苦悩する者たち
お久しぶりです。文字数多くなりました。活動報告書は明日出します。突然の回想シーン多めな流れについてこれていますでしょうか?それではお楽しみを
「白の子救済計画」は、先天的に色素が薄く生まれる人間の保護だ。隔離生活と人間的生活の両立を図ることで外部への漏えい対策と子供たちの教育を成立させる。
ジュッセ殿下は、快く受け入れてくれた。陛下が臥せっている今、弟君であらせられる殿下は精霊の解放を目指してきた時よりも励んでいる。
元精霊の使役に関しての魔法研究者の私が、殿下側についたことでかなり信用してるらしく、喜んで資金と施設に関しての計画書、見積書の作成を促してくれた。
この間、あのような事が起きたばかりだというのに、もう他人を信じることを恐れない。成長してないのか、それほどまでに追い詰められているのかは分からないが私にとって都合がいいことに変わりはない。
必要な物を提供してもらった後は、怪我をさせずに白の子を連れてこいと、魂が感染した者に命令した。わざわざ金を握らせなくとも、今の私の命令なら喜んで命令を聞く。
白の子を屋敷と施設の地下に集め始めて計画を進めた。しばらくして、集められてくる白の子がまばらになってきた頃、存外白の子が少ないことに気づいた。元々、白の子は少ないが、価値観が狂ったことで迫害の末、何人が殺されたらしい。
そこで私は行方不明になっても誰も気に留めないような子供、捨て子の赤子も集め始めた。地下暮らしを長くした者が、白の子と同じ特徴を持つようになると聞いたことがあったからだ。白の子を作れるのではないかと試みた。
手持ちの白の子の数では、いずれ血縁者同士の交わりが早々に出てくる。すると、時期がくる前にただでさえ弱い白の子が更に弱った状態で生まれ、死ぬ確率が高くなる。これを防ぐために私は自分が生きている間に、土台を作りに務めようと決めた。
息子たちも育ってきて、話しを吹き込むにはちょうどいい年になり、信じるさせるための道具は揃った。それらを持って私は使用人と妻を含めて人払いをし、息子たちの寝室の扉に手をかけた。
ルキウスはゲッダと精霊教会から襲撃を受けた知らせを聞いてから直ぐに、シギを介して集まりを呼びかけた。
それぞれシギが魔力でつなぐことで、羽音と共に浮かび上がる透明な板のようなものにキーニャとセタンタ、シザルの姿がそれぞれ浮かび上がった。
アントニオは会議の合間用の菓子と紅茶を用意し終えるとルキウスの斜め背後に控えた。
「急な呼びかけに集まっていただき感謝する。今回の同時に襲撃を受けた事、偶然とは思えないため話し合いの場を設けるために集まってもらった」
『うん、間違いなく集団で僕たちを狙ってるよね』
キーニャがうんうんと頷きながら、ルキウスに同意する。
「そこでそれぞれ襲撃を受けた時の事を教えて欲しい。セタンタ陛下も狙われた以上、ただの容姿差別とは思えない」
『私もそう思うわ。それに気になる点が多すぎるもの』
『…』
セタンタも同調したが、シザルは先日のこともあって黙っていた。
「それでは私の方から話させていただく。私は会談が終わったあの日、部屋でアントニオに着替えを手伝ってもらっていたんだ。その時に突然襲われた。襲撃犯はシギの結界で阻まれると、すぐに壁に溶け込むように消えたんだ」
そこまで話すとルキウスは背後に控えていたアントニオとシギに目をやる。合図に気づいたアントニオが頷き、座るルキウスの隣に立つように前に出る。
「私は襲撃時に犯人の顔を見ました。陶器と同じくらい白い肌と髪、赤い目の男性のように見えました」
アントニオが語り終えると今度はシギが話し出す。
「私は間近で奴を見たが、アントニオの言う通りの特徴だった。それに体が不健康なほど薄く、全身を魔法で強化していたな。恐らく魔法無しではあの動きはできん」
「私たちからは以上だ」
『じゃあ次は私たちから話させて貰うわね。私たちは会談が終わって二、三時間後ぐらいかしら。それぐらいに襲われたわ。城の内と外、全てに仕掛けられている魔法文明最盛期に作られた罠を突破した上、気配なく殺そうとしてきたわ。』
