神獣が来た理由1
この頃スランプ気味で…大変お待たせ致しました。
今回は前回予告時に出そうとしたものとはだいぶ違くなっております。シギの在り方にだいぶ迷いましたが、やはりこのキャラで進めていきます。ですので深掘り回という意味では微妙かもしれませんがお楽しみいただけると幸いです。シギがルキウス以外の人に覚悟を問うようなシーンがあります。
「夢が確かにある真実?」
ルキウスはナヴィオラの花を採取した時に見た夢を瞬間、思い出した。
『私も見たのよ。波のように揺らいだ壁から人が出てくるのを。といっても私が見たのは夢の中でだけど』
両手を組んで少し伏目がちに話すセタンタは、自らを落ち着かせながら話しているようだった。
『私が最初に見たのは十一年前、記憶のような夢といったけど覚えているのはどちらかというと感情の方が多いの』
『私は夢の中で、誰かに手を繋がれて走っていたわ。その人の焦りを強く感じたの。そこからは途切れ途切れだけど、私は、いえ私たちは誰かの部屋に集まっていた。細かい会話は聞き取れなかったけど、修羅場っていう感じだったわ』
『僕も姉様ほどではないけど周りの人の焦りを感じた。残念ながら僕が覚えているのは耳からの情報だけなんだ』
『部屋の中で何人か集まっていて、壁から出てきたのは…』
『二人』
セタンタが思い出しながら話していると、ふいにシザルがその先の言葉を分かっていたようにはっきりと声を紡いだ。
『っ、五百年前の魂の生き残り、双緑花様が意味していたのはこれのことだったのかしら』
驚きは隠せないが、そのまま不敵な笑みを浮かべて隣のシザルが映し出されている板状の魔力の塊を見る。それはシザルの言った人数が正解だったことを示していた。
『シザルにもあると分かった。ルキウス、君は?』
「…つい最近、気になる夢を見た。私もキーニャと同様に声だけだったが」
シザルは主催者から全ての情報を貰っていない事はゲッダでの会談前から勘づいていた。しかし、自身が計画の鍵であったとは夢にも思っていなかったのだ。
彼は選ばれたのは自分以外の四人だと思っていた。何故ならシザルが主催者の計画で担う役割はシザルでなくともよかったからだ。
(ジンドさんのように計画後の活躍を期待されているのでしょうか。もし、そうなら私は…)
考えるのも腹立たしい推測、しかし主催者が自身なら感情を飲み込んで仕事をしてくれると期待しているのなら応えたいという気持ちが出て居心地が悪くなった。
この場にいるのは中途半端に計画を知っているシザルと何も知らないルキウスたち。いっそ完璧に分かっていたならこの会談を主導できるのにと、もどかしい思いをシザルはこの頃抱えていた。
シザルが心中で百面相のようなことをしている間にルキウスはアントニオに指示を出していたようで、アントニオはトレーに何枚かの紙の束とペンを載せて部屋に帰ってきた。
「この場にいる全員が記憶を持っているのなら改めて記録したい」
それぞれの記憶を文章に直すと、ある推測が浮かび上がってきた。
「私たちは…全員、同じ部屋にいた。もしくは…同じ状況下にいたのか?…」
『それだと双緑花様の言葉の説明がつくわね。私たちが同じような記憶を持っていて、これが五百年前のだとしたら…あの時に私たちの魂は既に存在していた?ということになるのかしら』
「あの時?」
アントニオがふと漏らした疑問を聞いた瞬間、一瞬静かになったかと思えばルキウスが慌ててアントニオの方を見た。
「あっと、精霊王に関して館で聞いてなかった?」
つい友人の時の口調に戻っていたが気づいていないルキウスの言葉に、今思い出したかのようにアントニオも慌てながらあぁと納得していた。この世界では五百年前と言ったら精霊王の事を基本的には指し示すという意識を、まだアントニオは持っていなかった。
『良かった精霊王に関しての歴史は学んでいたのね。話がしやすいわ』
アントニオが執事の館に来た翌日の座学で学んだ、この世界の常識とも言える精霊王とアルガディアの初代国王の歴史。
アルガディアがまた暗黒期だった頃、資源も無い状態で世界中の人々は物を奪い合っていた。そんな混沌した世の中を支配しようとした男が現れた。
男は暗闇の中で光る薄銀色の長髪を揺らしながら世界中に悪意をばらまいた。それがヨドミ、シミとなった。アルガディアの王、ジュッセは人々を避難させ、シミとヨドミに対抗しようとしたが武器は通じず、祈りにすがり始めた。祈りが通じたのか精霊王が世界に降臨した。精霊王、彼女は罪歌を与え、ヨドミとシミへの対抗策を授けた。
王はこれを機に、精霊王を通じて精霊界との繋がりを持とうと交渉した。交渉は成功し、精霊王が提示した条件を飲めるのなら精霊を貸し与えてもいいことになった。精霊は人間に魔力と魔法、精霊召喚の魔法陣を教えた。
