神獣が来た理由2
書きたいシーンに近づいているはずなのに遅筆に拍車がかかるとは…。スランプ気味ですが、徐々に回復に向かっています。とにかく完結させることを目標として頑張っていきます。
「神…」
シギの神としての一面を初めて見た人たちは言葉も出てこなかった。だがそれよりも気になることが彼らにはあった。
『この世界が壊れかかっているということはどういうことでしょうか?』
敢えてシザルはここで質問する。シザルはシギが主催者の計画において何よりも重要な役割をになっていることを知っており、肝心のシギが自身の役目についてどのくらい気づいているのか確かめたかった。問われたシギはシザルを見透かすような目で見る。
「先に私がここに来た理由を話そう。精霊召喚の呼びかけが聞こえた時、縁が繋がっていた。私だけでなく、他にも無数の縁が伸びていた、私のような半神にな。明らかに意図的な工作で、こんな事ができるのは神だけであろうと考えた私は興味本位で縁を辿ってここに来たのだ」
『「縁?」』
言葉は知っているがそれは目には見えないものだろうと一同は困惑する。その反応を分かっていたのかシギが手を横にゆっくり振ると赤い紐がシギとルキウス、そして僅かに細いのがアントニオに、糸ぐらい細いものがセタンタたちの胸に、体内に消えるように繋がっていた。
皆はそれを不思議そうに見つめ、観察して触れるか試しているが手はすり抜けていく。シギはルキウスと繋がている紐を人差し指で優しくすくい上げる。
「これが縁だ。本来は交流を深め、互いの存在が心中で大きくなればなるほど太くなる」
アントニオは一応、歴だけならルキウスより付き合いが長いシギと自分の縁がルキウスより細いのが少し気になるのか、触れない紐をつつくような動作をしている。
「関わりのない者同士の縁を結ぶのは接触させるため。私と同じ格の者なら意図に気づくと分かってやったのだろう、ここの元守り神は」
怒涛の新情報にいよいよついていけなくなったのか、セタンタは手を上げて話を止めるよう求める。
『元守り神?整理する時間を頂けないかしら』
「無論だ」
アントニオはシギと同格の存在がもしかしたら視れた機会を逃したことを今考えるべきではないと、思いながら聞いていた。
『意図的だとして、ルキウスが選ばれた理由って何だろう?』
眉間を抑えて考え込んでいるセタンタの代わりにそう疑問をこぼしたのはキーニャだった。
「誰かが…ルキウスに率いてもらいたかったのでは?」
ただの素人考え、だがアントニオは気づいたらそれを口にしていた。シギはこの世界に来てからルキウスを人の上に立つ者として成長させようと積極的に動いている。自然を愛し、在り方を肯定をするシギの姿を知っているアントニオから見たらそう結論付けるのが自然に思えたのだ。
そんなシギの姿を知らない彼らはその考えには至らない。いまいち納得できないような顔だった。
「今はそれを置いておく。興味本位で来たがこの世界は先のような矛盾があり過ぎる。の割には隠そうとした痕跡も気配も何もない。だがほとんどの者は疑問には思っていなかったからな、次はこの世界の住人を観察した」
「あっ、それならお、私も違和感も感じていました。その、先ほどより理由はもっと弱いのですが…」
今度は全員が聞く態勢に入った。彼ら自身、今の風潮に逆らう動きをし始めたのは全て、アントニオ同様、違和感といった感覚が始まりだったのだから。そしてそれが「魂の生き残り」だったためと確信が得られた。シギとアントニオの様子から見て、恐らく正常なのだろう別世界のアントニオの意見は今となっては重要なものだったのだ。
「えーっと、あくまで私の経験上なのですが、共通の価値観に逆らう人が居なさ過ぎたのが引っかかっていたんです。最初は貴族だから教育が徹底しているのかなと思っていたんですが一般の方、平民や冒険者の方と話してみても全く同じでした。本心ではそう思っていなくとも、特別性を感じたくてそういう事を話すような人もいませんでした」
年頃の若い人ならファッションとして、あえて世の常識とは違う思考をする自分は人とは違う人間なんだとアピールする者もいなかったのだ。一旦、そこで一息つくとアントニオはまた話し出した。
「厳しい地域なら分かります。もし口にしてしまえば、途端にこれからの生活に困るほど排除されるとか。しかし、美人は慈悲深いで済みますし、私も立場上孤立するところでしたが引き戻してくれる方がいました。それだけの自由があるにも関わらず、誰も不満を漏らさない。異常なほど自然に常識に従っているように見えました」
アントニオはルキウスたちと合流してから彼なりに情報収集を行っていた。
平凡な容姿である彼はどの立場の人間にもなれることができた。ある時は醜悪な容姿の主人に仕えることを口には出さずとも憂う者に、事情により立場を次々と変える人。だが、以前と違い、勘違いされる言葉は一切口にしていない。
セバスに仕込まれた演技力だけで見事に相手を勘違いさせ、喋らせた。
「違う世界の君からはそう見えるのか」
ルキウスは自身の世界の異常さを未だ受け止めきれず、そう漏らすしかなかった。他の者たちも気付かなかったのが信じられないという顔をしている。
「アントニオが言ったような違和感を私も感じて、本格的に調べるとこの世界の気の構成は崩壊、精霊服従の魔法が召喚陣として使用されている。他にも挙げればキリがない」
『だけどシギさん、貴方は召喚の呼びかけが聞こえたと言ったわ。召喚に使用される魔法陣は全て同じなのよ?』
「そうだ、私の時は正しく召喚だった。それこそ、お前たちが知りたがっている五百年前のことを隠して別の話をでっち上げた人物、もしくは目を覚まさない襲撃者の関係者ならできるだろうな」
『『『…』』』
「見えてはいないが、そこらにいる精霊をそなたたちは精霊召喚の際に服從させているのだ」
精霊伝説のほとんどが間違いだと言われた挙げ句、同意だと信じていた契約が強要だと言われて彼の思考は完全に置いてきぼりだった。
「その謎を解くため、精霊たちを助けるために君は最初から私に協力的だったのかい?でも、君の尽くしてくれた言葉は嘘だとここまできてもう疑ってはいないんだ。ただ、パートナーとして君の意思をはっきりさせたい」
日々としては短いが、怒涛の出来事の積み重ねはルキウスの心に長年に渡り住みついた劣等感を取り除いてしまっっていた。
「神として見過ごせない、精霊の血も流れている以上、ここの精霊も同胞と呼べるから助けたいからだ。まぁ、他にもあるが…」
アントニオは一瞬、視線を向けられたような気がしたが直ぐに逸れたそれをただの気のせいだとすることにした。
「どうやら勉強会を先にやるべきですね。推測をしようにも土台となるべき前提が違っていては意味がない」
幸い、捕虜はまだ目が覚める兆候を見せていない。その間の期間をシザルの言葉でこの世界の本来の歴史を学び直す事になった。
シギの理由に関してどう感じましたか?もしかしたら弱い、と感じていないでしょうか?
そんなことないと思ってくれた方はありがとうございます。ただここは私の理想、目指している神様像にシギを当てるのが難しくもがきながら書きました。詳しいことは後ほど活動報告書にあげますので興味ある方はぜひ。次回は、白の子たちが少し出てきます。




