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異文化を受け入れましょう

会話のシーン悩みまくった挙句ルキウスと合流するところまで持っていけませんでした。読みにくいという声をいただいたので少し改良しました。明日以降、他の指摘された部分を修正していきたいと思います。

「まぁ!素晴らしいわ!これを私たちのために作ってくれたの?」


 大樹に支えられる城の広いバルコニーに二人の人影、見下ろせる景色は木々と鮮やかな花畑。女が嬉しさのあまりに動く度に花びらのように薄い布を何枚も重ねたようなドレスがひらひらと動く。薄桃色の淡い色のドレスは、長い白銀の髪と透明な薄い青い瞳をより神々しくさせた。


「喜んでくれて何よりだ。あと、君のおかげでこれも完成したんだ」


差し出した手のひらにのっかっているのはエメラルドのように緑色に輝く蕾のような形の宝石だった。男が指で蕾の先をトンと叩く。すると、蕾がゆっくりと開き、ビー玉ぐらいの小さな緑色の光の玉が二つ、フヨフヨと中から出てきた。


「この子たちは? まさか…」


「そう、ここの精霊王になってくれる子たちだ。数百年ここで育てればきっと立派な精霊王になるよ。そうなれば、私たちの後の時代も精霊たちはきっとうまくやっていける」


「えぇ、きっとそうね。私たちのためにここまでしてくれてありがとう、きっと○○も喜ぶわ。ありがとうジュッセ…」


…………………………………………………………………………………………


「ハッ、ハァー、ハッ、ハァー」


 飛び起きたいつかの茶会の主催者は汗でびしょ濡れの顔を両手で覆った。当時は幸せな思い出、今になっては忌まわしい記憶でしかないそれに苛まれるのはもう今日だけのことではない。


(当時の計画は順調、今頃はいい感じに育っているはずだ)


 時計に目をやり、思ったより深くなった仮眠にため息をつく。着替えて地下に降りると部屋には既に人がいたが、主催者に気にする様子はない。


「ジンド」


「はっ」


アルガディア王国首都にあるギルドの副ギルド長ジンドが直立の姿勢で待機していた。


「ギルド内の貴族たちの様子はどうだ?」


「ご命令通り、第二王子殿下が変装してギルドで訓練しているという情報を元に貴族たちが送り込んだ職員や冒険者、密偵は全て把握、現在は逆に貴族の情報を仕入れさせています。これで後手に回る事態はだいぶ少なくなるかと」


「ご苦労、引き続き貴族たちに感づかれないよう動け。知られるのもまずいが、情報源になっているのが自分だけじゃないのと知られるのも厄介だ」


「はっ」


 主催者は報告するジンドの方を振り向きもせずに答え、ジンドもその態度にも眉一つ動かさず返事をする。


「今日は下がれ、また用があったら呼ぶ」


「失礼いたします」


 地上への隠し通路を歩きながらジンドは吐き出せない複雑な思いを胸に抱えていた。ギルド長であるエレナがルキウスにこだわる理由は教会を守るため、彼にとって最も敬愛する人、茶会の主催者がこだわる理由は世界の軌道修正がルキウスたちにしかできないからだ。エレナにルキウスにこだわる理由がわからないと言ったのは単純に認めたくなかったからだ。


(私はあの方の側を勝ち取るために血反吐を吐きながら戦った。なのに、城内でぬくぬく育ってきた第二王子は努力をしなくてもあの方の側にいれる)


 握る拳に力が入り血が滲んだが、痛みも血の汚れもジンドを落ち着かせるには不充分で険しい顔のまま闇に消えていった。


…………………………………………………………………………………………


(慣れない…)


アントニオは執事の館で上級クラスと交流をしていた。


 彼が精霊召喚で現れた事を信じる者は半々、高貴で美しい人型精霊だから眷属を連れて来たのだと言う者もいれば、王子が自分の精霊召喚の際の不正行為に加担した下男を精霊と一緒に召喚されたことにしたんだと考える者もいた。


 アントニオが短期間の間、生徒として過ごすことが発表された日、他の生徒たちの多くが驚愕したのと同時に疑いの目を向けた。それもそのはず精霊召喚で人間が出てきたことはなかったからだ。アントニオは迷った挙げ句、それっぽく事実を混ぜた嘘をつくことにした。


