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スケッチブックの中の虎が、突然飛び出した。
二次元の世界に描かれていた生物が、一瞬にして3次元の世界に現れた。
ただし、大きさはスケッチブックに描かれた虎と同じだった。
ウサギほどの大きさの虎は、うなり声を上げ、初老の男性に襲いかかった。
男性がまったく反応できない、目にも止まらぬ速さだった。
「ひえっ」
初老の男性は、虎の素早い動きに対し、だいぶ遅れてそう声を上げると、その場に尻餅を着いた。
有り得ないことが目の前で起きたことで、パニック状態になっていた。
10秒ほどが過ぎた。
男性は自分の体を見てみたが、何も起こってはいなかった。
その後、恐る恐る顔を上げた。顔も体も極度に震えていた。
男性に襲いかかってきたはずの虎は、先程までと変わらずスケッチブックに収まっている。




