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「こっちだ」
不意に声がした。
とても小さな声だった。
「ひっ」と思わず声が出そうになった時、私の口は何者かの手で塞がれた。
とうとう捕まった!殺される!
そう思った。
「静かにするんだ。僕は君の味方だ」
声は耳元でそう囁いた。
同時に、何も身に着けていない私の背中にジャケットがかけられた。
その後、私の手がそっと握られた。
この人が何者なのか、わからない。
でも、この状況ではこの人を信じる以外に選択肢はなかった。
その人は私の手を握ったまま林の中を移動した。
私は足の痛みも忘れてついていった。
でも、奴らから逃げることは出来なかった。
すぐに眩しいライトが私たちを照らし出した。
「いたぞー」
「1人じゃねえ。男と一緒だ」
奴らがいっせいに集まってきた。
その人は立ち止まった。
5、6人程の若い男たちが私たちの前に立ちはだかった。
奴らは迷彩柄の服に身を包み、頭にはライトとカメラのついたヘルメットをかぶっていた。
その中のリーダー格と思われる男が1人、前に進み出た。
その手には大きな飛び出しナイフが握られていた。