  人型精霊であるシギは他の精霊とは別の場所に住んでおり、召喚が行われた日にちょうどシギと立ち話をしていたら突如出てきた魔法陣に巻き込まれた。だが人間である自分は召喚の魔法陣に適正がなかったため、どう弾かれるのか分からずシギが自分を守るためとっさに精霊として認識されるよう魔法をかけた、と言うと完全にではないが一部の者は納得、というよりかはそういうことにしとくかという感じで追求も探りもしようとはしなかった。


 アントニオはただの平凡な容姿の人間であり、警戒する者もいるが、彼の存在はいてもいなくともそんなに変わらない、というのが現状だ。


冒頭に戻り、アントニオはパーティー会場で上級クラスの生徒の一部と話をしていた。最初は上級クラスの中でも割りと穏健派、王城近くの貴族よりかは容姿に敏感でない、都会から離れた田舎の中級階級貴族と話をしていた。彼らとはすぐに打ち解け、実技や化粧についてコツなどを教えてもらっていた。その他にも容姿関係の苦労話も聞いていた。そんなアントニオを悩ませていたのはさっきからこちらをずっと凝視してくる青年だ。精霊召喚の際に見たエバルス含む貴族たちよりかは太っていないが肥満よりの体型で金髪の髪を後ろで束ねている。執事服に身を包んだその姿は仕える者とは思えない威厳がある。


「私の気のせいでしょうか?さきほどから熱視線を感じるのですが…」


 ぎこちない笑みを浮かべながら先ほどまでずっと喋っていた友人たちに聞く。


「ははは、本当に熱烈ですな」


「ウィルト=バーニッシュだよ。位でいえばこの中では一番高いよ。何したのさ」


「何もしてません。お姿さえ今日初めて見たのですから」


 姿勢を丸めすぎない程度に身を若干かがめて小声で話していると青年が近づいてきた。


「おい。そこの姿勢の悪い君!」


物理的にも態度的にも上から目線で言ってきた青年、ウィルト=バーニッシュを固まって無言のまま見つめるアントニオたち。


「君だよ! 上級精霊様のおまけ君!」


「おっ、おまけ…」


 ウィルトは館内でも有名なのか、あちこちから視線を感じる。興味深そうに見る者、ヒソヒソと話し合う者、中には驚いている者もいた。監督のセバスは黙って微笑んでいるのか無表情なのかどっちともいいがたい顔で無言のまま直立姿勢でいる。


「アントニオと申します。私に何か御用でしょうか?」


「君はおまけだ。いや、おまけすら過ぎたものだな。精霊様がいなければ君はこの国どころかこの世界の平民ですらない」


 アントニオはその言葉に自分のこの世界での不安定さを再確認した。元々ルキウスの執事の立候補したのは役に立ちたいという気持ちもあったが、異世界で身分も仕事もないまま居るのは耐えられなかったからだ。シギは庇ってくれるだろうし、推測だがルキウスは自分を追い出しはしないだろうとも考えていた。それでもこの世界で暮らす以上、職を得て己の立場を確立したいのが本音だった。


「しかも、君が仕えるのは醜い第二王子。非常に哀れだよ。醜い王子を支持するのは忌々しい精霊教会の不細工共だしね」


 かなり頭にきたアントニオだったが、容姿など下らないと言わなかったのは多様化する時代を生きてきた彼が学校やあるゆる場面で異文化は尊重して受け入れろと教育されてきたからだ。容姿をそこまで重要視するのは理解できないが、逆に彼らにとっては自分は容姿の重要性を軽視する者に見えるはず、相手と話し合うには上手く否定せずにやるのがいいと考えた。


「容姿が一般で言う平均以下の者でも立派な民で貴重な労働力でもあります。そのように言うのは貴重な人手をよそにー」


「躾に決まっているだろう?人に害なす醜い者が見目麗しい者と同じ権利を持っていると勘違いされるのは困る」


「人に害をなすのはあまり良い環境で育てられなかったからでは?」


「もし、路地裏で気味の悪い表情をしている者がいたらどう思う?」


 警戒するだろうと言おうとしたのをウィルトが遮った。


「もし、それが不細工な顔立ちのせいでそう見えるとしたら?だが、何人が足を速める前にそう考える?ただでさえ不快感を与えるのに路地裏で遭遇してみろ。不審者にしか見えないだろう?」


