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「社長の姪なんだ。
どうしても出版社で働きたいという本人の希望で、うちで働くことになった。
まあ、縁故採用ではあるんだが、構わんだろ?」
神田は小声で言った。
「へえ、そりゃあ、まあ。で、俺にどうしろ、と?」
「取材に同行させてくれ」
神田の言葉を聞いた徳丸の目が一瞬、点になった。
「え?それは困りますよ。
俺、子持ちだと思われて、お姉ちゃん口説けなくな」
「何か言ったか」
「いえいえいえ、何も何も。
でも、真面目な話、足手まといだと思うんですけど」
「そこを何とか、育ててやってくれんか」
神田に肩を2度3度と叩かれた徳丸は、
「わかりましたよ」
しぶしぶ、そう言った。
「じゃあ、俺は人に会う用事があるから」
神田がその場から去ろうとした。
「貸しですからね。
次は必ず風俗関係の取材に行かせて下さいよ」
「考えておくよ」
神田はそう言うと、振り返りもせず、片手を上げ、編集部から出て行った。




