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中級パーティーとの共同クエストそして衝突

だいぶ期間があいてしまいました。また期間があくと思いますが、どうか飽きずに待っていてください。

 今日からルキウスとシギは、ギルドで社会勉強のため徒歩でギルドに向かっている。シギは姿を中流貴族に使える護衛の平凡な男に変え、己の魔力の塊で造った緑の小鳥を精霊としてルキウスの方に乗せている。ルキウスも、中級階級貴族に見えるような服装の上に黒いローブを身にまとって顔を隠している。城や他国で受けるのはとはまた違った軽蔑の目を向けられていることにすぐ気づいたルキウスは顔を俯かせていた。ローブのフードを被っている時点でほぼ醜い者だと見られるため、あまり意味はないと分かっていはたが、経験上どうしても隠したくなる。シギはルキウスが俯いた時点で忠告しようとしたが、中級階級貴族としての設定なのだからむしろ良い方かと放っておいた。醜い中級階級貴族が堂々としている方がこの世界では異質なのだから。だが、それを許すのも今だけ。いずれは、正体を明かした時に味方を多くつけるため顔を上げてもらう。

 ギルドに到着し、受付の人にジンドに取り次いでもらうよう話す。本来なら、副長に取り次ぎなど簡単にできることでは無いが、あらかじめ貰った札を見せればすぐ取り次いでくれる。特殊な加工でギルドの職員にしか本物かどうか見分けることしかできないため、とても便利だ。もっとも、シギほどの存在であれば複製はできるが言わないでおいた。


「こちらへどうぞ。」


明らかに新人といった者、しかもたいして地位が高そうというわけでもなく手練れという感じもしない者がギルドの奥にあっさりと通されたことに一部の者が冷たい目を向ける。

 ジンドの執務室に通された後、遅れてジンドが入ってきた。


「お待たせいたしました。早速本題に入りましょう。これが今日受けていただこうと考えている依頼です。組むパーティーにも話を付けてあります。依頼書をご確認ください。」


ジンドが渡してきた書類を見る。


「オークの集落の殲滅か。集落ということはオークキングがいるのか。」


 オークキングも含めてオーク自体ははっきり言って弱い。ただ、集落となると向こうも頭を使ってくるから下手に突撃すると、ある程度の実力があれば死ぬことはないだろうが、数が多いため討伐に時間がかかり、逃がしてしまうこともある。集落にいたオークを逃すと新たに集落を作る可能性があるので一網打尽するのが基本好ましい。そのため、仲間同士の作戦会議、戦闘時の連帯が要になる。


「この"野ばら"という女性パーティーはどういう方たちなのだ。」


「それは第二王子殿下自らが確認してください。」


 本来、ギルド長、副長が持ってきた依頼で他パーティーと組むときはある程度のパーティーの情報を教えてくれるものだが、これはギルドからの指名依頼ではなく訓練なのでそれもそうかとルキウスは頷いた。


「"野ばら"の方たちはどこにいらっしゃるので?」


「もう下で待っていることでしょう。彼女らには私の話が終わるまで待ってくれと言ってあるから心配はいりません。」


 それでも彼女らは良い気持ちはしないだろう。まぁ、ジンドは分かっていてやったと思うが。


「それでは、第二王子殿下はもう何が今日の一つ目の課題かお分かりいただけたと思うので、下に参りましょう。」


 下に降りると、目つきの強い女性のパーティーがいた。装備はどれも高級品だが使い込まれており、それなりに身分の良い実力派のパーティーだということが分かる。


「新参者が、自分たちより上のパーティーを待たせるなんて、いい度胸ね。」


「レトったら。あの服装を見て分からない?人の常識など知らぬ獣よ。獣相手に何を言っても無駄でしょう?」


「ミリの言う通りですわ。それより襲われないか心配ですわ。」


「襲ってきたら身の程を知らせるだけですわ。だから私たちの可愛いシマは私たちの後ろにいてね。」


 会って早々無礼な態度にシギは内心、相手の力も見抜けないこの者たちをなぜジンドが差し向けたのか一瞬分からなくなった。


「新人の身でありながら、あなた方を待たせてしまったこと深くお詫び申し上げます。どうか今回のクエスト、ご協力していただけないでしょうか。」


 彼女らは、暴言をよく吐いてるので他の者からよく問題視されていた。しかし、身分がそれなに高く、一応実績もあることから処分は特に受けたことはない。それでも苦情があるのは事実。あえて問題のあるパーティーと組ませることでいっきに経験を積ませようということなのだろう。だが、それなら他のパーティーでも良かったはず、組ませた本当の真意は…。そう思い、ふとジンドの顔を見たシギ。ジンドは、ニヤリとルキウスと”野ばら”、を見ている他の冒険者たちの反応を見ていた。