 アントニオは何も反論できなかった。誰かを見て気味の悪さ、怖いと感じたときそれが顔の骨格上そう見えるだけなんだと考えたことがなかったからだ。罪悪感にかられ顔がうつむくが、ウィルトは容赦なく畳みかけた。


「お前は犯罪者だと聞いて見目麗しい者を思い浮かべるか?それとも醜悪な顔の者を思い浮かべるかどっちだ?」


 冷や汗を流しながらも自分はどうだったか考えるアントニオ。答えは、色仕掛けの類に特化した犯罪者と言われなければウィルトの言う通り醜悪な顔の者を思い浮かべるだろう。その様子を見てはんっと息を吐くだけの嘲笑をした。


「お前も私たちと同じだ。容姿は人生を左右する、人にどう思われるかで全てが決まるんだ」


 項垂れた顔を跳ね上げて必死に訴える。


「それでも容姿で能力が決まるわけではありません。その人の素質と努力などではないでしょうか?今のあなた方の”躾”では人材を殺してしまうのでは?活かすことが国の繫栄に繋がるのでは?」


「それは第二王子殿下の御意見か?」


ルキウスたちとこの風潮を変えていきたいと言ったのは事実だ。しかし、それは願いであって、変えると断言されたわけでも今言った自分の考えをルキウスが言ったわけでもない。


「執事は仕える者の中でも高い位だ。主の言葉として受け取る者もいる。お前は誰の言葉を今、口にしている?」


 完全にやらかしたと気づいたときにはもう既に遅かった。マナーや化粧、技術を覚え始めたばかりで、まだ3日目だと言い訳する気にもならなかった。


「君は今のような発言を繰り返ししていたようだな。君の世界がどういうものかは分からないが、それはここではとても危険な思想だ。しかも君はここでの考えを完全否定はせずに、まるで情報交換のように自分の価値観を広めていった。一種の洗脳活動かと思ったぞ」


 他の生徒たちはアントニオの次の発言を待っている。場合によっては将来、自身が仕える主人に報告するために。


「執事としての自覚を持ちたまえ」


 すれ違いざまに耳元でそう言うとその後は何も言わずに去っていった。


 交流会がその後どういう流れになったのかアントニオは何も覚えてなかった。気が付いたら戻っていた自室のベッドでぼーっとしているうちに寝ていた。


 翌日、寝坊をしたアントニオは慌てて登校、昼休みまでどこか頭がふわふわしていて身に入っていなかった。昼休み、そんなアントニオを出迎えたのは昨日、ウィルトに話しかけられる前まで喋っていた友人たちだ。


「アントニオ〜。生きてますか~?」


 わらわら集まってきた友人たちに囲まれながら食事は開始された。


「相当こたえてるな」


「いやでもちょっと安心したかも」


「なんで?」


 一体何に安心したというのか、傷心して呆けていたアントニオはその言葉に反応して首をぐりんっとその発言をした友人に向けた。その動きに思わず身を引く友人たち。視線を向けられた友人は他の仲間と一度顔を見合わせると、目をそらしながらも気まずそうに答えた。


「いや~、ウィルト様は中立派だからさ」


 バーニッシュ家は中級階級貴族だが王都の近辺に住んでいる。上級階級貴族とほぼ変わらない環境で、上級階級と同じような教育を受けてきた。


 容姿に厳しい、というのは当たり前だが貴族世界において上級階級貴族とそれ以下の貴族の違いは何かというと、区別または差別のやり方である。暴力行為や値段のつり上げ、出入り禁止というのはよくある話だが、たいていは一回で終わり、時間や労力をかけて特定の個人を執拗に追い詰めることはない。だが、それをやるのが上級階級貴族だ。精霊教会のような集団にしろ、一個人にしろ徹底的に潰すのが彼らの普通だ。


「僕たちは田舎貴族だから容姿以前にそもそも人自体あんま見ないんだよね。広くて見渡せるけど一軒一軒が遠いから顔まで見えないんだよ。だからアントニオの世界のこと?珍しいなぁ~、で聞けたけど…」


「第二王子殿下から言いまわるよう言われたのかなと思うな」


「異世界のアントニオが言えばこの世界の常識を知らないんだな、とか慣れてないんだなで済ませることもできるからね」


「だからウィルト様は皆のために確かめてくれたんじゃない?」


「そしてもし、アントニオが独断で間違った方向に行こうとしているのなら止めるおつもりだったのしょうね~」


「皆、驚いていた。あの方は普段、醜いや不細工共といった言葉は使わない。人を馬鹿にするような目もしない」


 そう言われると、あの時会場にいた人たちの反応の本当の理由が見えてくる。彼らにってウィルトのあの行動は普段通りの彼なら有り得ないことだったのだからざわつくのも当然だ。アントニオは恐る恐る疑問を口にした。


