黄カサブランカの花言葉
二話投稿驚きました? 続けて書けたのを二話に分けました。
ルキウスが決意を固めたことで話し合いは円滑に進み、アルガディアとゲッダのシャーキ草の育成に関しての情報、一部の人員、土などの交換などを行うことになった。ゲッダの土とアルガディアの土の違いを明確にするのが最初の目的となった。
シギは魔力で使った分身を互いに国に派遣、その際に視覚と聴覚がシギに共有されることを事前に知らせた。また、その研究報告と成果に関しての情報はルキウスにも共有されることも了承してもらった。
話しが決まると雑談に入り、双緑花が話題に上がった。
「ということは使用者は常に見張られるということですか?」
「そう!しかも本当に見るだけだから忠告も一切ないんだよ。間違えたら、即資格はく奪」
キーニャの話しにシザルは興味津々だった。気分が良くなったのかキーニャはウキウキした雰囲気でセタンタに話しかけた。
「姉様、せっかくだからルキウスたちに会ってもらおうよ!」
「そうね、特に見られて困らないし…ルキウスたちにはゲッダの伝統、番人を番人たらしめている偉大な存在を目に焼き付けてほしいわ」
「双緑花様!」
セタンタが天井に向かって声を張り上げると、輝く緑色と虹色の光が床に落ちた。それに視線をやろうとした瞬間、ルキウスたちの眼前に巨大な花が降りてきた。花の形の緑色の宝石、それが二つ、目はないはずなのにまるで覗き込むようにルキウスたちを見ていた。
「これは…」
いつも余裕があるシザルは興奮の笑みを浮かべている。
「綺麗だ…」
ルキウスは双緑花の美しさに見惚れ、アントニオは驚きのあまり、口を開けないようにするのが精一杯だった。
「…」
シギは表情一つ変えず、観察している。
双緑花にはセタンタ、キーニャ、ルキウス、シザルが写っていた。
「双緑花様、お応え頂き感謝します、彼らは」
「「選ばれた子供らか」」
「は?」
珍しくセタンタの素の動揺した声が響きわたった。
「「あの時の魂の生き残り、お前たちを待っていた」」
流石に全員、困惑を隠せなかった。
「どっ、どいうことですかっ」
キーニャも双緑花に駆け寄るが、双緑花は天井に移動し始めた。
「「お前たちの意思を貫き通せ」」
その言葉だけを残して完全に天井に身を隠した。後に残されたルキウスたちは呆然と立ち尽くしていた。
「あら、え、えっと」
歯切れの悪いセタンタ、流石にどうすればいいのか分からない様子だ。
気になる事はたくさんあったが、お互いやるべき仕事があったためとりあえず解散となった。成功はした、契約も結べたものの、どこかモヤモヤした何かを抱えてそれぞれは持ち場に戻った。
-事件は唐突だった-
「最後の言葉気にならない? 姉様」
「えぇ、貴方の記憶に手がかりはないの?」
セタンタはキーニャがあるはずのない記憶を持っているのを知っていた。相談されたこともあるが、それ以上にセタンタもあるはずのないそれを持っていたからだ。
「う〜ん、それっぽいのは無いね」
「私もよ」
二人で唸っていると、嫌な気配を感じて咄嗟に同時に振り向いた。
「なっ!」
「どうしてっ?!」
最初に視界が捉えたのは突起のような剣、それを握る手は既にこちらへ突き刺す動作に入ってる。
「くっ!!」
ふくよかな体型のせいで瞬時に動けないセタンタをキーニャが引き倒す勢いで後ろに引っ張る。
「ケトっ!!」
キーニャに引きずられながらセタンタが自身の精霊の名を叫ぶ。
「ヂィッ!!」
後ろに勢いよく下がるキーニャたちと入れ替わるようにリスの姿の精霊が飛び出す。身体に張りつくような黒服を着た侵入者に襲い掛かった。
しかし、
パリッ
静電気のような音がした瞬間、精霊が床に這いつくばっていた。
「ヂッ!ヂッ!」
何とか立とうとしているが、苦しそうなうめき声を上げるばかりだ。
「ケトッ!」
そのまま精霊の横を通り過ぎて二人に近づく。侵入者が足を踏みしめ、床を蹴る。
バチッ
ガッ
