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精霊召喚


 「これより!契約の儀を行う!」

 大臣が高らかに始まりの合図を告げた時、二人の青年はそれぞれ別の思いを胸に抱いていた。


 肥満体型としか言いようがないでっぷりとした腹の青年は、王である父と女王である母、そして自分に付き従う貴族たちの前でこれからやることに何一つ不安を抱いていない顔だ。己の輝かしい将来はもう見えていると言わんばかりに隣の青年を見ては嘲笑っている。


 嘲笑われている青年は諦めたきった顔で自分の扱いを受け入れている。周りの貴族たちや実の親である王族たちに窘める様子はない。


「陛下!本来なら第一王子であるエバルス様から行うのがしきたりですが、エバルス様の儀は成功は確実。であれば何も第二王子の儀を後に行ってエバルス様の素晴らしき儀の余韻を壊す必要はないかと、ルキウス様の儀を先に行ったほうがエバルス様の儀がより神々しいものになるかと存じます。」


 分かりやすい媚びた態度を下品に思う者も、大臣とはいえ第二王子に対して無礼だと憤る者もここにはいない。傍から見たら臣下に馬鹿にされているのを許している王子という信じ難い光景だ。


「おぉ、確かにそうだな。ルキウス!貴様が先にやれ!優秀な兄の門出をお前ごときが飾れるんだ!感謝するんだな!!」


 再び広間に嘲笑が響く。


「ハッ!お前に使い道なんざあるのかと思っていたが、存外大役ではないか!今だけは弟として見てやってもいいかもな」


「お役目拝命します」


 笑いを隠さずに唾を吐き散らしながら言われた言葉を何か抜け落ちたような顔で受け取るルキウス。その目に生きとし生ける者が宿すはずの光は無い。彼にとっては、いや彼のような者にとっては最早、その扱いが普通なのだと身をもって教え込まれている。


(これが終われば後はゲッダ王国との食事会だ。それまでの辛抱です。)


 心は儀式などにではなく、他国との食事会というなの精霊のお披露目会のことに移っている。自分はどうせ第二王子だからついていくものの、碌な扱いはされないだろうから好きに行動したところで誰も気にはしない。他国にいる数少ない友を思って失敗確定の儀式を始める。


 契約の儀とは、精霊とパートナーになる契約を結ぶことだ。精霊は美しいものを好む。なので泉になれる者は美しい人と決まっている。そして不細工には神聖な精霊との契約なんて夢のまた夢。精霊のパートナーが不細工だなんて誰も聞いたことが無い。きっと呪文を唱えたところで虚しく響いて精霊の纏う光も与えられず笑われる。そこで華々しく兄が精霊召喚を行い場を歓喜で沸かせる、という筋書き。


(慣れっこです。そんなのは)


「尊き光よ。我に力を貸したまえ。」


 かつて教えられたように呪文を唱える。言葉は語りかけるように、自分の持てる魔力を全て胸に集めて体の上半身をゆっくりその魔力で満たすように。


「美しき花を我のもとで咲かせっ?!」


 呪文を唱え終わろうとした瞬間、魔法陣が光を放った。同時に強風が全てを吹き飛ばさんと荒れ狂う。しかしルキウスだけは風の影響は少ないらしく代わりになぜか紫色の花びらが周りに舞っている。


「きゃぁっ!」


「なんだぁ!これはぁ!?」


「ひぃっ!ま、まさか新型のヨドミかぁ?!」


「ありえる!!あの化け物なら!」


「なんてことをっ!」


 広間は恐怖と混乱で溢れかえる。誰もがルキウスのせいだと決めつけ、責め立てようとした瞬間、


「なっんだこれぇ!?」


「なにをやっているんだ?そもそも君が勝手にくっついてきたんだろうに」


「だってお前が急に、なんか強い呼びかけが聞こえるから行ってくるわってわけ分かんない光に消えようとしたんだろうが!!」


 魔法陣の上で言い争っているのは黒の柔らかそうなベストを長袖のシャツの上から着た明るい茶髪に青色の瞳の平凡な容姿の青年と踵につきそうな灰色みが強い橙色の美しい長髪、無地の大きい赤い着物を着崩して少し透けた白い羽織を身にまとった金色の瞳の細身の女だ。


 本来なら二人も召喚されたことに驚くべきはずだが、それを女の放つ精霊としての魔力が忘れさせた。細身に小顔、整った顔はこの世界では醜い者の特徴、にも関わらず周りの貴族は見惚れている。精霊として完璧な美しさを持っていると彼らの本能的が告げていたのだ。


「っとこれは失礼いたしました。」


 唐突に美女がルキウスの方へ向いた。


「おい!シギ!!」


 平凡男が美女に向かって呼びかけるも美女は気にせずルキウスを見つめる。ルキウスは全てが予想外で一言も発することが出来なかった。


「貴方が私のマスターでしょうか?」


「でしょうかっ?」


美女の問いかけに平凡男がかぶせるよう聞いた。


「アントニオ。お前は関係ないだろう。」


「俺を置いてかないで!」


 美女と平凡男は親しいらしい。


「あっはい、恐らく。」


 ルキウスはそう返事するのが精一杯だった。


(なにから受け止めればいいのですか?)

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