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「あたし、もうダメ。
先輩、せめて何か一つぐらいは持ってくださいよ」
カメラ、三脚など、撮影に使う重い道具類は、すべて華奢な里奈が運んでいた。
その額から頬にかけて、かなりの量の汗が滲んでいた。
「ま、それも雑用係の仕事だ」
リュックを背負っただけの徳丸は、軽い口調で断った。
里奈は、それきり黙り込んだ。
もはや、不平を言う元気も残されていない。
2人は言葉も交わさず、5分ほど歩いた。
ようやく前方に、私鉄の駅が見えてきた。
安堵の表情を浮かべた里奈は、汗をぬぐいながら、ふと脇に目をやった。
そこには、道沿いに何本もの桜の古木が並んでいた。
春には、さぞかし綺麗な眺めになると思われた。
桜の古木が陽射しを遮り、暑さがいくぶん和らいだように思われた。
丁度、さわやかな風が流れてきた。
流れ出た不快な汗が、一気に乾いていく気がした
里奈は、桜が咲き誇っている様子を脳内でイメージし、カメラマンの視点で古木の一本一本を見上げていた。
だが、その中の一本の古木に目を向けた時、表情が一変した。