 他の冒険者たちは気の毒そうにルキウスたちを見ていた。彼女らの暴言は人の見た目に関わらず行われているらしい。だからか、ルキウスの容姿を見て、当然の扱いだという顔をする者は少なかった。つまり、ジンドは野ばらの者たちに処分を下せるような問題を起こしてほしいのだ。明らかに自分たちの方が立場が上だと確信してつけあがって何かやらかすはずだと考えた。シギはさすが、身分的に不利な状況で這い上がってきた者だと感心した。


「人の姿形をしているだけあって礼節はわきまえてるのね。」


ただ、主が獣扱いされているのはやはり見ていて気分が良くない。


「遅れてきた身で失礼とは思いますが、そろそろクエストの打ち合わせに入りたいのですが、よろしいでしょうか?」


本当なら、有無を言わせず口を縫い合わせたいところだが我慢して、己の役割に徹する。シギは基本、人の感情や言うことに左右されない。それは、シギ自身の在り方もそうだが、なにより長寿の精霊や神獣は感情が薄くなる。感情に支配されて力をふるうことがどれだけ危険か知っているからだ。実際、他の者たちが吐いたルキウスへの暴言に関しては特に反応を示さず、感情が荒ぶることはなかった。それが”野ばら”に対して荒ぶっているのは彼女らは快楽のために他人を罵っているからだ。ルキウスの容姿で完全に下に見ているのは事実だが、被害者は多いようだ。特に理由なく他人を攻撃する者を嫌う精霊は多い。


「あら、従者の方はまだ見れる顔なのね。」


「…失礼ですが、オークの集落殲滅の経験はおありでしょうか?」


「あるわ。バカにしているの?」


「いえ、心強いです。」


「当然でしょ。本来なら見目麗しい殿方か女神のような美しいお姉さまと組みたいのに…。」


シマという一番小さい女性が、レトとミリに擦り寄った。


「では、作戦会議は現地で行いますか?」


 三人だけの世界に浸りそうになるのをシギが遮る。軽く睨まれるが意に介さず答えを促すよう微笑む。


「従者の躾もできないなんて。やはり、獣ね。シマだけでなく私やミリまで襲われそう。」


ジンドは最初から、ほぼ気配を消して空気に徹している。どうやら注意する気は欠片もないらしい。


「私共は新人ですので、”野ばら”の皆様の判断に従います。」


やっとルキウスが口を開いた。これ以上従者にかばわれてばかりでは主人として情けないと思ったのだろう。


「当然でしょう。」


「現地へ行く前に調達するものとはありますか?」


「はっ、オーク集落の殲滅ごときで何か要るの?」


「私どもの装備はこれで大丈夫でしょうか?」


「死ななかったら正解ってことでしょう?守るべき顔もないでしょうし。」


どうやら、こちらの装備を見てくれる気は特にないようだ。


「着いてきなさい。遅れても助けないから。」


 道中、罵詈雑言の嵐を浴びながらオーク集落の付近に着いた。不安定な森の道を音も無く歩く足運びは素晴らしいが、三人ともずっと喋っていたせいでオークたちが気付き始めている。普通のオークが、気付き始めている。


「さぁ、突っ込むわよ。」


 突如茂みの中から立ち上がり、ミリが杖を手にして先陣を切ろうとする。


「魔導士のミリ様が先陣を切るのですか?」


シギは、こんな者に様付けなど後でどうしてやろうかという気持ちで聞いた。


「そうだけど?あぁ、確かに他の低能な雑魚共は魔導士は後方に置くけど、私たちは強いから問題ないのよ。」


 ルキウスは頭痛を感じたが、頭に手を当てると確実に煽るだろうなと思い手を抑え、一番気になっていたことを聞いた。


「…ちなみに回復は誰が?」


「敬語を忘れてるわよ。」


「回復は誰がおやりになっているのですか?」


丁寧に謝ることすら面倒くさい。


「私よ。」


 回復役が突っ込んでどうする、と言いたいのをルキウスは我慢し、目線をシギに合わせた。どうやら、ルキウスもジンドの思惑に気づいたようだ。ルキウスは基本的に全ての不利は己の容姿故だと考える癖がある。だから、他人の在り方に気づきにくい。実際、“野ばら”の女性たちの態度は容姿のせいだと思っていたが、彼女たちの場合は誰彼構わずのものだった。


(ルキウス、どう見てる?)


