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決別と二回目の反撃

早速二週間近く待たせてごめんなさい。ふと、この話を書こうとした際に目指そうとして文章が思い出せなくなり、急遽インプット作業をしていました。今回も会話多めです。

  戴冠式の翌朝、ゲッダの王城の外では庭師が水を植物に与えたり、収穫作業に勤しんでいる。その音を聞きながら、日の光がよく通る部屋でルキウスたちとシザル、セタンタたちとの会議は開かれた。


 ルキウスの隣にシザルが、それと向かい合うかたちでセタンタとキーニャが座っている。アントニオとシギはルキウスの背後に控えて起立していた。


 挨拶を済ませ、話題は早速、お互いどこまで何を差し出せるかになった。

シザルの懸念する点は依存先が変わっただけ、になることだった。最悪ゲッダ側に寄りかかる事態になるのはいい。だが、今のルキウスに仲介者をずっとやられるのも避けたかった。気持ちの問題もあるが、それ以上の不安要素があったのだ。


「とっ、本題に入るって言ったけど、これから長い付き合いになるから色々はっきりさせないと」


 セタンタが手を叩いて場の空気を変える。


「ルキウス、貴方これからどうするの?シギさんと引き離されることはなくなったわ。でもね、邪魔はずっと続くでしょう、私たちも無関係じゃないの。貴方がどこに立つか決めて、そこに死ぬ気で辿り着く努力をするのなら、私たちもこの関係を継続する努力をする。でもまだ迷っているのなら、私たちを信頼してくれる人たちのために、貴方無しでやっていけるよう道を探す」


 シザルは表情こそ変えなかったが、懸念事項など言いたかったことを全て言ってくれたことに心の中で感心した。


 全員、命を賭けてくれる忠実な部下もいる。しかし、降りかかる火の粉を払い続けるなど無茶だ。ましてや、セタンタたちとシザルの部下は人間で限界がある。


「私に…王位を目指せと…」


 己が立つべき場所だと思っていた場所は、セタンタたちにとってまだ足りないと告げられたも同然。ルキウスの声に力はなかった。


「そうは言ってないよ。でもそう言うってことはそれ以外選択肢はないって確信してるんでしょ?ルキウス、頭はいいもんね」


 背筋を伸ばすセタンタの隣に座っているキーニャがひょこっと顔を出した。


「…少し、席を外してもいいだろうか」


「どうぞ」


 場の決定権を持つセタンタが承諾したことで、ルキウスたちの離席が決まった。シギとアントニオも無言でルキウスの後に続いて部屋を出る。


 扉の外は通路ではなく、ルキウスのように一旦離席して練り直す者のための小部屋に繋がっている。中には寛げるようベッドまであった。だが、そこには座らずソファに身を沈ませるルキウス。


「私はっ」


「間違っていない」

「間違ってないよ」


 その先の言葉を察したシギとアントニオが同時に遮る。


「もう一度明確にしよう、主はどこに立って何をするつもりだった?私からの質問だ」


「ルキウスはエバルス樣、お兄さんのことどう思ってる?これは俺からの質問」


 澄み切った純粋、よりかは無駄を省いたという言い方が相応しいようなシギの目が、ルキウスの付け足し無しの意見を引き出す。


「私はシギとの契約無効を防いだ後は、第二王子としてキーニャたちとの仲介を…。同時にシザル、精霊教会が他の面でも困っているのならその手助けをするつもりだった。そして私のような容姿で苦労している者たちの救済を人手不足の所に回し環境を整えることができれば…」


 そこに具体的な政策は、何一つなかった。

ジンドやシザルのような、容姿に難がありつつも人の上に立てた者は少ないが、彼ら以外にいないわけではない。ただ彼らのような鋼の精神があってしても、権力など超えられない壁がある。精霊教会のような機関を作ることは不可能であった。


「だが、このことは…」


 前回、青星の守り人のリーダー、ケルムと話したのは誰かの支配層を崩すような真似は危ない、だから自身の代替品が見つかるまでにどうにかするという内容だった。その方針で進めるつもりだったルキウスにとって今、聞かれるのは想定外だったのだ。


「先方は、今欲しいと言っている」


 長年の経験の数と人の上に立つ者として、してきた考え方の違いが今、明確に浮かび上がりルキウスを苦しめていた。汗が浮かぶ彼の前に立つシギ、その間に割って入ったのはアントニオだった。


「その答えを考える前に、まず俺の質問に答えてくれる?その方が整理しやすいと思う」


「兄上のことだったか」


 シギの目線がアントニオで防がれたことで、詰めていた息をルキウスは一気に吐き出した。


「…兄上は…昔は優しかった。寧ろ、幼い頃は使用人や両親に罵倒された私を守ってくれていたんだ。だが兄上の十歳の誕生日の舞踏会。その翌日からどんどん冷たくなって、今はご覧の通りだ」


「ごめんな、こんな話しをさせて。でも、ずっと不思議だったんだ。あんな扱いされてるのにエバルス様に怒りとか、そういう感情持ってなさそうだし。王位を継ぐならそういうとこ、はっきりさせないといけないと思って」


 エバルスに対してルキウスは時折、親愛の感情を見せていたのがアントニオにとってずっと疑問だった。家族に愛されたい気持ちがまだ残ってるのかと思ったが、両親に関しては無、というか諦めの感情に近かった。


