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「実物と変わらないって、それはとんでもなく」
白井が驚きの声を上げた。
「大きかった。
その虎が私の目の前、手の届く距離にいた。
私はもちろんだけど、彼も驚いていた」
「その虎はどうなったんですか?」
里奈が尋ねた。
「最初は私も怖かった。
でも、虎は座り込んだまま、じっとしていた。
少し時間が経って私が歩くよう念じたら、虎はアトリエの中をゆっくりと歩き出した。
本当に私のすぐ目の前だった。
その後、口を開けるよう念じたら、虎は口を開けた。
そして、消えるよう念じたら、その場から消えた。
跡形もなく消え去っていた。
絵を見ると、虎が描かれていた場所は空白になっていた」




