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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

未来視のできる騎士は追放されたい! ~追放されてもいいが、その未来だけは絶対に許さない~

作者: 落院似 糸

 空と地面の境界が黒く塗りつぶされた夜。

 とある部屋の一室で、二人の男が話していた。


「私は騎士を辞めます」

「駄目だ、お前には騎士団にいてもらう」

「何故? 今の時代、騎士も騎士になりたい者も大勢いる。私の後任など幾らでもいるでしょう?」

「お前の後任などいない。なぜならお前は“有能”だからだ」


 ある騎士と、騎士団長との問答。

 それは辞めたい者と辞めさせたくない者の攻防だった。


「……要領を得ないですね。だから、その有能な後任など腐るほど埋もれていると言っているんです」

「要領を得ないのはお前だ。騎士団長である私に土を舐めさせられるのは後にも先にもお前だけだ。お前が騎士を辞める理由などどこにもない。お前はいずれ、私の後を引き継ぐ男なのだから」

「……今日の所は出直します」

「いや、もう二度とその話はするな。もう百回から数えてないんだよ。お前の退職懇願は。あと夜に家に来るのも禁止。分かった?」

「分かりました」

「それも百回から数えてないんだよ」


 騎士は部屋を後にした。






 騎士は自室にある鏡を見ていた。

 そこに映るのは無論、彼自身。

 しかし、彼には別の光景が見えていた。


「なにもかも、お前のせいだ……俺の運命を狂わせたのは、お前だ! “未来視”!!」


 それは、騎士の数十年後の姿。

 皺が刻まれ、今のような若々しい雰囲気は消え失せた荘厳な老練騎士。

 それを見れば、騎士団長が彼を嘱望する理由が一目で分かってしまえた。


 しかし、騎士にはその光景に重大な欠陥があると見抜いていた。

 

「俺はこのままでは“ハゲ”る……! 今から手をうたなければ、確実に……!」


 未来の騎士には、中央部分の毛根が一つとして残っていなかった。

 未来の自分が、まさか剃り落としたわけではなかろう。

 つまり、彼はハゲる未来を見てしまったのだ。


「騎士なんて続けてたら、時間が足りない! はやくやめなければ!」


 一年前にこの姿を見てから彼は必死に騎士団長に訴えかけていたのだ。

 やめたい、やめたい、やめたい、と。

 だが彼はなまじ“未来視”を使って、平民から成り上がってしまったため、一部の実力者からの信頼がとてつもなく厚かった。


 やめようとしても引き止められ、じゃあ無断で出ていこう! とも考えたが、彼の人となりのせいか、今までの恩義を裏切ることは出来ないと、正式な形での退職以外は駄目だと考えていた。

 その結果、ずるずると騎士を辞められないでいたのだ。


「毛……お前の脱退だけは絶対に許さない……!!」


 しかし、彼はその晩、決意を固めた。






「やあ、平民騎士さん。今日も元気に素振りかな?」

「「「「「ハハハハハ!」」」」」

 騎士に話しかけたのは取り巻きに囲まれたキザな騎士。

 彼は貴族の出であった。

 そのため、平民の出である騎士には、滅法あたりが強かった。


「ああ、お前は?」

「お前? はっ、やはり平民の出は言葉遣いが汚いな。それに私のような才気溢れる者は素振りなどに体力を注力しないのだよ。いつでも本調子を保つために、ね? もっとも君には分からない概念だろうけど」

「……そうか、ならば決闘をしよう」

「聞こえなかったのかな? 僕は無駄な体力は消費したくないのだよ」

「逃げるのか? 才気あふれる騎士が、平民騎士との決闘から」

「チッ……後悔しても知らないぞ!」


 演習場の中央。

 昼も迎えていないこの時間帯に、決闘が始まった。


 彼らは腰にある剣を取り出し、構える。

 最初に仕掛けたのは、キザな騎士だった。


「はぁっ!」


 ──距離を詰めてからの横薙ぎ。


 騎士は“未来視”を使い、彼の動きを読んだ。

 そしてその横薙ぎを華麗に避けると、騎士は剣を一振り。


 落ちてくるのは、首ではない。

 彼の金色のキューティクル。

 騎士は彼の髪を一刀両断していた。


「なっななッ……」

「俺の勝ちだ。悔しいか? ならば特訓するんだな。俺は“騎士”になるために努力した。俺は平民だからな。いつ“騎士を辞めさせられる”か分からない。俺は“騎士が夢で、辞めるなんてことになったら未来が真っ暗”だからな」

