騙し捕り
ギルドに入ってからジンドしか活躍してないやんけと思いの方、ルキウスが主人公するのはシザルとの交渉する時です。しばらくお待ちください。ジンドの仕事ぶり好きだよ、な方はまだしばらくお楽しみいただけますね。執筆速度にもよりますが三月中にはルキウスはシザルと対面できます。
翌朝、起きたルキウスはテントの中で頭を抱えた。身体の疲れはそれなりにとれている。王宮で育ってきた割にはいいほうだろう。ただ、どうにも頭がスッキリしない。原因は確実にあの夢のせいだ。
(なんであんな夢を…)
正直心当たりも何もない。
「主、おはよう」
シギはよく眠れたようで爽やかな顔をしていた。
「おはよう。よく眠れたようだね」
ざわついている心を悟られないように微笑む。
「主、今考えているのはすぐ答えがでるものか?」
「…でない」
シギが察するのが早いのは今に始まったことではない。きっと神獣故の勘なんだろう。
「なら、集合場所に行こう」
「そうだな」
いつ襲撃されても対応できるよう、すぐ外に出れる格好をしているので身支度はすぐに終わった。
テントから出て、昨晩見張り番をした焚火の所に集まる。他のパーティーの人たちも集まり始めており、集団の中心に青星の守り人のリーダーがいた。
「おし、皆集まったな。事前に言っていた通り、残りの依頼はそれぞれギルド職員が割り振ってある。その書類を配るから各パーティーのリーダーは来い」
初耳の話が出てきたが、恐らくジンドの差し金だ。じゃなければ、こんな洞窟で書類配りなど隙を作るようなことはしない。だが、正直これは何のためなのか分からない。このタイプの後出しなら、野ばらのパーティーでもうやった。
「冒険者ギルドに関わらず、こういうことはよくあります」
書類を受け取るときにふと耳打ちされた。
「私たちの知らないところで何かが動いているようだ。わざわざ伝えてくるとは思わなかったが、ジンドの協力者だろうか」
「なぜ、そう思われるのでしょうか」
人前なので中級階級貴族の従者らしい振る舞いをしながら尋ねるシギ。
「ランクが高い冒険者が洞窟内で書類を配って説明しろだなんて、そんな危ないこと納得するとは思えない。青星の守り人はパーティー自体がジンドの協力者だと思うけどそれならおかしい点が」
「書類は回ったな。それじゃ説明するぞ」
全てを言い切る前に説明が始まってしまったので大人しく話を聞く。
「新人たちは昨日の討伐の二次被害の片付け、そのついでに現場周辺の小さな依頼をまとめて片付けておけ。詳細は昨日渡された書類に記載されてたから省くぞ。新人たちには、俺の部下二人とFランク冒険者を付ける。金狼の群れと俺たち青星の守り人は一緒に動くが、お前たちになにかあっても部下の一人が報告しにくるから心配はいらない。各自依頼が一つ終わるごとに精霊で達成依頼、次の依頼、移動地点を報告しろ。全ての依頼が達成したら報告後ここにまた集合。それでは総員依頼開始!」
号令で皆が動き始めた。
ルキウスたちも、青星の守り人の内の二人とFランク冒険者と行動を開始する。
それからは逃げたオークにより破壊された水路や途中で力尽きて異臭を放っている死体の処分。荒らされた道や施設、畑や庭の整備に忙しかった。
片付けが終わったら、薬草探しに物探しに奔走。最初から分かってはいたが、わざわざBランクパーティーがやる依頼じゃないと思ったルキウスは、考えを巡らせていた。
本当の目的は、金狼の群れに関わることだろう。Fランク冒険者はそもそも関わる人が少ない、利用しにくく、うまみもないから除外できる。
金狼の群れの人たちは、ルキウスのナヴィオラの花の知識不足が判明した時、中級階級貴族であることをバカにしていた。