「いや、…兄上は私にとって憧れだったんだ。それに、全ての人が心から愛し合える世を作りたいと昔はよく理想を語っていたのだ。今の様子からは、とうてい想像できないだろうが…。それに勉学も武道も全て抜きんでていた、王は兄上以外に考えられなかったのだ…」


 エバルスに何があったのかは分からないが、昔の仲良かった頃の記憶がルキウスの邪魔をしているのだとアントニオは確信した。


 振り返って後ろにいるシギに、ここは任せてくれと目線で伝える。シギが目を伏せるのを見て了承と受け取り、改めてルキウスに向き直る。


「ルキウス」


 アントニオはルキウスの肩に手を置いて呼んだ。


「今必要なのは具体的な策よりかはエバルス様に対してどうするか決めることだと思うんだ。王位を争う以外に選択肢がない、そしてそれをするなら、エバルス様と今まで以上の対立になることは避けられない。ルキウスはどうしたい?」


 目をつむるとルキウスの脳裏に懐かしい記憶がよぎる。この十年間で悲しい方向に変わってしまった関係が元に戻ればと夢も見た。幸せな景色をかき消し、目を開けて見えたのは、大好きだった兄を傷つけなければどうにかできない現状。


 シギとの契約無効を防ぐ策のためにやった軽い口喧嘩とは違う。


「私は兄上と以前のような関係に戻りたい。昔のように理想を語り合って、王になった兄上を支えて共に国を変えてっ…。でもっ」


 ルキウスはギルドで出会った人々とその暮らしぶりを見て、生きた声を聞いた。仕事中に見たギルド外の人々の生活も知った。


「民にそれを待っている時間は無いっ!!」


 そう叫ぶと同時にソファーから立ち上がった。


「君たちさえいれば幸せだろう。私自身の身を守るだけなら充分だろう。だが、私だけが幸せになるつもりはない。」


「恐らく策がまだない事は向こうも想定済みだろう。今は決意を示してこい」


 勢いのままドアを開けようとしたルキウスをアントニオが慌てて止める。


「っちょっと待って」


 扉の取っ手を掴む前に回り込み、急いでソファーに沈み込んだ時に乱れてしまった服装を整える。


「よしっ」


「すまないっ、ありがとう」


 普段は気づくそれも忘れるほど勇んでしまったことが恥ずかしいのか照れながら礼を言う。それに対して大丈夫だと言うように笑うアントニオとシギ、二人がルキウスの後ろに並ぶと気を取り直してドアを開ける。


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「なるほど、幼少期の頃から計画を立てていたのですか」


「えぇ、予定より早く進めることになりましたが、当初の想定よりずっと良い収穫ができました」


「そうですか、私もゲッダとの交流があったら…。ですが、ルキウス殿下無しでは陛下にお会いすることもかないませんから、言ってもしょうがないことですね」


「ルキウスは予定では計画に参加こそしていなかったけど、いずれ参加してもらうつもりだったんだ」


「エバルス殿下よりルキウス殿下とは仲が良かったのでしょうか?」


「そうだね。僕は会談をよくサボっていたし、エバルス様と話す機会はそうなかった。それに僕は小さい頃は美しいと評判だったんだけどエバルス様には敵わなくてね。あまり相手されなかったから」


「ルキウス殿下にとってキーニャ様は初めて友人、昔からさぞ心開いていたのでしょう。エバルス殿下よりもずっと」


「…もっと早くルキウスを懐柔すべきだったって言いたいの?」


「そのような不敬なこと考えておりませんよ」


 ルキウスが席を外している間、シザルとキーニャは雑談と呼ぶには少々不穏な会話をしていた。そしてその全てを一斉無視して紅茶を楽しんでいるセタンタ。


ガチャッ


 扉が開かれる音に反応してシザルたちは会話を、セタンタはカップを持つ手を止めた。


「結論はでたのかしら?」

「はい、まだ具体的な策はないのですが」


 話しながら席に近づくルキウスたち、その言葉にシザルはでしょうねという顔をした。


「そのことは問題ないの。昔とは違うしエバルス様を押しのけて王座を手に入れるなんて、準備をしても難しいでしょうから」


「それだともうお見通しのようですね」


「当たり前よ、私たちの手を借りる以上、中途半端なことは許さない」


 セタンタはふくよかな体でこの世界でいう美女の体型だ。その見た目と普段のゆっくりとした口調から柔らかい雰囲気の女性という印象を持たれやすいが、今の彼女はそれとは程遠い冷たく鋭い氷の刃のような空気を醸し出している。


「私は王座を手に入れます」


 ルキウスのその言葉にセタンタとキーニャはニヤリと笑みを浮かべた。シザルも珍しく自然と口角を上げていた。

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 同時刻、アルガディア首都の在するギルドのギルド長室にはジンド、ケルムそしてエレナがいた。


「準備は?」


「完了だ」


「いつでも」


 ケルムの気安い返事を咎めず、ジンドも動じることもない様子から彼らが集まって話し合うのが初めてではないことが察せられた。


「よし、貴族共を躾てやれ」


 エレナの手にある書類には貴族についての情報が記載されている。そして同じような書類の山が彼女の机には積んであった。

 アルガディアに襲い掛かる第二回目の反撃、ゲッダの戴冠式では王族に牽制を次回はギルドの存在意義とは何かを明かされるのと同時に、貴族たちが本格的にどうこうされます。

久しぶりのギルド長どうでしたか?

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