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ナヴィオラの花と悪夢

前回はこの世界の設定をあげましたが分かりやすかったでしょうか?まだまだ前途多難なルキウスたちはギルドで仲間を作れるのでしょうか?

 城に帰ってから書類に目を通し始めたルキウス。


 書類に不備はない。討伐依頼から採取依頼など、多岐にわたるものがあり、どれも図解付きでしっかり書かれている。


 気になるのは、そのどれもがいつ受けるか記載がされていない。それ自体はおかしなことではないが、ジンドは明日からの依頼についてだと言っていた。ギルド側から依頼を与えられるときは予定も書かれるはずだがそういうのが一切書かれてなかったのだ。


「主、気にしたとこで仕方がなかろう。とりあえず頭に叩き込んでおけ」


「そうだね、今のうちに装備もそろえとこうか」


 翌朝、前回のように先輩パーティーの怒りを買わないよう20分前にギルドに来た。それを見たジンドはちょっと残念そうな顔を一瞬見せたが、すぐに戻し手でこっちにこいと指示した。


 他の冒険者前だからわざわざジンドから出迎える必要はない。前回は、野ばらの降格通知があったが今回はそういうわけではない。中級階級貴族の演技にも慣れたかのかルキウスも大人しく指示に従う。


「今回はナヴィオラの花を他のパーティーと合同で採取してもらう。パーティーランクBの青星の守り人と金狼の群れ、そしてFランクの冒険者たちだ」


 青星の守り人たちは、この世界でも元の世界でも平凡な容姿だった。それでも不細工に厳しすぎる世界では平凡な容姿もある意味恵まれている。


 逆に金狼の群れは美男美女が多かった。だが、それはこの世界基準、元の世界の者から見たら金銀の鎧と装飾に身を包んだでかいハンプティダンプティの集団にしか見えない。


 Fランク冒険者は、ボロボロの革の装備を身に付けており、ゴロツキや盗賊と言われた方が納得できるような雰囲気の者ばかりだった。


「よろしくお願いいたします」


「この者は副ギルド長の遠縁だとか。いけませんなぁ、副ギルド長とあろう者が贔屓など」


 嫌味をハンプティダンプティ集団の一人がニヤニヤする顔を隠そうともせず言う。


「私としても恥ずかしい限りだ。だが、こいつを受け入れれば、精霊教会から提供されている薬の量を元に戻してくれるよう働きかけてくれるという話でな。致し方ないわけだ」


 そう言うと嫌味を言った男は、ウっと言葉を詰まらせた。


 実は高ランク冒険者がとあるやらかしを行ったせいで精霊教会の怒りを買い、一時的に支給品の一部を減少されていたのだ。


 本来なら、罰はやらかした張本人のみに課されるものだが、普段から続いている精霊教会の軽視による問題はこれだけでない。これを機に、冒険者全体に関わる厳罰をあえて処し、教会の威厳を示した。これはやらかした冒険者が在籍するこのギルドだけでなく、他のギルドでも伝えられている。


「今回の依頼も例の件が関係している」


「精霊教会なんぞの威厳を示すために…」


 悔しそうにハンプティダンプティ集団は唇を噛んだ。


「俺らはどうすればいいんだ?新人といっても討伐経験自体はあるんだろう?」


 青星の守り人の冒険者たちは気にしない様子で質問する。


「雑用やらせたりちょっとコツやらなんやら教えてもらえれば結構だ」


「そうか」


 今回はちゃんと道中で作戦を立てて向かうことになった。


「ナヴィオラの花はラヴィオラの亜種だ。鑑賞として貴族に人気だが開花時期は不定期でどんな環境で育つかもよく分かっていない。冒険者や教会関係者、もの好きな貴族なら知っているが知らない奴も多い」


「けど、開花場所は判明しているのですよね?」


 ルキウスが尋ねた。書類には採取場所がはっきり記載されていたのだ。それが分かっていて花の生態系が不明とは不思議な話である。採取さえしてしまえば研究などいくらでもできるはずなのに。


「研究が進んでないのは、精霊に嫌われている花だからだ。研究しようにも精霊の協力なしでは困難な上に今のところ鑑賞以外に使い道はないから、そこまで研究しようとする人がいなければ、その中に嫌がる精霊を説得してまで研究したい奴もいない」


「なるほど」


 採取場所である洞窟は定期的に魔物がいないか、花が開花してないかの確認のため巡回されている。道も整備されて常に灯りが設置されている状態だった。そのため、書類に記載されている場所まで他の採取依頼よりはるかに早く進めた。


「これは…」


「大きい…が、小さいな」


 何を言ってるんだという発言だが、間違ってはいない。ナヴィオラの花はまさしく大きいが、とても小さい花なのだ。


 地面の中の根を除いて、見えるとこだけでも全長2メートルはある。ただ、付けている白い花自体は直径1センチあるかないか。それがびっしり何百何千も一房ごとに付いているのだ。見た目で言えば、花がすごく小さくなったツリガネソウに近い感じだ。それが五本まとめて生えている。


