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理由なんていらない

作者: 噺 角蔵
掲載日:2021/01/30

 自分の体がなくなることについて、全く恐怖感がない。

 自分の存在がなくなることについても、全く恐怖感がない。

 恐れるのは、一瞬のその痛みだけ。


 特にやり残したこともなければ、これからやりたいこともない。

 かといって、死に急ぐ理由もない。

 つまり、私には何もないのだと思う。心を動かす感動もなければ、悲しみもない。何もない。ただ、生きている。

 否、これを「生きている」と表現してもよいのだろうか。ただ淡々と日々を過ごし、時間だけを浪費する。息を吸うように仕事をし、息を吐くように寝ている。それだけだ。


 生きてる。

 活きてる。

 いきてる。


 「生」とはなんぞ。「死」とはなんぞ。

 何にでも意味を求めるのは人間の悪い部分でも、良い部分でもある。でも、意味があろうがなかろうが、本人以外は実はどうでもよくて、その本人でさえたまにどうでもよくなる。

 生きていかねばならない。そんな気がする。


 「ああ!やっと目を覚ました!!」

 気づくと、母が泣きながら手を強く握っていた。どうやら、眠っていたようだ。

 硬いベッドに、うちの物ではない、ツルツルとした白いシーツ。見慣れない天井が目に写る。

 「あんた、川で溺れて死にかけたんだよ!」

 泣きながら訴える母を見て、確実に時間が経っていることを知る。いつから母は、こんなに白髪が増えたのだろう。いつも染めて綺麗にしていたはずだ。化粧もしておらず、一重まぶたがいつもより重そうに目を覆っていた。


 「...生きてる」


 体の鼓動と、母の手の温もりを感じつつ、なんとなく、そう呟いた。

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