「お、覚えていろっ!」





 翌日。

 とある部屋に騎士団長と騎士がいた。


「貴族からの圧力がかかってな。お前を騎士団から追放することになった」

「まさか、こんなことになるなんて」

「……報告は上がっている。もう何も言わん。好きにしろ」

「はい、そうさせてもらいます」


 騎士は扉を開くために振り返ると、誰にも見えないように笑った。





 騎士が騎士団を抜けて数年後。


「みんな逃げろー! シーウィードが攻めてきたぞ!」


 そこは海に面した村。

 漁業で生活をする村人たちは長年、海の魔物に悩まされてきた。

 そして今日、臨界点を迎えたのか、緑色の海藻を身に纏う人型の魔物シーウィードが陸へと進出し始めた。


「通して! 子供だけでも!」

「荷物を運ぶな! とっとと逃げろ!」

「足が……足が……!」


 逃げようとする村人達。

 しかし彼らはシーウィードに囲まれ、逃げ場を失っていた。


「神様……!」


 その時だった。


「キエエエエェェェェエエエエエーーーーーーー!!!!!!!」


 声にならない声を上げた騎士が、シーウィードの群れへと突っ込んでいく。

 彼が剣を振るたびに、シーウィードはバタバタと倒れていく。


「な、なんじゃありゃ……!」


 救世主にも見えた騎士。

 しかし、彼の血走った目と痩せこけた頬は、とても常人にそれとは言い難かった。


 やがて、脅威の速度でシーウィードを全滅させた騎士は、子供を抱きかかえた女性の元へと歩み寄る。


「あ、あ、あ……! 娘だけは……」

「鍋……」

「……えっ?」

「鍋を用意しろといっているんだ! はやくs%△#?%◎&@□!□&○%$■☆♭*!:ッッッ!」

「は、はいいっ!」


 騎士は用意された鍋に水を入れると、火をつけた。

 そしてシーウィードの死骸から、緑色の海藻を剥ぎ取り、鍋へと投げ入れていく。


「塩!」

「はいぃ!」


 村人たちはその様子を固唾を呑みながら見守る。

 私達はもしかしたらシーウィードより恐ろしい存在を呼び寄せてしまったのかもしれない、と恐怖に身を寄せながら。


「いただきます……不味い、不味い……不味い……!」


 苦しみながらもそれを口に運び続ける騎士。

 嫌々食べながらもなんとか完食した彼は、まだ水の入っている鍋を覗き込んだ。


 無論、彼が見たいのは水に映り込む自らの“未来の姿”。


「□&○%$■☆♭*!:○%×$☆♭#▲!※%△#?%◎&@□!」


 彼はそれを見ると、奇声を上げながらどこかへと走っていった。




 

 


 あれから十年後。


「そんな! まだ娘は十歳なんですよ!」

「しかし……! 龍の生贄の条件である魔力の多い女性がソナタの娘しかおらんのじゃ……」


 ある村の長老とまだ若い男が話していた。

 その時。


『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッッ!!」


 断末魔のような、恐ろしい鳴き声が村中に響き渡った。


「いかんっ! 龍じゃ! はやく娘を!」

「ああ神様! 神様、どうかお許しください!」


 男は自らの家へと走っていく。

 そして娘を抱きかかえると、龍がいるとされる祠へと向かった。






「龍よ! 生贄を連れてまいりました! さあ、お怒りをお鎮め下さ──は?」


 男の視界には確かに龍がいた。

 しかし、その龍には“首から先がない”


 そして、その龍の生首を持った“騎士”のような男は、しきりに龍の頭を掴みながら、“自らの頭”に何かを落とそうとしているように揺らしていた。


「すいません……その、どうなされたのですか?」

「龍の涙! 落ちてこない! どういうこと!」


 騎士は長年人と話していないのか、言葉遣いがとても拙くなっていた。


「あの、ですね。非常に言い辛いのですが……伝説によれば龍の涙は、龍が生贄を食べた時に落とすと言われていて……」

「じゃあ! もう! 落ちない!?」

「はい、死んでしまってはもう……」

「□&○%$■☆♭*!:○%×$☆♭#▲!※%△#?%◎&@□!」



 騎士は奇声を上げると、どこかへ走っていった。






 それからというもの、様々な国々である噂が蔓延した。

 それは、颯爽と現れると魔物や或るいは伝説の生物まで倒していくという騎士の姿をした謎の男についてのものだった。


 最初はだれもがまやかしだと馬鹿にしていたが、やがて様々な証言が合わさると、それは実在するという事が判明した。


 冒険者でもなければ、何かに所属している者でもない強者。

 各国はその謎の男を探し、抱き込もうと画策した。

 しかしどうやっても見つからない。


 まるで未来を読んでるかのように、各国が敷いた包囲網を抜けていくのだ。

 やがて労力が見合わないと判断した各国は、その謎の男から手を引き始める。






 それから数年後。

 とある街。


「あんちゃん。どうしたんだい、塞ぎこんで」

「……真っ暗なんだ、未来が」

「おめえ……まだ若いじゃねえかよ」

「俺はアンタと違って……おいっ、おいっ!」

「ど、どうしたんだよあんちゃん!」


 騎士のような姿をした男は、親切な男の肩をがっちりと掴む。

 そして見つめるのは頭頂部。


 彼の頭は“ハゲ”ていた。


「あ、あ、あっ、アンタはどうしてそう明るく生きていられる!?」

「お、おお。落ち着けよあんちゃん。そうだな、俺が明るい理由は妻と息子の存在がでけえな!」

「妻、息子……?」

「そうだよ。アイツらのこと考えてっとよ、なんかこう頑張らなきゃってなるんだ」

「頑張らなきゃって……なる……」

「あんちゃん、家族っていいぞ」


 騎士の目に光が宿っていく。

 

「ありがとう。ありがとう!」







 鳥の鳴き声。

 それは朝の合図。


「はあ」


 身を起こしたその男は、身支度を始めた。

 そして、最後に鏡を見る。


 鏡に映っているのは、まだ若々しい自分の顔。

 それはそうだ。彼の年齢はまだに二十にもいかない程度。


 今日も頑張ろう、と自分に向けて言葉を放つと。


「ん……? なんだこれ」


 徐々に鏡に映る自分の姿がブレていく。

 そのブレが治る頃、そこに映っていたのは、今の自分ではなかった。


「うわあああああああっ!」


 鏡には、皺の刻まれた男の姿があった。

 そして彼には一瞬で理解できた。


 なぜなら、その男には“未来視”があって、鏡に映る男はどこか自分と似ていたからだ。


「どうした! 息子よ!」


 “騎士”は息子の声を聞き、すぐに駆け付けた。

 そして男は騎士の声を聞くと一目散にそちらに振り向いた。

 

「と、父さん! 俺一旦、騎士やめてもいいかなぁ!?」


 頭頂部の髪が綺麗になくなっていた騎士に、彼はそう言った。

勢いで楽しく書きました!

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