「これをどうやって採取するのですか?」


 ルキウスたちが持ってきているのは小さい袋でナヴィオラの花全部はどうやっても入りきらない。


「ああ、心配すんな。ある程度まとまって束みたいになってるだろ?そこだけ切って袋に突っ込む」


「中で花が散ったりしませんか?」


「これだから中級階級貴族は…。ナヴィオラの花は頑丈だから袋に入れてちょっと動いたくらいじゃ散ったりしない」


 それまで黙っていたハンプティダンプティ集団、いや金狼の群れの一人がルキウスを小馬鹿にしたように言った。


「そうですか」


 そこから花を束ごとに切り落とす作業が始まった。


 それぞれの精霊たちがナヴィオラの花を嫌がるのでシギが離れたところで精霊たちの相手をし、その間にルキウスや青星の守り人、Fランクが切り落とし、金狼の群れは袋詰め作業をしていた。


 作業自体は難しいものではなかったが、でかいので時間がかかる。それに花が頑丈とはいえ、鑑賞用なので丁寧に慎重に進められたせいか、終わる頃にはもう夕方になっていた。


「野営の準備をするぞ」


「はい」


 ここまでずっと青星の守り人の人たちが中心になって進めていたが、野営も青星の守り人が指示出しをすることが分かってルキウスはほっとしていた。


「おいっ、貴様! なんだこれは?!」


 野営の準備をしていると、金狼の群れの一人が怒鳴ってきた。


 髪も服も、鎧以外全身黄色の彼の指差す方を見るとテントの杭が緩く、今にも抜けそうである状態がわかる。だが、そのテントはルキウスが張ったものではない。明らかに違うと分かっていて、理不尽な文句を付けているのだ。だが、新人潰しではよくあることなのだろうと、波風を立てないように素直に謝ろうとした。


「自分で張ったテントだろ。なら自分で張りなおせ」


 青星の守り人の一人、ずっと指示出しをしていたリーダーが頭を下げようとしたルキウスを手で後ろに追いやりながら前へ出る。


「なっ、貴様! 私が嘘をついたとでも?」


「誰もンなこと言ってない。ただ自分で張ったテントかそうじゃないかぐらい覚えてろっていう話だ」


「私はBランク冒険者パーティーでも高レベルのっ」


「その高レベル冒険者様が間違えたのか?」


「くっ、」


 プライドを刺激されたのか次の言葉が出てこない。


「っつ、っちょっと新人を試しただけだ!奴こそテントを自分が張ったものだと勘違いして謝罪しようとしてきただろう?!注意するなら確認不足の奴にしたまえ!」


 そう捨て台詞を吐いて去っていた。


「あの、ありがとうございます」


「今の対応自体は悪くなかった。整備されているとはいえ、もう夜で魔物もそれ以外の動物も活発になるこの時間帯に騒ぎを起こすのはいいことじゃない」


「は、っはい」


「ただ、今後の仕事に響きそうなときは、なめられっぱなしで終わるな」


「肝に銘じます」


 その後も黄色の彼だけじゃなく、金狼の群れのパーティーの人たちは突っかかってきた。その度にルキウスは適当に相手をしつつ、野営の準備をする手を止めなかった。


 食事が終わった後、まずは新人のルキウスたちが見張り番を行い、三時間後に眠りについた。シギとルキウスは同パーティーなので同じテントで寝ていたが、ルキウスは一人うなされていた。


「ご…さ…!ほ…に…ご!こ…なる…おもわ…!」


 途切れ途切れに声が聞こえる。悲痛な叫びだ。だが、なんて言ってるかは分からない。はっきり聞こえるのに聞こえないもどかしさが、不安となって心を浸食していく。


(何を言っているんだ。さっきから何を…)


 声以外はっきりしない闇の中、感覚もない手をばたつかせる。必死に何かをかきわけるように。


「ご…さい!ひ…こ…をしてし…」


(だから何を謝っている?は…謝っているなど、何を根拠に私はそんなことを…)


 自分でもなぜそう思ったか分からず、考えているとその瞬間、


「裏切ってるつもりなんてなかったの!!」


 急に全ての音が繋がり、先ほどは比べものにならないくらいはっきり聞こえた。


 意味を理解した瞬間、ルキウスの意識はぷっつと切れて完全に夢も見ないほどの深い眠りに落ちた。

青星の守り人は「あおほしのもりびと」だったんですが読めましたかね。ルビに関して知識不足なのであとがきで書かせていただきました。ナヴィオラの花の説明が難しい!ルキウスもそろそろ交渉の勉強をしなきゃですね。

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