理由なんていらない
自分の体がなくなることについて、全く恐怖感がない。
自分の存在がなくなることについても、全く恐怖感がない。
恐れるのは、一瞬のその痛みだけ。
特にやり残したこともなければ、これからやりたいこともない。
かといって、死に急ぐ理由もない。
つまり、私には何もないのだと思う。心を動かす感動もなければ、悲しみもない。何もない。ただ、生きている。
否、これを「生きている」と表現してもよいのだろうか。ただ淡々と日々を過ごし、時間だけを浪費する。息を吸うように仕事をし、息を吐くように寝ている。それだけだ。
生きてる。
活きてる。
いきてる。
「生」とはなんぞ。「死」とはなんぞ。
何にでも意味を求めるのは人間の悪い部分でも、良い部分でもある。でも、意味があろうがなかろうが、本人以外は実はどうでもよくて、その本人でさえたまにどうでもよくなる。
生きていかねばならない。そんな気がする。
「ああ!やっと目を覚ました!!」
気づくと、母が泣きながら手を強く握っていた。どうやら、眠っていたようだ。
硬いベッドに、うちの物ではない、ツルツルとした白いシーツ。見慣れない天井が目に写る。
「あんた、川で溺れて死にかけたんだよ!」
泣きながら訴える母を見て、確実に時間が経っていることを知る。いつから母は、こんなに白髪が増えたのだろう。いつも染めて綺麗にしていたはずだ。化粧もしておらず、一重まぶたがいつもより重そうに目を覆っていた。
「...生きてる」
体の鼓動と、母の手の温もりを感じつつ、なんとなく、そう呟いた。




