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病院を出た堀田は、あの夜のことを思い出していた。
救急車が病院に到着した後、白井と安永あかりはすぐに担ぎ込まれた。
里奈は入ってすぐの待合室に残され、堀田が医師や看護師らとともに
付き添った。
すでに2人とも昏睡状態に陥り、危険な状態だった。
2人を咬んだ蛇について尋ねられた堀田は、白井を咬んだのは『ブラックマンバ』、安永あかりを咬んだのは『インドコブラ』とメモを見ながら告げた。
すぐさま2人にそれぞれ違う毒蛇の血清が打たれた。
結果、白井は一命を取り留め、安永あかりは死んだ・・・・・・。
実は堀田は、安永あかりを咬んだのは、白井に咬みついた毒蛇と同じものではないかと考えていた。
里奈のすぐ近くを2匹の蛇が取り囲んでいた時、堀田は秘かに蛇を観察していた。
2匹は絵の具を塗られていたため色は違っていたが、それ以外は同じもののように見えた。
だが安永あかりは自分を咬んだ蛇は『コブラ』だと言った。
堀田にはそれが唐突に感じられ、安永あかりが嘘を言っているように思われた。
しかし、安永あかりの言を覆し、同じ蛇の名を病院で言うことは出来なかった。
はっきりとした確証が無いというのもあった。
勝手なことをして自分に責任が及ぶことへの恐れもあった。
しかし、それ以上に堀田の心の中を占めていたのは、別の思いだった。
「本人の望み通り、死なせてやりてえと思ったのかもしれねえな」
堀田は声に出さずに言った。
「とにかく、これは俺が1人で墓場まで持って行く話だ」
堀田はそう呟いた。