親友と友人みたいな
珍しく本当に早めに投稿したので驚きましたか?
今回は会話文多めなのでさらっと読めるではないでしょうか。
「気持ち悪さの共有をしとこうかと思って」
「あ?」
「厳しく接する割には試練を与えて、これを突破できたら成長する、なんて甘い事をする。現実は何をして、どうすれば上手くいくなんて乗り越えなきゃいけないものすらわからないモンなのに」
「俺はあの方の命令に従ってるだけだ。……優しくしたいのか厳しくしたいのか一番分からないのはこっちの方だ」
「…そうか」
ジンド自身からは答えが得られないことが分かるともう興味は失せたのか挑発的な笑みをやめた。それを見たジンドも怒気を消す。珍しく浮かない顔をするジンドをらしくないと思ったのかケルムがため息を付いて無理矢理肩を組む。当然、ジンドはそれに顔をしかめて睨むがケルムは全く気にしない。
「一杯やるか」
「何でお前と」
「いざという時に連携がとれなくては困る。任されてる仕事は違えども職場は同じなんだ」
「はぁ、どっちの仕事でもお前は俺の部下だ。俺の指示に従っていればいい」
「アンタが前線に出る事態になったらどうする?アンタは俺の戦い方を知ってるだろうが俺は知らん」
「はぁ…。お前の奢りな」
「アンタの方が稼いでるだろ」
まるで付き合い料だと言わんばかりに迷惑そうな顔をする。再びでかいため息をついてケルムの腕を肩からどかすとそのまま二人とも夜の街に消えていった。
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ルキウスの部屋で窓辺に並んで座る二人、アントニオの表情は相変わらず影で見えない。
キーニャをアントニオにも紹介したいと言った時からアントニオについて考え始めた。状況を受け入れ、自分の味方になるまで半日も無かった。
シギにアントニオは何者だと聞いたら
「直接聞いてやれ」
と言われた。どちらにしろ自分で聞いた方が一番納得できるだろうと勇気を出して、シギに席を外すよう頼んだ。どんな答えが出ても目を背けない覚悟でルキウスは今、ここにいる。
「そんな深い意味も考えもないよ。俺はシギ以外に居場所がなかったんだよ。俺は親に捨てられて寺、ここで一番似てるのは精霊教会かな?で育てられたんだ」
精霊教会と言った瞬間、分かりやすくルキウスの顔が曇る。
「一番似てるってだけで別に酷い扱い受けてきたわけじゃないよ」
「そ、そうか」
「違うってわかっていても俺を捨てた両親と同じ人間に親しみとかそういう感情を持つことができなかったんだ。寺の人たちも無理に触れてこようともしなかったし。それで…ちょっと話変わるんだけど…」
これから言うことをどう説明しようかと迷って視線を下にやる様子は暗闇の中でもその影が動きから分かった。
「俺のいた世界の人間は精霊とかとは離れて?いや、関わらずに生活しているんだ。それで精霊とか見える人は本当に珍しくて…俺はその一部の珍しい部類に入るんだ」
精霊無しの生活など、この世界の人間にとっては考えられないことだった。流石に驚きを隠せなかったルキウスはアントニオのある言葉に引っかかって身を乗り出した。
「精霊が見える、というのは契約した精霊?それとも契約無しの精霊?」
「色んな人がいるんだけど、俺の場合、契約していない精霊も見えるんだけど本当に力が弱くて唯一見えたのがシギだったんだ」
「俺がシギと出会ったのは五歳の時、既にあの姿だった。明らかに普通の人と違くて人じゃないって知った時は好奇心でいっぱいだったよ。それから空き時間はほとんどシギと過ごすようになった。寺の人たちは俺の体質と事情のせいか分からないけど何も言わなかった。シギが、親友さえいればよかったんだ」
そこまで一気に早口でしゃべるともう一回息を吐く。
雲が消えたのか影が消えて徐々に月明かりがアントニオの顔も照らしていく。こわばった表情でそれでもルキウスの目を真っ直ぐ見つめていた。
「俺がルキウスに協力したのはシギが協力するって決めたからだよ。それと自分もなんかやらなきゃ置いてかれるような気がして不安だった」
本音を全て吐き出したアントニオに初対面の時のような勢いも明るさもない。まぁ、そんなものだろうと当たり前だと思いながらルキウスは寂しい気持ちになった。それでも気持ちを受け止めた上で今度は自分の番だというように話し始める。
「私では親しい友人になりきれないか?」
「俺は十年かけてシギと親友になった。俺とルキウスも時間が必要なだけだよ」
「だが、君は…」