 精霊とその主は言葉が無くとも会話ができる。シギはルキウスが事情を知ったうえでどう動くのかを知りたかった。


(とりあえず指示に従おう。戦力的には問題はないと思うが、普通のオークがこちらに気づいたのが気になる。”野ばら”の皆様方は確かに少々賑やかだったが、それにしても気づかれるのが早い。)


(そうか。)


 ルキウスも同じことを疑問に思っていたらしい。まぁ、間違いを見るにも勉強になるだろうと切り替える。


「さっきから何なの?ミリのことを襲う気?」


「汚らわしい。」


「いえ、私たちの考えが浅はかでした。私たちは何をすればいいですか?」


「ふんっ、正直貴方たちは邪魔でしかないけど。アサシンのシマ、黒魔導士のレトの倒す敵の鼻でも切り落としてなさい。」


((主力はどこだ…))


 ”野ばら”のパーティーは、魔導士のミリとアサシンのシマ、黒魔導士のレトの三人で構成されている。魔導士には三種類いる、魔導士と白魔導士、黒魔導士。魔導士は回復、攻撃などに優れているが、基本後方支援で不意打ちなど、遠距離でしか攻撃できない相手の時に活躍できる職だ。白魔導士は回復、バフ、防御に優れており、味方の攻撃力や人に元々備わっている治癒能力を底上げ、防御の魔法陣を展開し、一度に味方全員を守ることができる。こちらも後方支援で、攻撃はしない。黒魔導士は、デバフ、毒や薬の調合に優れている。魔導士や白魔導士と違い、自分で回復ができないため薬の調合に優れている。敵を混乱、錯乱状態に陥らせ、幻覚を見せたりなどして状態異常にする。魔導士と黒魔導士の二人がいること自体は何も問題ではない。ただ、その二つの役職を攻撃においての主力にするにはミリとレトはまだ実力不足だ。そしてシマはアサシンで、体を張る黒魔導士のようなものだ。戦闘はもちろん、情報収集にトラップの仕掛け役を行う。このパーティーには前線に立って、表立って攻撃する者も、攻撃役が安心して攻撃するために引き付ける頑丈な盾役もいない。あらゆる面において中途半端なのだ。

 そんなんでどうやって生きてきたのだと思うが取り敢えずそれは置いといて、三人に着いていく。


「レト、アレを。」


「えぇ、ミリ。」


 レトに催促されミリに渡したのは丸くて白い麻布の塊だ。巧妙に隠してはいるが、火薬の匂いをシギとルキウスは嗅ぎ取った。


「ふっ」


 ミリはそれを集落の方へ投げ、


「燃えなさいっ!」


ジッ ドッゴッーン


 爆発した。その火力で集落のオークたちの大半が見るも無残な姿になっており、鼻がもはや残っているかどうか分からない。


「レト、次!」


「えぇ!」


 レトが爆弾を渡し、ミリが爆発させるを、繰り返しながら集落の置くに向かって走る。シマはというと、爆発音で出てきたオークの残党を倒すべく死体に毒をまき散らす装置を仕掛けていた。もう、鼻を切ろうにも鼻が無事に残っている死体は少なく、少ない死体から鼻をそごうにも毒を仕掛けられたせいで毒除けの結界を張りながらではないと鼻をそげない。しかも、今回使われている毒は皮膚からも吸収される、そのためか皮膚がすぐ変色してしまう。これではギルドで鑑定に出したところで値が落ちる。オークは攻め方さえ間違えなければ、正直このパーティーでも集落を落とすこと自体はできる、計画性さえあれば。


(水の結界を張っておく)


(頼む)


 精霊による毒除けの結界は結構高度の技だ。大抵は今回のような煙の場合、水の膜のようなものを周囲に張っておくことで毒を無効化できる。中級の精霊を連れているという設定のため、高度の技を使用することで正体がばれてしまう可能性があるため事前に打ち合わせしておいたのだ。水の膜を全身に張り巡らす。もちろん、空気を入れておくことも忘れない。鼻をそぎ落としながら彼女らに着いていくのは困難だったが、幸いというべきか無事な死体は少なかったため、見失わずに済んだ。

 集落の奥、オークキングの住処に全員が着いた。オークの集落殲滅の依頼だったが、この時点で一体何体のオークを逃したか。ルキウスは直ぐにシギに命令して、逃走したオークたちを駆除しに行きたかった。だが、この場でそれは許されない、そのような勝手な行動をすれば、間違いなく彼女たちは激怒するだろう。その行動が合っていようが、彼女らの評判が悪かろうが、新人の彼らが中級パーティーの彼女らに逆らえばこれから不利になるのはルキウスたちだ。


「皆様方、かなりの数のオークが集落外に出た様子。いかがいたします。」


「外には違う依頼で出ている冒険者たちがいるわ。そいつらに対処を任せればいいのよ。」


「…そうですか。」


 中級パーティーならもしや何か策でもあるのかと思ったが、全くそんなことはなかった。そうこうしているうちに、ミリが爆弾をオークキングのテントのような住処に投げつけ、爆発させた。爆発音が響く中、たいしてダメージを受けてなさそうなキングオークが出てきた。

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