容姿ではなく、階級を下にみたということは、彼らがそれ以上の貴族の位を持っているかパトロン、つまりは後ろ盾がいるということだ。そして、彼ら自身か後ろ盾の貴族になにか問題が起こった。だが彼らは貴族でプライドが高い、そんな彼らがギルド職員の調査に大人しく応じるはずがない。
ギルド職員は平凡な容姿で平民や商人などそこまで位が高くない者の出が半数以上だからだ。野ばらの時と同じように、新人育成や精霊教会の威厳示しもただの口実、パトロンと引きはがすためだったのだろう。
そこまで考えたルキウスは、これ以上は仕事に影響すると目の前の依頼に意識を戻した。
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「なっ、ふ、副ギルド長! 何をなさるんですか!?」
ギルドではジンドと数人のギルド職員によってある一人のギルド職員が手錠で後ろ手に拘束されたまま、足枷をはめられて床に転がされていた。
「そう暴れるな、ここは取引をする場だ」
「私が一体何をしたというんですか?!」
「そうだな、情報漏えい、新人育成の妨害行為の補助だ」
「っ!」
途端にびくつき始める職員にジンドが追い打ちをかける。
「やはり捨て駒だな。ギルド職員の厳しい審査にすんなり通れた時点で普通は疑うはずだ。まぁ、思っていたより言われた仕事はできるようだな。いかにも言われたことだけやる手駒を多く使いたい貴族の好きそうな奴だな、お前は。第二王子の冒険者として情報を持ち出し、金狼の群れが妨害行為をしやすいように仕事を割り振ったり書類の改ざん、嘘の素行調査書の作成まで全て一人でやったことに関しては褒めてもいい」
顔がどんどん青ざめていく職員。
「私がお前にしてほしい事は簡単なことだ。ただいつも通り、ギルド職員として働いて、たまにお前の保護者のことを教えてくれればいいだけだ」
保護者とは後ろ盾のことを指す。
「そ、意味が、わからないのですが…」
ジンドはまだ知らないふりをする職員に全く優しさを感じない笑顔で教える。
「ギルドには入室時に、装飾を一切身に付けてはならない書類部屋があってな。必ず二人以上でないと出入りはできない。そこに入ったことにすればいい」
「はっ?」
「盗聴器に五分以上音が入ってないと怪しまれるだろう?」
拘束される前の会話を思い出し、全て分かっていた上で最初から仕組まれていたことを知った。安全のため、装飾品など服以外の物を預かると言われたのは怪しまれない会話を作るためだったのだ。
「も、もし…情報を漏らしたことがばれたら、消されてしまう」
「言っただろう?お前は捨て駒だと、たとえバレなくても時がくれば情報を持ってる者を少なくするために消されるぞ」
絶望して青ざめていた顔が白になった。
「こちらかも情報を渡せば時間は稼げるだろうし、お前と忠犬さえ手に入れば準備は間に合うはずだ」
「忠犬?それに何をするつもりだ?」
もう全てバレた職員に取り繕う余裕はない。
「お前のような捨て駒じゃなくて専門の隠密のことだ。それから、邪魔な貴族を消すことは別に珍しいことではないだろう?」
「本当のこと明かされたとして貴族が大人しくそれを認めるとでも?」
「お前が心配することではない。それとも、私たちのことにも踏み込んで消される可能性を上げたいか?」
職員は白い顔のまま、顔を勢い良く横にふった。ジンドは満足そうな顔で、職員の右耳に付けていたピアスをいじりはじめた。その間に他の職員たちは打ち合わせ済みなのだろう、手際よく拘束具を外す。
「これからもいつも通りに働いてくれたまえ」
職員は返されたピアスと残りの荷物を身に付けて諦めた表情で仕事に戻った。
次回、まだ主人公できてないルキウスがやっと少しずつ自分から動きます。今のところ後手後手な彼だってずっと無力を嘆いているわけじゃないんです。