アントニオが教えられたのは、子供向けに最低限に情報を絞ったものだった。そのため、精霊が人間に魔法を教えてもらったという部分は初耳だった。
『もう知っているのなら話は早いね。この精霊王と初代国王との間に条約が結ばれるまでの過程も僕は疑っているよ。ルキウス、本当に精霊が来てから魔法ができたのかな?』
「暗黒時代に既に魔法は生まれていたと言いたいのか?」
初代国王が初代とされるのは実際にジュッセが初代国王だからではなく、それまでのアルガディアの歴史についての資料や資料となるものが一切無いからだ。
略奪が日常茶飯事だったこと、ヨドミらがばらまかれた際の混乱でジュッセ以前の王家についての記録は消滅したとされている。
リバニア家が精霊王の交渉に貢献する前に二大貴族というものが存在していた時点で、アルガディア王国がそれなりに歴史を積み重ねていることは明白だ。そのため、記録が残っていない以前の事は暗黒期と呼ばれている。
『だって、いくらなんだって技術受け継がれてなさすぎるでしょ。月日が過ぎて発達どころか逆に衰退する技術もあるってことも知ってるよ。でも全体的ってのは流石にないでしょ』
あくまでこれは憶測、というのを分かっているからか手足を伸ばして座りながら軽く体操みたいなことをして話している。
「謎の男がヨドミとシミをばらまいたことで魔法文明が破壊されたと…?それだと精霊王ももっと早くここに降臨されたということになる」
(途中までは合っていますね。まぁ、無理もないですか。あんな馬鹿げた理由が原因で世界が壊れかかっているなんて、普通は思いません)
『けど何で時期をずらす必要があったのか分かんないだよね』
あと一歩で何か答えが出そうだが踏み出せない感覚に、既に答えを知っているシザル以外の人間は唸っていた。
(待てよ…。それなら、え、何で誰も気づかないの?)
アントニオはとある矛盾に気づいたが、それを本来なら彼よりもずっと長くこの世界で暮らしている彼らが気づかないことに異常さを覚えた。
「それだけか、人の子らよ。魔法が精霊から伝わったというのなら花と水の関係は成り立たなくなるぞ」
その言葉にアントニオとシザル以外の一同はハッとしたような顔になった。
精霊が種で人の魔力で花になる関係、人が魔力を扱えてない時点で精霊はこの世界で顕現できないのだ。水である人の魔力無しで顕現できるのであれば種とは呼べない。
シギは今まで空気だったのが噓のように威圧感を放ちながらキーニャたちを見上げる。
「一人、人間を連れてこい」
有無を言わせないその雰囲気にたじろぎつつ、キーニャたちは兵士をシザルは近くにいた信者を傍に呼び寄せた。
「受け取るがいい」
ふっーと寒い時のような白い息を天井に向かって大量に吐き出す。モクモクと白い塊が天井にいきわたると今度は下に落ちていく。それはシギの力を通してキーニャたちにも届いた。
「あっ?」
自分に降りかかる煙を不気味に思いつつ避けずに大人しく受けると皆、途端に脱力したように机に咄嗟に手をついた。その様子に傍に控えていた信者や兵士は慌てる。
「どうなさいましたっ!」
ルキウスもその一人で、アントニオはオロオロしながらルキウスの顔を覗き込んでいる。一緒に煙を浴びたはずの信者や兵士、アントニオは何ともない様子だ。信者の様子を確かめるとシザルは信者や他の者たちに気づかれないよう、くっくっと喉で笑うに留めていた。
(魂の生き残りとはよく言ったものです)
「もう良い、下がらせろ」
シギのやりたいことが分かったのだろう。先ほどとは違い、笑みを浮かべながらキーニャたちは下がらせた。
「主、いや人の子よ。しばし、神の力を持つ者として動くこと、許せ」
ルキウスは無言で力強く頷く。
「頭がすっきりしただろう」
「えぇ、今まで気付かなかったのが不思議ですよ。ですが、他の者の様子を見るに洗脳が解けたのは私たちだけのようですね。私たちの魂は何かの状況下で生き残った、だからシギさんの術が効いたということでしょうか?」
セタンタはまだ今の状態に慣れていないのか汗を顔ににじませた状態で聞いた。
「今までこの世界を見させてもらったが、お前たちが思っている以上にこの世界は危うい、人や精霊だけでは手に負えぬ。神の力を持った存在を抱える気はあるか?」
リバニア家の百合の由来を呼んでいた人で疑問を持ってた方いらっしゃいますか?
この回で疑問が解消できていたら嬉しいです。そしてあらすじに出ていた「精霊は花であり、人は水である。ならば何故…」の部分がついに出てテンション上がっている人がいたら嬉しいです。また次回でいくつか謎が解明、そしてタイトル通りの理由が解説されます。洗濯終わったら報告書書きます。