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「頼むからたすけてくれ、殺さないでくれ」
玉川は尻餅を着いたまま後ずさった。
その顔は情けないほどに怯えている。
「これまで、何人もの女性が同じことを言ったはず。
でも、あなたたちは聞こうとしなかった」
稀崎映美は、舞台女優のような言い回しで言い、玉川に迫った。
「俺はただ、脅されただけなんだ。
仕方なかったんだ。頼む、たすけてくれ」
玉川はとうとう涙を流し始めた。
「自分の犯してきた罪を考えてみるがいい。
おまえは絶対に許さない」
稀崎映美は、ナイフを高々と振り上げた。
この時、走り込んだ篠原が、稀崎映美の前に立ちはだかった。
篠原の巨体は、稀崎映美の視界から玉川を完全に隠した。
「どいて、どきなさい」
稀崎映美はそう叫ぶと、果物ナイフの切っ先を今度は篠原に向けた。
「そこまでだ!凶器を捨てろ!」
大声を出した篠原は、まったく怯んでいなかった。
ここで、インターネットの中継が途切れた。
アトリエのノートパソコンの画面には何も映っていない。
里奈と白井は放心状態で立ち尽くしているが、堀田はじっと安永あかりに視線を向けていた。
安永あかりは、何も映ってないモニター画面を、変わらず見つめていた。