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タクシーを呼び、ホテルへと向かった。
ホテルの部屋が一番安全だと思ったからだ。
だが、部屋に入るまでの間、怖くて仕方が無かった。
ホテルに到着し、ロビーでチェックインの手続きをしている時も怖かった。
いきなり背後から銃で撃たれたり、刃物で刺されるのではないか、と。
フロントの人間がもたもたしてやがったから、思わず怒鳴りつけた。
その後、サインする手が震えた・・・・・・。
いやいや、そんなはずは無い。
俺がびびったりするわけが無い。
俺は、もう一度フロントの男を怒鳴りつけてやった。
そして、今、部屋の中にいる。
もう、恐れるものなど無い。
俺は、死んでいった奴らとは違うんだ。
ほとぼりが冷めるまで、ここに隠れていよう。
食事はすべてルームサービスだ。
部屋からは一歩も出ない。
男は、大きく息を吐くと、どっかりと椅子にもたれこんだ。
一人きりのスイートルームで、男は声を上げず笑った。
「俺としたことが、こんな時に、女を抱きたくなるとはな」
今度は思いきり声を上げて笑った。
女を呼ぶか?
いやいや、今は我慢だ。
危険が去ったら、思う存分味わってやる、極上の快楽を。
男はグラスを手にすると、味わいながら、赤い液体を飲み干した。




