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「では、ごゆっくりどうぞ」
男性と女性、2人の客室係が、スイートルームから出てきた。
逃げるようにして自宅からホテルに転がりこんだ石橋が泊まっている部屋で、ルームサービスの追加のワインとグラス、さらにはレストランの厨房で調理された2人分の食事を運び終えたところだった。
廊下に出た2人は、女性が前を進み、男性が食事を運んできた台車を押しながら、その後に続いた。
「豪華な部屋に豪勢な食事。
いつか、あんな部屋に部屋に泊まってみたいです。
何をしてる方ですかね」
男性の客室係が、ため息を吐きながら言った。
かなり若く見えた。
「お客さまのプライベートには触れない」
女性はぴしゃりと言った。
背を伸ばしたまま男性を振り返りもしなかった。
「すみません」
男性が小声で言った。
この時、前を進む女性の客室係の足が止まった。
「どうしたんですか?」
男性は、女性の身体の陰になっていたため、前方が見えなかった。
そこで、台車の取っ手に両手を置いたまま、体を大きく傾け、前方を覗き見た。




