双緑花の判定2
アントニオ深掘り回に続き今回も書きたい部分だったので比較的早く書き終わることができました。
今回は聖庭について少し情報が解禁されています。聖庭については次回も少し情報を解禁していく予定なので楽しみにしてください。そして双緑華の「華」を「花」に修正しました。豪華な方がいいかと思いましたが当初の下書き通り「花」で進めることにしました。
ゲッタ王国は今でこそ国と認識されているが、本来の姿は庭である。故に、国王夫妻に求められるのは聖庭の番人としての能力と意識であり、番人として相応しいか問うための仕組み、「双緑花の判定」がある。
番人の役目は、庭の管理を怠らず、秩序と魔法の文明を守ること。他者による聖域である庭の破壊を許さないこと。できるだけ景色を守り続けること、といったものだ。
具体的な項目は無く、聖庭から得られる植物の恩恵を受けて暮らしているゲッダ王国の人々や他国の者が庭を荒らすこともない。魔法に関してはむしろ開発のために動いており、そのために庭を一部潰すということもしていなかった現国王夫妻はなぜ自分達がこのような扱いを受けているのか分からなかった。
「お前たちっ」
兵に支えられながらもおぼつかない足取りで部屋に入ってきたのは前国王であった。信じられないといった顔で辺りを見渡す。
「双緑花の判定を使ったのか!?」
今にも咳き込みそうなガラガラな声でキーニャの方に枯れ木のような体を向ける。
「我々は一国の主である前に庭の番人であるにも関わらず役目を果たしていません。であるならば当然の措置かと」
キーニャの代わりに答えたのはセタンタだった。ゲッダ王国の王族の中でも一番穏やかな性格のセタンタの裏切りに前国王は啞然としていた。
「「汝は庭の秩序を守る者か」」
こちらの騒動など知ったことではないと言わんばかりに宝石の花、双緑花はギラギラとした光を身に宿したまま現国王夫妻に近づく。花弁一枚が縦と横、共に二メートルほどある花の迫力に夫妻は怖がって身を引いてる。
「「汝は庭の秩序を守る者か」」
「ほら、答えないと双緑花からも番人失格とみなされますよ」
セタンタも初めて使うはずなのにころころと愉快そうに今の状況を楽しんでいるかのようように笑っている。
「わっ、我々は即位してから、ずっと、ゲッダを守ってきました!庭の管理も徹底し、枯らせた植物はありませんっ。民の住居以外で庭の植物の伐採も行っておりません!」
「警備状態だって常にっ、万全の状態にしております!魔法も、より庭の植物の開発と管理のために研究を進めていますっ!」
双緑花に番人失格と判断されたらどうなるかは誰も知らない。使用されたことがなかったというのもあるが、受け継がれた記録には使い方と使用目的こそ書かれていたが、判定の結果どうなるかについて記載は無かった。もしふさわしくないと判断されたら、その恐怖に夫妻は震えながらもこれまでの実績を主張した。
「「否、否、否」」
無慈悲な声が響き渡る。
「「汝らは守れなかった」」
「アルガディアの要求に従って何度も庭の植物を渡していましたね。しかも無償で」
ジトリと夫妻を睨みながらキーニャは無償を特に強調しながら言う。
「アルガディアは精霊王の住まいぞ!またいつかっ、降臨なされる時に、ゲッダがっ、聖庭のあるべき姿を保つのはっ」
「「聖庭とは」」
あっさりと失格の烙印を押された夫妻は抜け殻の状態だったが、キーニャの言葉に国王が唾を吐き散らしながら反論する。だが、その反論も双緑花の言葉に遮られた。
「「聖庭とは、精霊王だけのものに非ず。全ての精霊のためのもの、全ての精霊の希望」」
「精霊の、希望?」
初めて知った聖庭の役目に皆の緊張と畏れで強ばった顔が呆けたものになった。
「「聖庭は、王と精霊王が精霊と人との共存を願って作り上げた。精霊を尊重し、敬意を払うことを忘れないためのもの」」
キーニャとセタンタの体が一瞬震えた。会議でキーニャが口にした国の成り立ちの謎の一つ、聖庭について少し知れたことが彼らを興奮させていたのだ。精霊にとって不自由という謎は残っているが、その起源の奥深くに触れられたことは彼らの心を熱くさせるには充分だった。
他の者も同じ気持ちらしく、同じように興奮と誇りで口角が上がるのを必死に抑えていた、ただ二人の例外を除いて。
