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行動制限と貴族冒険者の誕生

お持たせしました! ギルドの活躍回です!

 茶会の主催者は来る日に向けて資料を整理していた。番号のふられていない大量の書類の束に目を落とすと、はじめて読んだ時の記憶がよみがえる。


(この人の書類は読みにくかったな。まぁ、当時はそれどころじゃなかっただろうから仕方ないか…)


 その時は大して気にも留めず、そのまま資料を棚にしまった。


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 エレナ、ジンド、ケルムの前には、貴族階級の者だけで編成されたパーティの一部各代表者が招集させられていた。


 横一列に並び、渡された書類に目を通している彼らの顔は青白い。そこには、彼らと彼らのパトロンの弱みになるような情報が記載されていた。金銭問題、精霊虐待、その他諸々。長くいる者はギルド職員の実力を知っている。ここに用意されてないだけで、証拠もとっくに掴まれてると確信した。


「どっ、どういうことですのっ?!最近のものならまだしも昔の事までっ!!」


 一人の女冒険者が腹を揺らしながらエレナに詰め寄るが、エレナは無言でジンドを見る。


「ただ単に今が一番有効活用できるタイミングだったというだけだ」


「はぁ?!ふざけないで!こんなギルド辞めてやっ」


「できますか? 貴族の貴方方に…」


 代わりに答えたジンドの言葉に憤った彼女は、書類を床に叩きつけようと腕を振り上げたが、エレナの放った言葉に思わず動きを止めた。他の者も悔しそうに俯いている。


 ギルドは今でこそ、学、性格に難ある平民やそれ以下の行く所、冒険者として成功の夢を追う者などが集まる所という印象をもたれやすい。しかし、誰よりもギルドに縛られているのは貴族階級の者だったのだ。


「別にこれを使って今すぐどうこうしようとは考えてないです。ただ把握されている、ということを知ってほしいだけなので」


 姿勢を崩して立っているケルムの言葉に一部の貴族は安堵のため息をついた。


「人手が増える事自体は歓迎です。ただ、ギルドの職員はある意味、冒険者よりも遥かに厳しく審査してますから皆さんの気持ちだけ受け取りたいって話しですよ」


 今度はその場にいる貴族全員が動揺した。そう、この場にいるのはルキウスを陥れようとした者ばかりだ。そして、そのほとんどが、使い捨ての人間をギルド職員にすることで内部からの証拠捏造を企んだ。


「はっ、はっはっ、貴様らが頑張った事は褒めてやろう。よくぞここまで集めた。だが、誰がその話を信じる?上の人間に握りつぶされることも分からん畜生に成り下がったか?」


 一人の貴族がエレナたちを指さし、あざ笑うように言い放った。それを合図に他の者たちもそうだと、罵声を浴びせ始めた。


「別に私たちが被害者だとは言ってはおりません」


「ならばっ、これになんの意味があるっ」


 エレナの冷静な一言に焦れったいと書類を叩く。


「これをもし、匿名の誰かから受け取ったら他の上の方や同格の方はどうなさると思います?」


「ーっ!」


 声なき悲鳴が上がった。もし、そんな事があったら鵜呑みにはしないだろうが興味が湧いて調査される可能性がある。


 何をしても許されるのは不細工に対してだけ。彼らの弱みは、それ以外の人間にも不利益が被ることをやらかしたこと。状況は完全に詰んでいた。


「これが公になって他の貴族方、それこそ上の方や同格の方々が本気を出せば…」


 何人かが膝から崩れ落ちた。鎧が木の床に当たる音が次々と鳴る。


「何が…望みだ…」


 先程の男が床に這いつくばりながら聞く。


「大したことは言わん。一つ、送り込んだ職員はこちらに引き渡せ。二つ、第二王子からは手を引け」


 「それさえ守れば、ギルドでの活動はこれまで通り支援する。破れば全ギルドからの追放と暴露。職員たちにもしも何かあっても公開するからな」


 ジンドの要求にケルムが補足する。要求内容と罰則がだいぶ応えたようで今度こそ誰も不満の声を上げなかった。


 なぜ彼らがギルドに対して弱いのか。武勲での出世が閉ざされた世界で、次男次女以下の貴族は己の存在価値を示すのに苦労した。そこで、ギルドでの功績が武勲の代わりになったのだ。追放されれば、功績作りの場を奪われ、見合い先や今後の居場所を探すことができなくなる。


 精霊王との契約以降、社会は変わった。戦争が無くなり、貴族同士の領地争いも、大規模な武力争いはこの世界から消え去った。軍事力の誇示は意味を無くし、貴族同士の駆け引きの一挙一動の重みが増した。


 平和に酔いしれる間もなく、一部の貴族たちは他貴族たちとの外交に臆病になった。自領で問題があっても他の貴族や王家に救援を送らなくなり、荒れる地方が続出した。国境を守る代わりに、もらえていた様々な援助が消えたせいだ。


 それを良しと思わなかったある上級階級貴族が名乗りを上げた。「武勲の代わりに、ギルドでの功績を立てた者を娘の婿として迎える。その際に貴族同士で協力しても、その時の貸し借りは政治には持ち込まないものとする」


 最初はそれを信じる者はいなかったが、やけになった地方貴族の次男が行動を起こした。まず、付近の領の貴族たちを説得して溜まっていた問題をギルドに依頼として提出させた。


 提出させた依頼を、それぞれ問題を抱えている貴族たちが中心になって他貴族たちと協力して解決した。貴族たちを説得し、協力させ合った功績を讃えられ、地方貴族の次男は上級階級貴族の長女の婿として迎えられた。


 これ以降、ギルドに金銭、人員などの問題で自領内で解決できない問題を依頼として提出する貴族が多くなった。ギルドへの依頼料、報酬は他貴族に応援を頼むより安く済むが、平民にとっては充分高く自領問題を解決できた貴族は多い。


 ほとんど固定化された権力者構造に安定した位置を見出している家、分家、武力以外で成り立っている貴族は、今でも他貴族や王家に直接応援を出している。それ自体が、彼らにとって必要な交流だからだ。


 それまで平民から商人までが互いの抱える問題をいつでも解決できる状態にする、を主な目的として設立されたギルドでは、貴族が冒険者になるのは普通になった。協力した際の貸し借りは政治に持ち出さないのが暗黙の了解になり、パートナーの精霊との絆を深めるための手段にもなった。ギルドは貴族にとって立派な交流場になった。


 ギルド長たちと青星の守り人をはじめとした主催者側の冒険者たちは、その交流場でのエバルス派の貴族たちの主導権を握ることにより、ギルドに潜んでいる者たちの動きを制限することに成功したのだ。


 そしてその動きはアルガディアの全ギルドで行われた。

ギルドの説明どうですか?あまり会話に挟みすぎると混乱するかなって思って後ろに持っていったけど大丈夫ですかね?次回は最初の主催者の書類が出てきます。

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