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「本当に忘れてしまったなんて、がっかりだわ。
会ってから、まだ一月も経ってないのに」
女の言葉に、早坂は再度脳内を巡らせた。
「一月も経ってないだと?」
ここ最近会った女を思い出してみた。
寝た女の中には若い女もいたが、いったい誰なのか?
まったく心当たりが無い。
「大変失礼ですが、お名前を教えていただけないでしょうか?」
早坂は恐縮した声で言った。
一方で、
憶えてろよ、このアマ。今度会ったらタダじゃおかねえぞ。
そんなことも思っていた。
「知りませんでした。
あれの時、あなたは獣のようになるんですね。
薄汚くて、乱暴で、卑怯な獣に」
女は小馬鹿にするように言った。
ずっと我慢していた早坂だったが、とうとうぶち切れてしまった。
「誰だ、おまえは?
名前を言え、名前を。事と次第によっては許さねえからな」
早坂は、スマートフォンに向かって、怒鳴り声を上げた。
「仕方ないわね。
じゃあ言うわ。私の名前はね」
女は早坂の怒声に少しも怯むことなく言い、ゆっくりとその後の言葉を紡いだ。




