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「この虎の絵は?」
私は1枚の絵を指差し、彼に尋ねた。
そこには堂々した虎が描かれていて、今にも動き出しそうに思えた。
「え?」
「この虎も絵を抜け出すの?
私が見た蛇のように」
「ああ。抜け出すよ。僕がそう念じればね」
「だったら、これも使えるんじゃない?
奴らを殺すのに」
私には、虎の方が役に立つのではないかと思えた。
少なくとも、あの夜の毒蛇よりは。
しかし、彼は首を横に振った。
「その絵と同じ大きさにしかならないんだ。
それだと、せいぜいウサギか小さな猫ぐらいで、そんなサイズの虎が現れたところで、たいして役には立たないよ」
「そうなのね」
彼の話を聞いた私は落胆したが、そのまま魅入られたように描かれた虎を見つめた。
そして、自分でも何故かわからないけど、その虎に念を送っていた。
「動け!動きなさい!」
私は強く念じた。
次の瞬間、私はヒャッと声を上げ、床に尻餅を着いていた。
虎は絵から抜け出していた。
でも、その大きさは、キャンバスに描かれていたサイズではなかった。
私の目の前には、実物と変わらない大きさの虎が立っていた。




