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アルコールが入ると、男は途端に大胆になった。
重苦しい抑圧が急に薄れた反動か、女を犯したいという欲求を抑えることが出来ない。
どうして、俺が我慢しなければならないんだ!
くそっ、あんなことさえ起きなければ・・・・・・。
吉岡と早坂が死んだことが、無性に腹立たしくなった。
この俺が、びくびくしながら何もせず、ホテルに隠れ続けるのか?
いやいや、俺の性に合わん。
知ってる女ならどうだ?
そうだ、何の問題も無い。
男はすぐにアドレス帳から一人の女を選び、電話をかけた。
疲れた時、一番会いたくなる女だった。
女には、フロントで部屋番号を告げ、ホテルの人間に部屋まで付き添ってもらうよう、念入りに指示を出した。
俺は部屋からは決して出ない、一歩たりともだ。
そこだけは徹底する。
それにしても、さっきまで恐怖に怯えていたのは何だったのか?
馬鹿馬鹿しい。
この俺が殺されるわけが無い。
すべては俺の思うがままだ。
男は、再びグラスにワインを注いだ。
グラスを口元に持って行った時、
「待て待て、乾杯は女が来てからだ」
男はほくそ笑みながら呟くと、グラスをテーブルに置いた。
ふと、外の景色に目をやった。
まだ、陽は高い位置にあった。
「真昼間から抱き合うのも悪くないか」
男は声に出して言うと、そのまま部屋からの景色を眺めていた。
女が来るのが待ちきれない。
男は堪えきれず、奇声を発した。
その時、
「ん?何だ、あれは?」
ある物が男の視界に入った。




