊王」」
口に手をあてて思考の海に入ろうとしたキーニャの意識を強制的に引っ張り上げたのはルキウスとシギの声だった。
『断定は早くない?それともまだ知らない事実があるとか?』
「私の夢の内容を覚えているか?」
『ごめんなさい、裏切るつもりはなかった、だよね?確かに精霊王が罪歌を作ったからそう考えるのが自然かもしれないけど。精霊王が誰か、そういう力の無い第三者の代わりに作ったっていう可能性もあるんじゃない?』
ルキウスの聞いた声が精霊王である確証はどこにもないことを指摘されたルキウスは、確かにそうだと先走りし過ぎた頭を一旦落ち着けようとしている。反対にシギはその横でルキウスが話し終わるのを見ると話し始めた。
「気の構成上、精霊が肉の身体を持つ人間とは分類が別になるのは理解できるな。すなわち、人間と同じように家族や仲間といった組織、社会的な仕組みを作るわけではない」
『精霊の中で王が存在するはずもない、と。だけどシギさん、精霊王のことは双緑花様も認めているわ』
双緑花、という言葉を聞いてアントニオは思いついた。
「双緑花様なら当時のことを知っているのではないですか?もしかしたら過去に何があったのか聞けるかもしれません」
名案だと思ったそれはセタンタによりあっさりと打ち砕かれた。
『それが襲撃の日以来、眠りについているの』
「えっ」
声を上げたのはアントニオだが、表情を変えずにシザルは反応した。
『本来なら、制定を利用した者は双緑花様に直接監視されるのだけど。でも、また襲撃が遭ったら分かるように印を付けてもらったから身の安全自体は大丈夫なの』
セタンタとキーニャは袖をまくり手首に刻まれた緑色に光る花の印を見せた。
『印があるから危険になったらすぐ反応して下さるのだけど、普通に声をかけるのでは駄目ね』
そこまで聞いてシザルは襲撃者に対しての警戒を強めた。双緑花は全てが明かされた後、次の精霊王となるために力をずっと蓄えさせられてきた。それでも尚、力を必要だと判断するほど相手は危険なのだ。
(報告しなくては)
勉強会は未だに進行中だが、シザルは頭の中で報告内容をまとめはじめる。
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天気がいい昼頃、やわらかな日差しの下で草原が揺れる。その下の地下施設では暗雲が立ち込めていた。
「2006番との連絡は…」
「ニーロだ」
「失礼しました。ニーロとの連絡は未だにつきません。ダクト様、もう魔力の供給は…」
「ご苦労だった、下がれ」
「…はっ」
白の子にとって生命維持の魔法、それを遠距離から送り続けている青年、ダクトは疲弊していた。それを案じる部下を早々に下がらせるとダクトは奥の部屋に消える。
暗い部屋で金色に光る雫がナヴィオラの花の詰まった瓶の穴からゆっくりと滴り落ちる。抽出用の魔道具の中で稼働している瓶は浮いていて幻想的な光景だ。
雫は魔道具の下に置いてある別の瓶に溜まっており、ダクトは瓶を掴むと一気に中身を煽った。とろみがついた金色は身体に染み渡り、魔力を回復させる。
ナヴィオラー人間の魔力を回復させる黄金の蜜を出す花ーは瓶の中で揺れていた。
黄金の蜜の正体、いかがでしょうか?次回は年明け頃でしょう。スランプ回復してきたので今一度、応援していただけると嬉しいです。そしていつか言っていた評価者が10人を超えました。ありがとうございます!次回はまた白の子、捕虜の話になります。