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「よし、決まったな」
徳丸の体は、すっかり帝王ホテルの方角を向いていた。
「でも、どうやって行くんですか?」
「もちろん、歩いてだ、決まってんだろ」
「距離ありますよ、けっこう」
里奈は、徳丸と同じ方を向いていた。
視線の先に高いビルがいくつも見えるが、けっこうな距離がある。
「取材は足で稼がなくてはな」
「この暑い中ですか?」
「暑いのはみんな同じだ」
「カメラの機材だって重たいのに」
「カメラマンなら仕方ないだろうな」
「あたし、女の子なんですよ」
里奈は口をとがらせて言った。
「甘いな。
特ダネを撮るためには、そんなものは関係ないんだ」
「鳥なんか追っかけてて、社長に怒られないんですか!」
里奈がそう声を上げた時には、徳丸はすでに歩き出していた。
里奈は一度大きくため息を吐いた後、徳丸を追って動きはじめた。