「もしも…。仮定の話ですが、私の容姿が平凡でなかったらどうなっていたでしょうか?」


 考え込んだのはほんの数秒、まるで世間話をしているかのようだ。実際彼らにとっては世間話程度のことなのだろう。アントニオにとってその答えは、ここは本当に異世界なのだと実感するようなものだった。


「美しかったら、上級精霊様のお付きなのかなって噂になって、そんで昨日までの発言も慈悲深いで終わってたかもね」


「まぁ、でもここでは醜くてもそんなに怖がらなくても大丈夫ですよ~」


「ただ誰も話しかけなかっただけだよ」


 そうだねと友人たちはお互いににこやかに納得し合っているが、アントニオはひゅっと息をのんだ。


「執事は割りと人と顔を合わせる機会が多いから不細工でやりたがる人はいないし、需要ないからそもそもここに来たことないけど、セバス様方の目があるから暴力は絶対ないよ」


(もし、俺が平凡じゃなかったら…。美人だったとしても中途半端に崇められて肝心なものを学べずじまい。最悪、変な勢力ができていたかも)


 問答無用で美人を善、不細工を悪とするこの世界でシギとのことで変な噂をたてられてたかもしれない事に気づいたがそれよりも恐ろしかったのは。


(不細工でも孤立して、間違ったやり方にも気付かないまま、ここでの変な考えを広める異常者になってた。平凡な容姿じゃなかったら潰されていた…)


 瞬間、アントニオは今までの呆けていた様子が嘘のような早さでテーブルにつきそうになっていた頭を起こして駆けだそうとしたがそれはすぐに止められた。


「間違っても今ウィルト様に頭を下げようなんて考えるなよ」


 足を止めたアントニオが振り返り、疑問を口にしようとしたが友人たちのあまりの鋭い目つきに反射的に口を閉じた。


「見目がいいなら何しても許されるのは不細工に対してだけだ。平凡な容姿の君に交流会で喧嘩を売るような行為したんだぞ、泉になった第二王子殿下の執事候補に。これ以上、ウィルト様を困らせるな」


「頭を冷やしてくる」


「セバス様方に伝えておきます~」


 自室に戻ったアントニオはベッドに両こぶしを叩きつけるように突っ伏した。学校で教えられた「異文化は受け入れましょう」を順調にこなしていたと思っていたが、今はそれが自分たちの文化、常識をこの世の正解とする前提で、他の文化は変で間違ったものだけど受け入れてあげましょうと言ってるようなひどく上から目線の言葉に感じていた。


 容姿に固執する変な世界という認識で、容姿はそこまで重要ではないとまるで幼子を相手に諭すような感覚で自分の常識を人の頭に埋め込もうとした己の行為にアントニオは吐き気を催した。


(恥を知れ! アントニオ…!)


 自分で自分に叱咤するが、やってしまったことはもう仕方がない。無理やりいい方向に考えるとするなら四日目で気づいたことが幸運だということ。切り替えて自分が今できること、これからできる、できそうなことを考える。


(俺が今回忠告してもらえたのは平凡だったからだ。ルキウスはこの世界では不細工認定で何をしても歪められる…)


 ルキウスがどう扱われてたかはエバルスが襲撃してきた時以外はほぼ見てないが、ここにきてから元の世界では有り得ないことがまかり通っていた実話をいくつも聞いてきた。


(シギは上級精霊で美人に入る部類だ。神聖視されるだろうけど変な勢力が貴族側で発生しそうだし…。美人の言うことは全肯定、まともに意味を考える奴なんていない)


 どんなに深い意味や考えを持った発言でも美しい者は正しい、とされるこの世界では言葉を受け取られてまずくるのは肯定。しかも、平均以下の容姿の者も美人に対して苦手意識が強くどのくらいその言葉が響くか期待できなかった。


(平凡はこの世界でも平凡で、扱いも一番元の世界とほぼ変わらない。一番客観的に見れて、親身になりやすい存在。この世界での身のふるまい方を勉強するのに適しているのも情報を集めやすいのも俺だ…!)


