世代交代に向けて
お久しぶりです、ついに一話ごと用のノートを買いました。それと今までパソコンのメモ帳に書いていたのですがドキュメントに切り替えました。お出かけ中にスマホで書くことも増えたので、ペース上げられるといいんですが…。今回はシザルとキーニャたちがメインです。
嘲るように言った彼らには目もくれず信徒が自分を引き寄せた男を見る。
「はっ?」
「シザルって…」
それまで怒りの形相を浮かべていた三人は呆けた顔をしてシザルの顔を見た。
「ごきげんよう、そんなに薬が欲しいのならその有り余ってる体力を薬を買う資金稼ぎに使ってはいかがでしょう」
先ほどと違い穏やかな微笑みだが言葉は彼らを馬鹿にしたものであり、それまで呆けた顔をしていた三人の意識を戻すには充分だった。
「この元凶野郎がぁぁっ」
「よくも精霊教会風情がっ」
「おや、手荒な真似はよしていただきたい。でないと…」
カチャ キンッ
金属音が鳴ったかと思うと三人の眼前に突き付けられたのは成人男性の一般的な腕よりも少し太めの鉄の棒だった。
「なっ」
いつの間にか現れた十人ほどの信徒たちは鉄の棒を構えてシザルたちをかばうように立っている。武装した信徒など見たことも聞いたこともない三人はシザルを見た時以上に驚いた。
「信徒がっ、ってか街中の武器による暴行行為は禁じられてるぞっ!こんなことしっ」
「ご安心を事前にギルドに交渉して街中の警備兵たちに話を通してもらったのです。今回の供給大幅減少で恨みをたくさん買ったので絡まれる信徒が増加、冒険者は雇えないですし、ですから腕に覚えのある者たちを集めて少し、ね」
ようやく絞り出した言葉も阻まれ、度重なる威圧によりついに退路を求めて逃げ腰になる三人をシザルが追い詰める。
「散々好き勝手してこられたでしょう?こちらは金銭より人権の尊重を求めていたのに…。払っていただけないならそれ相応の対応をさせてもらいます」
にっこり微笑みながら絡まれていた信徒の背中を手で押しながらその場から護衛の信徒と共に離れた。シザルたちはは絡まれていた信徒を落ち着かせるため、信徒が所属する教会の裏庭を回った。
「あっ、ありがとうございました。シザル様!」
信徒は複数人に絡まれたのが余程怖かったのかまだ震えており、身を守るように体を縮こませている。そんな信徒にシザルが無言で肩に手を置くと反射的に信徒は肩をびくつかせた。
私の決断で行ったことで恐い思いをさせてしまいました…。申し訳ございません」
「いっ、いえっ、必要なことだというのは重々承知しておりますっ!」
実際、シザルの今回とった対策でかなりの損害がでてる冒険者は多い。流石に罪のない新人冒険者はある程度の支援を受けてるものの、今まで教会を軽視していた冒険者たちは今までギルドで個数制限などはあるが無料で使えていた消耗品を突如実費で買わないといけない状況になったのだ。薬分の金を抜いた、あるいは少なめに計算してやりくりしていた者たちにはだいぶ痛手となった。そのおかげで教会は完全ではないが冒険者の生命を握るものとして見事再認識されたのである。
「今まで隠れて生きていました、今も怖いです。実際、あの方たちに囲まれたときにどうすればいいか分からなくなりました…。ですが私もシザル様の役に立ちたいのです。私たちが気を強くもって堂々とすることで貴方様の献身に報いることができるのなら…。私たちはっ」
勢いのまま顔を上げる信徒の男の気持ちがよくわかるのだろう、同じ境遇で生きていた護衛の信徒たちも無言で力強く頷く。
「もうよいのです…。気持ちは充分受け取りました。今日はもう休んでください」
信徒の言葉にシザルは今度は優しい笑みを向けて信徒を見送った。最初は頑張ると宣言した手前、早々に休むのは気がひけたようだが、シザルと護衛の信徒の説得により休みをとることを了承させた。
二日後、本部に戻り通常業務を片付けていたシザルに一通の手紙が届いた。
「ハッ」
そう吐き捨てるとゆっくり片手の指でつまむように手紙の端を持つとゆっくり頬杖をつきながらそのまま玩具のように指でもてあそぶ。揺れる手紙の間から時折覗くその顔は信徒に向ける優しい笑みでもこの間の三人組に向けたような威圧するような笑みでもない、眉間にしわを寄せて怒りと侮蔑を含んだ笑みを浮かべている。
----------------------------------二日前の夜
「……ということで僕らはルキウスたちに協力したいと思ってる」
ここはゲッダ王国の別館の会議室、現国王夫妻からキーニャに渡された場所とはいえ、ここへ入るための暗証番号はとっくに変更されており、キーニャ以外誰も知らない。セタンタと宰相とその息子、その他にも現在国を仕切っている上位貴族の子供といった若者が半数以上を占めている。皆、ここ数十年でひどくなるアルガディアからの扱い、そして他国のゲッダ王国の認識に対して不満を持っていた。同時にそれら全てに対して下手に出る現国王夫妻とその同世代の貴族の行為は精霊王が愛した聖庭を貶めているようにしか見えず苛立ちを抱いていたところをキーニャたちにこの作戦にのるよう説得されたのだ。
「シャーキ草の研究ができるのは喜ばしいことです。精霊の魔力回復用の薬品の融通もきくかもしれませんし…」
真っ先に口を開いたのは宰相だった。何か懸念することがあるのか組んだ手を見つめて次の言葉を探している。
「…未来はあるのでしょうか?」
