双緑花の判定1
すんごい、遅くなりました!長くなるので一旦区切ります!
アルガディア国、三大貴族の一つのリバニア家の家紋はなぜ百合なのか。それは五百年前に遡る。まだリバニア家が中流階級貴族だった頃の話だ。
リバニア家当主は知略と戦略に長けていた。いつも何か考え込んでいるその様子を見た人たちは嘲笑した。いつも考え込んでる頭でっかちは百合みたいだ、理屈ばかり詰め込んだ頭は重すぎて今にも落ちるぞ、百合みたいに下ばかり見てるお先真っ暗のリバニア。
そんな彼を直接城に招いたのはアルガディア国初代国王ジュッセ=アルガディスだった。下ばかり見ている百合のようなリバニア家当主は初代国王と精霊王との交渉に貢献した功績を称えられて当時の二大貴族の一つに加わった。二大貴族は三大貴族となり見事、上流階級貴族の仲間入りを果たした。
相手の考えを全て見抜くその目は、上から見下ろして全てを掌握する神の目のようだと言われたが、彼は笑って『神の目など恐れ多い、私が見えるのはせいぜい百合の花より下にあるものだけです』と言ったことは今でも有名な話だ。彼は家紋を百合に改めて、リバニア家は知略と戦略に長けた家系となった。
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シザルは醜いという理由でリバニア家、実家でひどい扱いを受けた後、摘発された。それでもリバニア家の一員であること、そうであったことに誇りを持っていた。もう除名されている身であるためたとえ装飾目的でも百合は軽々しく扱えないが、リバニアの血が流れていることには違わない。
シザルは王宮への廊下をメイドに案内されながら従者をしている信者と共に歩きながらほくそ笑んでいた。
(まさか摘発された私が兄弟たちより早く王宮に足を踏み入れることになるとは。これは気分がいいですね)
ここに来るまでにすれ違ってきた人は軽蔑の目で見てきたが、シザルが軽く威圧すればすぐに目を逸らしてそそくさと逃げた。
「お待たせ致しました、ルキウス様がお待ちです」
開かれた扉の先には、いかにも緊張してるルキウスと後ろに立って控えているシギがいた。
(さぁ、何を頂けるのでしょうかね)
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シザルに届いた手紙内容、それはルキウスが開く茶会へ招待する、という内容だった。この時期に届くということは自分を王子たちに対抗するための勢力として引き込むのが目的とみたシザルはその考え自体は評価した。だが、元々泉ではない集団の自分たちを仲間にするのはもっと早くても問題無かった。
今のルキウスを神聖視し、カレハテタモノの希望として崇めるたりする者もいるが、同じ立場ではなくなった彼に嫉妬や増悪の目を向ける者も同時にいる。シザルはそのどちらでもなく、力を得た瞬間、動き始めたルキウスを不快に感じていた。
それでも招待に応じたのはゲッダ王国からの手紙だった。教会の経済的独立、もし実現すれば資金援助を口実にした貴族からの手出しが大幅に減り、護衛や護身術の訓練にも金と時間が使える。
「招待に応じてくれたこと感謝する」
「こちらこそ、除名された身でありながら恐れ多くも精霊王の愛した王城と宮殿に招かれたこと、身に余る光栄です」
双方とも表情はにこやかのまま対峙する。最初の挨拶こそ礼儀正しいシザルだったが、着席してからは好き勝手にお菓子が積まれた皿やケーキスタンドをわざとらしいくらい眺めまわして好みの菓子を探しては自分の皿に積んでいる。
「キーニャからの手紙を見たか?」
「えぇ、とても魅力的な話でした。ただ二つ返事するわけにもいかない事情がありまして…。それとお許し頂けたらいくつかお聞きしたいことがありまして」
「もちろんだ。できる限り答えさせてもらう」
「質問によっては答えられないと?」
「私からは、な」
一瞬、剣呑な視線を双方交わすがすぐににこやかな笑顔をまたはり付けた。
「最初に気になったことですが、キーニャ様はゲッダ王国の第一王子だったと記憶していますが、魔力及び植物研究開発特殊機関最高責任者となっています。しかもこの機関は立ち上げ予定、正直混乱しているのが現状です」
(キーニャ様との仲は良いとは聞いてますが、一体ゲッダ王国で何が?まさかついに下剋上…)
リバニア家といえどゲッダ王国との縁は薄い、彼が取引している茶会の主催者と自身で作った繋がりからはある程度の情報は得ているが全ては把握していない。