セタンタを背中で庇うように覆いかぶさったキーニャは反射的目をつぶって痛みに備える。だが、大きい音がしても痛みはこない。二人が恐る恐る目を開けると、双緑花が目の前にいた。鎖をうねらせている様子はまるで威嚇だ。
そういえば後ろの壁に何か当たったような音もしたとキーニャが後ろを振り向くと、同じような格好をした人間が倒れていた。
「あそこまで吹っ飛ばしたの…」
「違うわ…二人いたのよ…」
前方に目を向けたままのセタンタの視線を追いかけると、双緑花の前方に先ほどおそいかかってきた人が倒れていた。侵入者たちは相当重い一撃を食らったのか、震えながら身体を起こす。
「「…なぜ、お前たちがそれを使っている?」」
判定の時には感じなかった怒気を双緑花から感じてセタンタたちは声も出なかった。明らかに人間とは違う、五百年の時を重ねた存在に恐怖していたのだ。
「そっ、双緑花様っ!彼らはは危険ですっ!」
巨大な花がセタンタたちの方を向いた瞬間、侵入者の二人は城の壁に溶け込むように姿を消した。
「「………アレは罪だ」」
「ですがっ、城内に仕掛けられた魔法に一切引っかからずにここまで侵入しました。情報がない中、追うのは危険過ぎます」
セタンタの顔には汗が浮かんでいる。城内の魔法は建設当時から常に発動状態にあり、魔法文明最盛期の技術を用いられている。それが破られたのは、ゲッダ王国が創立して初めてだった。
ー精霊教会―
シザルは精霊教会本部で薪割りの準備をしていた。精霊教会最高責任者、斧には必須の業務がある。それが薪割りだ。斧の正装着には、小型の魔斧をぶら下げられるような仕組みになっている。
魔斧は魔力を込めて使う特殊な斧だ。魔力を込めて、力ではなく魔力で割るように斧を振るう。割れた薪を後ろに投げ、次のを割ろうと、斧を振り上げると背後から殺気を感じた。
振り向きながら斧で迫りくる何かを防ぐ。
ギィッ
剣と呼ぶには細すぎる突起のようなそれと斧がぶつかって嫌な音を立てる。
「っ、ぐっ」
押し負ければ殺される、瞬時に相手が格上と判断したシザルは焦っていた。踏ん張った際、足首に昨日まではなかった感触を感じてあることを思い出す。
(これならっ…)
「アンタらの好きにはさせない。結界は俺らが守る」
「何のことですっ」
「死ね」
侵入者の低い声には憎しみと怒りがこもっていた。その発言の意味を問いただしたかったが、今は命が大事だと左足のアンクレットに魔力を流す。すると、黒づくめの侵入者が何かに気づいた様子を見せた。
シザルの首に突き刺そうとした凶器は左足に向けられたが、シザルを中心に魔法陣のようなものが展開される。見慣れない文字が浮かび上がるのを見てシザルはつい、侵入者から視線を外してしまった。
それを捉えた侵入者だったが、できた隙に付け入る間もなく、地面に展開された魔法陣から這い出てきた狼たちが侵入者の腕に噛みつき退き倒す。
「はっ、はっ、はぁー」
解放された緊張感との落差に身体が悲鳴を上げていた。
狼たちはシザルがシギから貸してもらった護身用のアンクレットから召喚された。これから目立っていくだろうシザルが殺されては困ると、使い方をシギは丁寧に教えた。
息を整えると立ち上がって侵入者を見る。狼に襲われたせいで侵入者が頭に巻き付けていた布が外れていた。布に包まれていた顔を見てシザルは驚愕した。深紅だが光をよく通す目、白い髪、陶器のよりも白い肌、それに全体的に薄く細い身体の男。
ルキウスも色自体が薄いが、彼はそれ以上だ。
騒ぎを聞きつけた信徒たちが駆け寄ってくる。狼が捕えている男を見た瞬間、信徒たちもシザルと同じような反応を示す。
「ジンドさんに連絡をとりなさい、彼を拘束するための牢屋を貸してもらいます」
動揺しながらも信徒たちは指示に従って動き出す。
(これは色々と確かめる必要がありますね)
ーアルガディア城内ー
王城に帰ったルキウスはアントニオに着替えを手伝ってもらいながら、今後の相談をしていた。
「エバルス様への対抗策っていうか。引きずり落とす手段なのはあるの?」