キーニャとシザルの仲介をすることで資金援助と研究の補助をするのと引きかえに、シギとルキウスを引き離そうとしているアルガディアの王族、貴族連中を黙らせる手伝いをする、だがその後のことがわからないのだ。シギがいる手前、今までのようにぞんざいに扱われる事は少なくなるだろうが完全に無くなるとは言い難い。ルキウスが精霊教会とゲッダ王国と結託して無視できない勢力になればルキウスだけじゃなく自分たちや教会にも危険が迫る。自分たちに危険が及ぶのはいい、元々計画内容が内容だから暗殺されることも想定していた。教会側だって世捨て人の集団ではない。むしろ、いかに社会に貢献して己の権利と居場所を勝ち取れるかを日々試行錯誤しており、特に本部といった上層部は政治に長けた者が多い。宰相が心配している事はいつまでルキウスのお守りをするべきなのかだ。実際、物理的に仲介するのはシギだが主人はルキウスであってこれからも関わり続けねばならない。ルキウス本人はシギが守ってくれるだろうが第一王子のエバルスを目立たせたい、仲介役を消したいと考える連中がルキウスではなく味方である自分たちを消す、という動きにでる可能性だってある。そしたら、結局そこに人も精霊もあてることになる。終わりやルキウス自身の今後どうするかが分かっているなら立てられる計画も現時点では立てられない。
「確かに、ルキウスから泉として認められた後どうしたいか、どうするかは聞いてない。不安になるのも仕方ないと思うよ。でもルキウスをこちら側に引き入れること自体は前々から話してたよね?」
「そうですが、今回のような形は危険ではないでしょうか?であれば…何とかしてルキウス様のお力無しで教会と繋がる手立てを考えるのはいかがでしょう?私たちの機関と国の教会、そしてシザル殿と協力関係を結べればシギ様のお力もいらないのでは?精霊しか信用できないのであればシギ様ではなく、各々の精霊を伝令として使えばいいのです」
おぉっ、と会議室に集まった人々がその手があったかというふうに声を上げた。元々、世代交代自体はルキウス無しでするつもりだからわざわざルキウスを中間地点としなくとも国の管理下ではない教会と繋がることは連絡さえとれれば可能だ。
「うん、いい案だ。けどもっと欲しくなったんだ。最初はルキウスに向こうの情報に関して色々教えて貰おうと思ってたんだよ。本音はエバルス様を押し退けて欲しかったんだけど、全然そんな気なかったし、ちょっと疑問もでてきちゃったからさ…」
不自由であるが同時に王城で国の秘密を探るには一番適しているルキウスに王になってもらい、国に不満を持っている者同士で協力し合えたらと考えていたのだ。しかし、肝心のルキウスにそんな気持ちは無くむしろ、兄、エバルスと仲が良かった頃があるのと、アルガディアの時期王としてキーニャから見ても優秀だという点から憧れと親愛の感情を持っていた。兄を打倒しろと焚き付けたくとも下手すればルキウスに嫌われる可能性があったため断念したのだ。そしてもう一つ、月日が経つにつれ浮かんだ疑問はこの国の歴史の成り立ちであった。本当に小さく、何でもないような疑問だが、気になり始めた日から夢見が悪い。最初はただの夢と思っていたのだが、夢が物語のように内容が続いていることに気づいた。そのことから夢ではなく記憶なのではと疑い始めた。
「疑問ですか?」
宰相の息子が尋ねた。
「ゲッダ王国は精霊王が愛した庭なんだろう?文献には精霊のための庭とも書いてあった。なのにシャーキ草の件といい、どうしてこんなに精霊が暮らすのに不向きなんだ?」
ここ数十年、ゲッダ王国がアルガディアに配慮した結果、精霊が住みにくい場所になったわけではなく元々なのだ。
「精霊の居住地域に元々するつもりではなかったのでは?」
若い貴族の意見に同意見らしい何人かがキーニャの顔色を伺いながらうなずいてる。
「アルカディアの情報を入手できればそれも分かるよ。僕のも君たちのもまだ全部推測だからね。そしてそれらの情報を得るにはルキウスともっと頻繁に接触する必要がある。姉様が王位につけば僕ももっと自由に動けるだろうけどそれじゃあ足りないし、世間的にも会う理由があるにこしたことはないしね!あと、伝令は基本シギさん以外を使うつもりはないよ。僕らが協力関係を結んだと発表したらきっと妨害する者がでてくるはずだ。シギさん以外に完璧に全部さばける精霊はいないだろうね」
そう言われると皆、何も言えず俯いた。現在、精霊で最強なのはシギ以外に間違いなく、この場にいる者たちの場合は、どうしても精霊自身が直接行かなくてはならない。シギのように魔力で分身的なものを作り出せる精霊はおらず、意思疎通もできる以上、他に適任者がいないのは事実だった。
「決まりでいいかしら?」
今までの会話を黙って聞いていたセタンタは手を叩いて注目を自身に向けた。
「ちなみに安全面で問題があることは分かっているわ。そこはルキウスになんとかしてもらいましょ?どうせルキウスもどういう地位につくのか結論を出さなければならないし、今までのように城にこもりきりにはさせないわ。私たちがちゃんと聞き出してあげるから心配しないで」
これまで臣下を引っ張ってきたセタンタの言葉に皆は分かりやすく安堵した顔になった。彼らはセタンタとキーニャのことを彼らの両親より理解している。彼らはいつだって有言実行であった。そしてその積み重ねが彼らの信頼を勝ち取った。
次回はルキウスとアントニオが出てきます。
そして、もっと小説の宣伝をしたくなったので小説用のTwitter垢を作成いたしました。