頭をよぎったのは七年前、シザルは十五歳で契約の儀は失敗し、それを機に教会に入れられたばかりのことだった。 普段は噂一つ聞かないゲッダが珍しく人々の話題の中心になったことがある。それはゲッダの第一王子と現国王夫妻がアルガディア国への贈花をめぐって喧嘩した、というものだった。第一王子、キーニャは花を贈ることを拒否するよう国王夫妻を説得しようとしたのである。
アルガディア現国王夫妻は当時、聖庭で咲いた珍しい花を自国の行事にかこつけてこちらに贈るよう遠回しに要求した。苦労して育てた花を横からかすめ取られるような真似をされて激怒したキーニャはそもそも要求に従う必要はないと言った。それに同じく激怒したのがアルガディアに従うことがゲッダの正しいあり方と考えるゲッダの現国王夫妻だ。結局はキーニャが折れて花は贈られ、以降キーニャが逆らうことはなかったため、この話は人々の記憶から忘れ去られた。
「当然、驚いたことでしょう。これは最後に話すつもりでしたが、それを聞かれると話さざるをえませんね」
シギに目配せをすると、今まで真顔でいたシギはにっこりと笑って背後の扉の取っ手をゆっくりと引いた。開かれた扉の奥から出てきたのは執事服に身を包んみ、銀のトレーを持ったアントニオだった。
銀のトレーには上品さを感じるクリーム色の手紙が乗っている。差し出されたトレーから手紙を取ったシザルは目をわずかに見開く。王家の紋章が押されたそれは契約を持ちかけられた時に届いた手紙によく似ていたが、微妙に紋章の装飾が違った。その形の持つ意味に気づいた瞬間、シザルの顔は面白そうなものを見つけたようなものに変わった。
「この紋章は現国王夫妻のみが使えるものですね」
「あぁ、ゲッダ王国新王の戴冠式への招待状だ」
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二日前のゲッダ王国ではキーニャたちの計画が本格的に動き始めていた。キーニャたちは確かに国民から人望はあるが、それは現国王夫妻の仕事を手伝って優秀な成績を納めてきたからであり、これから行おうとしている正反対に近い政治の方針を掲げて賛成してくれるとは限らない。
彼らがどうやって世代交代をするか、それはゲッダ王国誕生してから受け継がれたものであるにも関わらず、一度も使われたことがない最終手段。
「なっ、キーニャ、お前っ!自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
「そうよっ!ただでさえ瘦せて醜くなってアルガディアからの目が冷たいのに!セタンタもどういうつもり?!」
天井が高い円形状の部屋で金切り声を上げてキーニャとセタンタを非難しているのはゲッタの現国王夫妻。話があると夫妻に時間をとってもらったキーニャたちは、ただ淡々と王座を降りてもらうと告げた。
「それにお前までっ」
全身怒りで震わせながら国王が見たのは自分達の背後に控えながら実際はキーニャたちの味方である宰相だ。
「私も、現在のゲッダのあり方に疑問を抱いております。宰相として、この聖庭を守る番人の一員になった時は自分を誇りに思いました。しかし、実際に働き始めてから私が感じたのは情けなさと惨めさでした。もう貴方方についていくことはできません」
一切表情を動かさず、目も合わさずに言う彼を見て一層怒りを強くする王と悲壮感を出す女王。
「聞いたでしょう?それに彼だけではないのですよ」
キーニャの言葉を合図に入室してきたのは、ずっと志を同じとする仲間たちだ。
「はっ、我らを殺して力づくで奪うつもりか?」
「まさか、仮にも実の両親相手にそのようなことはしませんよ。我が国の素晴らしい決まりに従うのみです」
歩きながら言うキーニャがふと足を止める、その手が握ったのは古びてはいるが光沢のある緑色の紐。それを見た国王夫妻が息をのむ。味方である宰相たちも真剣な顔つきが少しこわばった。それぞれの顔を見回してキーニャは勢いよく紐を下に引いた。
天井から鎖の凄まじい音をたてて二つの塊が降ってきた。虹色の輝きを放つ透明な鎖に繋がれた巨大な緑色の二つの花の形の宝石は、まるで生きているかのように光を内側から放ち始めた。宝石の形の花であるにも関わらず茎は植物のそれで硬そうな石にめり込んでいる。
「「汝らは番人足るか」」
宝石の花から若い男女の声が重なって部屋の中に響き渡った。
ジュッセ、花の形の宝石、どこかで見ましたね。
また次回をお楽しみにしてください。よかったら感想下さい//