ルキウスは動揺したが、シザルは主催者からの話を聞いていたこともあり特に表情を変える事なく聞いていた。
本来なら少しは演技をするべきと分かってはいたのだが、未だに不明なことや自身についての謎が生まれたことで、いまいち集中できていなかったのだ。
『姉様と一緒に咄嗟に距離をとって、その隙に姉様が精霊を呼んだんだ』
『私の精霊、ケトが相手に飛び掛かったのだけれど魔法で一瞬で地面に叩きつけられていたの』
『その後、僕たちに近づいてきて正直もうダメかと思ったから咄嗟に姉様を隠したんだけど、双緑花様が助けてくれたんだ』
『キーニャが私を庇ったのとほぼ同時に降りてきて、鎖で前にいた襲撃者と後ろにいた襲撃者を殴ったのよ』
『基本的には無関心と記録が残されている双緑花様が動いたのもそうだけれど物凄く、怒ってらっしゃってたの。お父様たちから資格を剝奪した時よりもよ』
『あの後すぐ、上に引っ込んでしまわれたきり、僕たちの声にも反応してないから聞けなかったけどそれだけじゃないんだ。アレは罪だ、とそう仰ってたんだ。最初は王族を襲うことかと思ってたんだけど、今は違う気がしてる。今まで呼ばれない限り、出てこなかった。王族が害されそうになって激怒するほどの情は持っていない。だとしたら、アレって何のことかな』
『私たちは顔の確認はできなかったのだけれど、同じく高い魔法技術を持っていたし、同じように壁に溶け込んでいくような感じに消えたのよ』
『僕たちはこれでおしまい、じゃあ次はずっと黙ってるシザルにお願いしていい?』
いまいち集中できていないその様子に勘づいたキーニャがシザルに声をかけると、シザルはため息をついて話し始めた。
『私は教会の外で業務をこなしているところを、です。ちょうど武器になる物を持っていたのとシギ様に頂いた魔道具のおかげで助かりました。ギルドの牢屋を貸してもらい、拘留中です。彼も白い肌と髪、赤い目でした。運よく出てくるところを見ましたが、壁が液体状に揺らぐとその中心から出てきました』
全員で報告を元に分かっていることと、分かっていないことをまとめ始めた。
「恐らく私たちを襲ったのは全員、白髪に白い肌、赤い目の者たちだ。特徴的過ぎる容姿だから意図的に集められたのだろう」
『うん、僕もそう思うよ。ルキウスくらいの色の薄さだって充分珍しい部類に入るのに、そんな容姿、噂も過去の文献でも聞いたこともない。誰かが、もしくは自主的に集まったのかは不明だけど』
『囲われた、と考えるのはどうでしょうか?』
シザルの発言で全員の視線がシザルに集中する。
『彼らのような者が居なくなっても誰も気にしなかったはずです。囲い込むには好条件かと…』
ここからシザルは頭は切り替えていった。ルキウスたちに、主催者から情報を得ていると知られないよう注意しながら会話に参加する。
ふむと、全員が一度少し己の思考に入りかけた瞬間、アントニオが恐る恐る声を上げる。
「あのっ、アルビノって皆様はご存知でしょうか?」
アントニオはこの世界でこの名称で通じるわけないと思いつつ、これから話す事の取っ掛かりとしてこの話題を出した。
「アルビノ?」
ルキウスもその言葉に疑問を持ちながら復唱する。
「シギが魔法で身体を強化していると言っていたのでもしかしたらと思ったのです。アルビノは、私たちが居た元の世界での言い方で白髪、白い肌、赤い目の特徴を持つ人間の事を指します。基本的に突然変異で起こる先天性のもので、少し身体が他の人間より弱いといった特徴があります」
『確かに特徴は当てはまるね。だけどそれがどうしたの?』
それが判明したとこで襲撃者については分からない。ただシザルとルキウス、シギは耳を注意深く傾けていた。
「アルビノは短命で、アルビノだけを集めて暗殺できるように訓練するのは困難です。だけど…アルビノと同じ特徴を持った人間を作ることも確実ではなけいけれど、不可能ではないんです」
『それはどうするの?』
セタンタがアントニオの次の発言を待って観察している。
「子供、まだ乳幼児を地下とかで育てるんです。日光を浴びせず、食事もかなり制限すればアルビノに似た人間を作れるんです」
