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そう、事件は終わった。
あとは、俺たちが後始末をするだけだ。
堀田は車窓から過ぎていく都会の景色をぼんやりと眺めていた。
「その絵、たしか若い女が1人描いてありましたよね。
わざわざ持ってくるなんて、何か事件と関係あるんですか?」
「いや、関係ない。まったく関係ないんだ」
答えた堀田の頭に、ふとある考えが浮かんだ。
桐原は、何だってあんな絵を描いたんだ?
あの里奈って娘が自分の亡くなった妹に似てたからか?
それで描いたはいいが、娘が絵から抜け出したらさすがにまずいと思い、未完成にしたのか?
いや、待てよ・・・・・・。
堀田の頭にまた別の考えが浮かんだ。
桐原は、あの絵に描いた里奈って娘を、本当は蘇らせるつもりだったんじゃねえのか?
亡くなった自分の妹の代わりとして。
自分の心に空いた穴を埋めるために。
だが、それが出来るのは安永あかりだけだ。
桐原が念じても、ちっちゃい人間の女が絵から出てくるだけだからな。
安永あかりは、それをネタに桐原に殺しをさせたんじゃねえのかい。
復讐に協力してくれるなら、絵から等身大の娘を抜け出させてやるって・・・・・・。
車窓の外には、変わらず都会の雑踏が流れていた。
不意に、堀田は小さく笑い出した。
「どうされました?」
男が前方を見たまま尋ねた。
「いや、我ながらつまらん推理を思いついちまってな。
あまりの下らなさに自分でも笑っちまったんだ」
「どんな推理です?ぜひ聞かせてくださいよ」
「いやいや、俺もついに焼きが回っちまった。
恥ずかしくて、誰にも言えねえよ。
それより、少しばかり眠ってもいいか。
疲れてて、しかもこれから大変な後始末が待ってるからな」
「いいですけど、もう着きますよ」
男の声に、堀田は返事をしなかった。
助手席の堀田は、寝息を立てて眠っていた。
車はしばらくして署の駐車場に入って行った。
ー 完 ー