人に親しみを抱けない、そう言おうとしたのを察したのだろうアントニオは少し笑みを浮かべて静かに言う。彼自身、確信はないのかそれでも歩み寄りたい気持ちを示す。
「大丈夫って言葉が合ってるのか分かんねぇけど、異世界だからかな?環境が変わりすぎて、その…元の世界の人間とはまた違うような雰囲気があるから今ならそういう感情もてるかもだし…。はっきり言って充実してる。まだ二週間だけど、初めて今までなぁなぁにしてた人に向き合った!初めて真剣に自分を変えたいって俺も本気で役に立ちたいって思えた」
人間関係を適当にしていたとは言え別に他人に冷たくしていたわけではない。学校に通い友人作りもそこそこにこなしていた。執事の館でも同じように関係を作った、そこまではいつも通り、アントニオの意識を変えたのは他者からの本気の叱責だった。
ルキウスはその言葉に今度は体勢を戻した。アントニオから顔を背けるというよりかは、雰囲気を友人たちの語らいの時のものにするための行動にみえた。アントニオもそれにならって前を向き姿勢を崩した。
「期待…していいか?」
「いいんじゃね? 俺もしていい?」
「あぁ」
気が抜けたのか脱力した様子で更に足を崩して二人同時に大きいため息をついた。
「寝るか。シギは…」
「俺が伝えとく、その、改めて友人としてよろしく」
「よろしく」
目を逸らして髪をかきながら言うアントニオに初対面よりもわずかに気安い笑みでルキウスは言った。
ルキウスと別れてから使用人から案内されて図書室に向かった。月明かりの中で長椅子でくつろいでるシギに近づく。
「終わったか」
まるでこちらを見ていたかのように本を閉じてこちらに向き直る。付き合いこそ長いがシギが人ならざる者であることを忘れたことはない。
「何を読んでたんだ?っていうか読めるの?」
「この国の歴史の本だが、お前も読めるだろう?」
「そんなわけ…ん?なんで俺…」
そういえばここに来てから言語に苦労したことはなかったなと今更ながら思い出す。
「そこは神力でちょちょいとだな」
相変わらずの雑な説明も今に始まったことではないとそれ以上追求はしない。
「スッキリした顔だな。であれば主も問題ないだろうな」
「なんでそう思うの?」
「お互い友人が少ない同士、何か通じるものがあるのではと思っただけだ」
珍しくシギと真面目な話しをするアントニオはいよいよ疲れがきたのかあくびをする。
「寝るか」
「そうしようぜ。お前どうやって寝てんの?」
「こう、主の魔力に溶け込んでだな」
「うっわ」
急に煙のように薄くなっていくのに怖気づいて声を上げる様子を見て楽しんでいるシギをアントニオは睨む。
「おやすみ、友よ」
「おやすみ、親友」
じゃれ合いが終わると挨拶をしてそれぞれの寝床に向かう。
シギは魔力に溶け込みながら元の世界の竹林を思い出す。山で一人散歩するのも飽いて近場の寺に遊びに行った。山を生かす人の手のみ入れる人間が多いこの場所を愛していたシギは、今となっては数少ない人と接することを好む神獣だった。
整備された竹林は、程よく光も風も通す。色んな緑の光と影が入り混じる寺の関係者以外立ち入り禁止の場所、黒いゴツゴツした岩に寝転がる。まどろんでいると竹に捕まりながら斜面を登る子どもと目が合った。
「誰?!」
ちょっとの恐怖とたっぷりの好奇心が青色の瞳から溢れていた。
「ほぉ、視えるのか」
視える子供も少なくなった現代、シギの興味をそそるには充分だった。子どもが持っていた力は本当に微々たるものだった。ほぼ無いに等しいにも関わらずシギが視えたのは神獣としての力が強かったため、子どもの小さな霊感でも反応することができたのだろう。
「私はな…」
十年、あの出会いの日から毎日子ども、アントニオは会いに来た。喧嘩など激しい出来事はほぼ無い、緩やかで穏やかな日々を積み重ねた。遠慮なく来るが、境界線を引くことは忘れないアントニオの成長が少し恐ろしくなるくらい、シギは情が移っていた。親友だと言われた時も暖かい気持ちで受け入れた。
明日からの日々の前に一つ懸念を消せたことを嬉しく思いながらシギの姿は今度こそ暗闇の中にかき消えた。
次回からまた小難しい話が始まるので遅くなります。
生存確認は @Kurobara_Ouji でできます。今回はアントニオは深堀りしましたがいかがでしょうか。会話文自体は前々から作成していたのでついに書けて楽しかったです。霊感と出生的にアントニオを平凡と呼べるのか、と思うかもしれません。ですが、どれもほぼこれからは出ないし霊感で活躍もないので平凡とさせていただきました。