『首謀者は長期的に自分の駒を育てていたかもってことかしら?』
セタンタの言葉にアントニオが無言で頷くと、息を大きく吐いて椅子に背中に預けた。
『アルビノ、アントニオさんが言ったことがあり得るならかなり面倒なことになるわね』
もちろん、複数の可能性をこの場にいる者たちは考えていた。しかし、それはあくまでこの件だけを目的に編成されたものだと考えていた。だが、アントニオの考えを元にして推測を立てた場合の方が、納得がいくのだ。
セタンタを狙ったことから、不細工が政治に関わる目立った行動をしていることに反感を覚えた者たちによる犯行の疑いは薄かった。
なにせ、キーニャが庇わなかったら最初の一撃でセタンタは死んでいたのだ。とても容姿差別という理由を隠すためだとは思えなかった。
それ以外の理由で考えられるのはゲッダ側からの暗殺。
『考えたくないけど私たちの中にいる可能性があるのかしら』
短期間で進めてきた計画、前国王側が兵を起こすにしても対応が早すぎるように感じた。憔悴しきったあの様子が演技で、実は別館のように秘密の技術を隠し持っていたとのも考えにくい。
一番、行いやすいのはセタンタ側にいた者たちだ。約十年という準備期間ならある程度の隊は作れる。
(まずいですね…)
『魔法文明が一番繫栄しているゲッダの者を疑うのは分かります。ですが、魔法技術が一番発展しているゲッダの王族以外の者が、あの魔法技術を知っていることがあり得るのでしょうか?』
ゲッダやアルガディア以外の他国が関わっているのか、もしくはどちらかの王族側に未知の技術が伝えられているのか。シザルの放った言葉により、それぞれの思考は迷走しだした。
「だが権力者であることは確実だ。集団を作り上げるには財と土地が必要だったはずだ」
『一番怖いのは、元々は他の目的のために編成された集団だった場合、ね。アントニオさんの意見を丸吞みするつもりはないけれど、最悪の事態を想定するに越したことはないわ』
もちろんだというようにアントニオがセタンタの言葉に頷いた。
「襲撃がこれっきりだとは思えない。シギの力でなら防げると証明されたから、これからシギの力で作った護身用の魔道具をそれぞれに届ける。その上でしばらくは、私たち本来の目的に集中して行動しよう。シザル、捕虜の尋問は可能か?」
『未だに目を覚ましません。無理やり起こすことも可能ですが、体力の消耗が激しくて手荒な真似はできません』
犯人が頑丈な身体であれば手段は選らばなかったであろう、不満そうな顔をしている。
『身の安全対策はできた。捕虜がいる以上、これ以上憶測で会話するのも時間の無駄だ。だから少し僕に話をさせてくれないかな?』
前のめりになるキーニャの次の発言を待つルキウスたち。
『皆、自分たちの国の歴史、成り立ちに疑問を持ったことはないかい?』
予想もしていなかった不意打ち過ぎる話題にルキウスとアントニオは訝しげな顔をする。セタンタはキーニャがこの話題を出すことを知っていたのか黙って進行を任せている。
(まさか…彼らも)
シザルは何となく彼らが何の話をするのか見えてきた。
『突拍子もない話なんだけど、僕と姉様はある記憶を持っていてね。あるはずのない記憶だとしか思えないんだけど、この襲撃で僕は確信できたよ。これは確かに存在する真実だって』
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自分が行っているこれが正しいのか分からない。しかし、今までの準備期間と先祖たちのことを思うと、長年の苦労を無駄にすることはできずに命令を出した。
失敗に終わったが、これで退くわけにはいかない。だが、囚われの身となった友の事が心配でならない。彼が死ぬような事態になったらと恐怖が嫌な汗と共に身体を這いずり回る。
「私は…間違っているのだろうか…」
次回よりシギについての掘り下げ回と同時にルキウスたちがそれぞれ謎に迫っていきます。キャラの掘り下げ回がかなり遅めですが、初の長期連載ものということでお許しを。