88/341
87
テーブルの上には、ホテルが用意した年代物の最高級ワインが置かれていた。
陽が沈むにはだいぶ時間があるが、男は栓を開け、グラスにワインを注いだ。
赤い液体がグラス上部まで満ちた時、不意に男の手が震えた。
すると、液体がグラスからあふれ、テーブル、さらに絨毯へと零れ落ちた。。
男は、呆然と濡れた絨毯を見つめた。
この俺が、びびっているとでもいうのか!
男は、ここ数日に起きたことを思い浮かべた。
すでに2人が殺された!
吉岡と早坂はすでにこの世に存在しない。
吉岡は自宅マンションで不可解な窒息死。
早坂は、何か得体の知れぬ生物に呑み込まれかけ死んだという。
さらには、玉川も手に怪我を負い入院中だ。
玉川は白昼さなか、大きな鷲のような鳥に襲われ、スマートフォンを持ち去られたと聞く。
一体、何がどうなっているのだ!
次に狙われるのは俺ではないのか?
警察の馬鹿どもは何をやっている!
恐怖に耐えられなくなった男は、この朝、自宅を飛び出したのだった。




