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空中に点のように見えていた物が、こちらに向かってくる。
近づいてくるにつれ、それはしだいに大きくなった。
鳥だと!
男は、何気なくそれを見ていた。
まさか、自分の部屋に向かって飛んでくるとは思ってもいなかった。
その鳥が窓ガラスのすぐ手前まで滑空してきた時、男は思わず後ずさった。
鳥はそのまま、ガラスのすぐ外で羽ばたいている。
男は今までにこんな鳥を見たことが無かった。
「何だ、こいつは?
それにしても、でかいな」
大きさもそうだが、太い足といい、重量感もあり、すぐ近くで見るとかなりの迫力がある。
鳥は、しきりに羽ばたき、どうにかして中に入ろうとしているように感じられた。
「こいつ、俺を睨んでやがる」
鳥の奥まった漆黒の不気味な目が、じっと男を見据えていた。
男は、さらに2歩、3歩と後ずさった。
そのまま、数分が過ぎた。
鳥は翼をさらに羽ばたかせると、旋回し、飛び去って行った。
「鳥の分際で驚かせやがって」
男は、安堵のため息を吐いた。