 変な脚色無しで真実に近い話を聞けるのは自分であることに気づいたアントニオはすぐにウィルトに謝罪と話を聞きに行きたかったが友人たちに止められた手前、そう簡単に動くこともできなかった。


コンコンッ

 

ベッドの上に頭を突っ伏し、頭の両側に拳をを置いたまま悩んでいると部屋をノックする音が聞こえた。


「はいっ!」


 驚き過ぎて声が裏返ったがとりあえずドアを開けるとセバスがにっこりと微笑んで立っていた。それを見た瞬間、自分の今の乱れた服装に気づいて一気に青ざめた。その様子を見てフフッと笑って口を開いた。


「言いたいことはありますが、自覚しているようなので後にしておきましょう。少しお茶でもいかかがでしょうか?」


…………………………………………………………………………………………


 案内されたのは光がまぶしすぎない程度に差し込む部屋。木の葉がこすれる音と床の上で揺れる木々の影が心を落ち着かせる。温かみを感じる薄いベージュの部屋の窓側に配置されている白い丸テーブルに広げられた紅茶と菓子を挟んで向かい合う形でアントニオたちは座っていた。


「ここは、学ぶところですが半分以上の学生が仕え先が決まっています。なのでこちらで得た情報を在学中に実家や仕え先に知らせることがよくあるのです。昨日のこともきっと多くの学生が報告を入れているでしょう」


「…謝るべきでないと止められました」


 しばらく黙っていたアントニオだったが意を決して自分の考えを話し始めた。


「私は正直、この世界の常識を甘くとらえていました。この環境の中で暮らしている人がいることを全く考えていなかった…。執事もただここで安定した地位が欲しかっただけだった」


 途中で怒られるのではないかと思ったが嫌味一つとんでこない。セバスは涼しい顔をして紅茶の香りを楽しんでいる。安心はできなかったがとりあえず先を話すことにし、再び口を開いた。


「自分が考えていたこと、やろうとしていたことに気づかされた時は恥ずかしかった。はっきり言ってどうなるかは分からない今、ちゃんと執事として自覚を持てるかも分からない」


 セバスは相変わらず涼しい顔で菓子に手を伸ばしている。


「指摘されて初めて執事になりたいと心から思いました。シギたちが頑張っているのに、変な噂たてたまま帰るわけにはいかないんですっ」


 そこまで言ったあとようやっとセバスは顔を上げた。顔は変わらず涼しい笑みを浮かべているが目は真剣にアントニオを見つめている。


「少し理由としては弱いですが…。そうですね、このままでは技術を学んだところで挽回は難しいでしょう」


 そこで一息おいて、また話し始めた。


「ここは人脈を増やすために交流する場でもあり、学校でもあります。他の方、特にウィルト君は既に主が決まっていて貴方は表向きはあくまでも執事候補。人目にさえ触れなければあまり困ったことにはならないでしょう。ウィルト君も素人ではありませんし」


 それを聞いたアントニオは辛うじてニヤつきそうになるのを抑えるが、目が期待に満ちていることは明らかだった。


「今はスケジュール的にウィルト君は自室にいるはず。誰にも見られずに話しができるでしょう」


…………………………………………………………………………


 ウィルトの自室の中、アントニオは頭を下げていた。


「君は馬鹿なのか?誰にも見られていないからよかったもの。君はっ」


「私はあくまでも執事候補です」


「候補だとしてもっ」


「昨日は私の至らぬ点をご指摘下さりありがとうございました。セバス様の許可はいただいております。私にこの世界の常識と身のふるまい方を教えて下さい」


 言葉を遮って昨日のお礼と頼み込むを行う。失礼だとは思ったが、今ここで礼儀正しいいい子ではいては諭されて帰されると考えたアントニオは必死だった。長い時間に感じる数秒間、頭上からため息が聞こえた瞬間、肩をびくつかせた。


「館にいる間だけだ。君が正式に執事になったら付き合いは考えさせてもらう」


「ありがとうございます!」


ウィルトからの許可が下りた瞬間、安堵に包まれつつも姿勢は崩さないよう努める。


(挽回する絶対に。視えない分、俺にできることを)

少しツイッターではしゃぎ過ぎたので今後は控えます。相変わらず更新遅いですが見放さずにいてくれると嬉しいです。今回は私自身の人を見た目で判断するときの考えを入れました。

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