「難しいな、もう決闘で決める時代ではないから」
かつて最終手段として次期王を決闘で決める時代もあったが、武勲を立てる機会がなくなった頃から徐々にその習慣は薄れ、ついには正式に廃止とされた。
「だが、精霊の絆を…」
「主」
突然シギがルキウスたちの前に現れた。召喚の時のように、何もない空間からの出現に二人は驚いた。
「なっ、シギ!急にどうしっ」
「ふっ」
息を軽く吐きながら前に手を突き出すのとほぼ同時に、何かがぶつかり合う音がした。強風が吹き荒れて、二人は目を開けていられなかった。
「我の人の子らに何か用か?」
少し収まった風に押されながらもルキウスたちは目を開けると、シギが張ったのだろう結界に暗器を突き立てている。青白い光が円形状にシギたち三人の周りを覆っていた。侵入者は何も言わずに身をひるがえすと、壁に溶けるように姿を消した。
「今のなにっ?」
アントニオは乱れた髪をそのままに、興奮していた。ルキウスも呆けたままだ。
「魔力を感知した。侵入者のようだな。警戒するような強さではないが、私がそばにいる前提の話しだ」
「暗殺!?」
「どうだろう…。あんな高度な魔法、ゲッダでも見たことない。あれほどの高度な魔法を使える者なら暗殺業などしなくとも、高待遇を受けられるはずだ」
「いや、分かんないよ」
珍しくルキウスの言葉を否定したのはアントニオだった。
「どうしてそう思うんだ?」
「シギは見た? 相手の顔」
「もちろん」
「赤い目…は問題ないとして、顔も髪もすごく白かった…。それってこの世界ではすごく生きづらいことなんじゃないの?」
「それは…確かに、話しがだいぶ変わってくるな」
「主、あれを追跡できるよう仕掛けを施した。どうする?」
「いや、まだ待ってくれ。単独行動とは思えない、もしかしたら誰かと合流してるかもしれないし、場所も知りたい」
「わかった」
―王宮のどこかー
茶会の主催者のところには、ルキウスたちが襲撃されたという情報がきていた。全員、ここ最近目立っていたし、今後の彼らを危険視した者がいてもおかしくはない。しかし、妙に主催者は何かが引っかかっていた。
(今回襲われたのは、ルキウス、シザル、キーニャ、セタンタ…。まさか、いや考えすぎか…?)
いやな緊張感が主催者の心を蝕んでいく。どうしても先ほどの書類が気になる。ふと、本棚にしまったそれをひっつかみ、机の上に広げる。書類は五百年前のものだが、魔法のおかげでいい状態で保存できている。
書類は計画の関係者を記載したものと研究施設に関して記載したものの二種類ある。
最初はページ番号が振られていなかったのは、特に順番が無くても問題無いと判断したのか、あるいは単に忘れたのかと思っていた。だが、あえて番号を振らなかった、あるいは番号を消したとしたら。
根拠も何もない、しかし不思議と確信があった。
あの時代なら書類が出来上がった後の修正は魔法でしたはず。痕跡を探す魔法をかけると、広げてた書類に紫色の光の文字が浮かび上がってきた。すると、何もなかった右端にページ番号が浮かび上がってきた。
順番に数えていく。協力者書類の番号が一つ、研究施設書類の番号は所々とんでいた。
(番号を消して書類が抜き取られたことをバレないようにしたのか…)
番号が無くても、読むのには困らなかったから気がつかなかったのだ。
暗闇だったが主催者は自身の顔色が青白くなっていくのを感じた。予想していた最悪の事態が当たってしまったのだ。
その日、主催者に協力する貴族たちの元に黄色のカサブランカの花が一輪届いた。黄色のカサブランカの花言葉は「裏切り」。
黄色のカサブランカの花言葉は、のが多すぎかなって感じて黄カサブランカに変えました。
次回はジンドと主催者、シザルのお話し合いがあります。明日から新連載始まりますが、こちらのペースはなるべく落とさないよう頑張りましのでお付き合いいただけると幸いです。
活動報告も出すので小話を楽しんで頂けると嬉しいです。




