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玉川の左頬から血しぶきが上がった。
玉川は頬を手で押さえたまま、尻餅を着いた。
血は、玉川の手の下からなおも滴り落ちていた。
玉川の前に稀崎映美が立っていた。
顔や衣装のいたるところに返り血が付着し、右手には真っ赤に染まった果物ナイフを握っている。
会見場の徳丸と行橋は、呆気にとられていた。
「どうなってんだ?」
「わかりません」
「サプライズ演出とかじゃねえよな?」
「違う、と思います」
2人は言葉を交わしはすれどお互いを見ることはなく、視線をずっと稀崎映美と玉川に向けている。
「どけどけ、ここにいる連中全員退出させろ!」
割れんばかりの声が響いた。
刑事の篠原だった。
篠原は他の刑事や警備員たちを怒鳴りつけながら、ドタドタと音を立てて会見席に向かった。
この時、稀崎映美が尻餅を着いた玉川に対し、ナイフの切っ先を向けた。