「余計わかりませんっ!私たちは確かに新種を植えたり、開発をしたりしましたが
私利私欲に使用したこともございません!先代も、その先代もまたなさったことです!」
「まだ分かりませんか?」
王妃の涙ながらの訴えに呆れたような顔を向けるセタンタ。王妃の顔は涙と鼻水でみっともないことになっている。
「確かに庭の管理に注意を払っていたことは知っていますし尊敬もしています。しかし、全てはアルガディアの要求に従うためでしょう?ゲッダの、聖庭の在り方にアルガディアに従うことなんてどこにも書かれていないし、誰も言っていない」
「あ…」
「何より守るの意味を理解していないように感じます。現場で庭の管理をしている者たちの気持ちを考えたことがありますか!ただひたすら、アルガディアに献上するための植物を世話している者たちの気持ちを!」
徐々に力が入るキーニャの言葉に夫妻はたじろいだ。
「たとえ、全く同じ景色を守れずとも、かつてのゲッダの庭師たちがっ、民が抱いた誇りを忘れずに継げるようにするのが我ら番人の務めなのではないのですか!?文化を守るということではないのですか?!」
長い間、国が蹂躙されるのを見てきたセタンタの言葉に周りの家臣たちは涙を流した。
この反乱に協力した若者は既にアルガディアに完全服従の時代しか知らない。本や高齢者から聞くかつてのゲッダを知り、何か違うと思いつつ確信を得られないまま生きてきた。双緑花の言葉で自分たちが間違っていなかったと事実が得られ、やっと溜め込んできた思いをぶちまけられた彼らは開放感でいっぱいだった。
「「汝らから番人の資格を剝奪する」」
もう反論する気力もないらしい夫妻はただ呆然と宣告を聞いていた。
「「汝らが新しき番人か?」」
今まで夫妻に向けらていた双緑花の輝きがセタンタたちに向けて放たれる。
「はい、恐れながら私が次の番人の役目を務めさせていただきたいと思っております」
身を引きたくなるのを我慢してセタンタは胸を張って宣言した。
「「汝は我らを呼び出し、宣言をした。汝を判定する権利が我らにはある。それを理解しているか」」
「もちろんでございます。それを承知の行動にございます」
セタンタの言葉に頷くような動きをした双緑花。
「「新しき番人よ、我らの期待を裏切るな」」
そう言って元居た天井に帰っていったのを見届けると夫妻以外の全員が大きく息を吐いた。
「うまくいったね、姉様。戴冠式でのアルガディアの王族はどんな反応するかな?」
「本当ね…。本当に変わったわね」
元々、本来行なわれるアルガディアとの会談まで王権交代のことは秘密にするつもりだった。明かすことを戴冠式に変更したの以外にもルキウスからの提案があったからだ。戴冠式でどうせ色々宣言するのだからそれを見せつけた方が驚かすには効果的だろうというルキウスの言葉にセタンタとキーニャはにんまり笑って承諾した。
アルガディアに遠慮はしないと言いながらもどこかルキウスに気を遣っていたのだろう。家族への情が残っている、それは間違いがそれ以上に上に立つ者として、本格的な王族としての責任感がルキウスに芽生えていた。
セタンタが家臣たちに約束したルキウスに今後のことを聞くということについても良い報告ができそうだと、気持ちは明るかった。
計画の障害になるものは消え、あとは実行に移すだけになった彼女たちは早速戴冠式とシザルとの話し合いに向けて準備に取り掛かった。
とうとう世代交代しましたね。セタンタたちの苦労が報われ、ルキウスの成長がまた少し出てます。
次回はシザルが登場、異世界、転移といったら主人公やメインキャラに救済されるキャラがいっぱい出てくるというイメージ(個人の偏見です)がありますが、シザルみたいに自分でどうにかできますけど?みたいなキャラを出して主人公にひたすら冷たいのをやってみたかったんですよね。というか私が美形に関して完全無敵、という属性を付けたがりというのが大きいです。
語りすぎましたね、評価者が現在9人までいきました。この評価ってよくわかってないのですが10人目募集中ということをお伝えします。ツイッター初めて強欲になってきました、いけませんね。
よければこれから出す活動報告もお楽しみください