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里奈も白井もびくりとなった。
白井はドア付近でスマートフォンを手にしたまま立ち、里奈は女性から近い場所で立ちすくんでいた。
蛇は、里奈の足元を取り囲むようにゆっくりと動いていた。
「その蛇は私の意のままに動く。
おかしな真似をしたら、その子の足に咬みつかせるわ。
とても強い毒を持っているの」
女性は里奈に顔を向けていた。
白井は静かに拳銃を取り出すと、蛇がいる周辺に銃口の先を向けた。
10m近い距離があった。
「銃で殺そうなんて馬鹿なこと考えないで。
噛みつく速さはあなたたちの想像よりずっと上よ」
女性は里奈に顔を向けたまま言った。
直後、2匹のうちの紅い蛇が、人の腰より上の高さまで頭をもたげ、1mほど移動した。
それだけでもかなり速かったが、さらに真っ黒な口を開け、何かに咬みつこうとするように、その首が宙を走った。
里奈は、思わず目を強くつぶった。
蛇が咬みつくことはなかった。
しかし、その素早さをこの場に居る者たちに見せつけるには十分だった。
「毒蛇には血清というものがあるだろう。
それについてはどうなんだ?」
堀田が静かな声で言った。
撃たれた右腕をまだ押さえていた。
「蛇の種類がわかるなら、咬まれても血清を打てばたすかるでしょう。
でも、あなた方はこの蛇が何なのか、特定することは出来ない」
「こんな派手な色の蛇、そうそう居ないだろう」
「ええ。存在しないわ。自然界には」
「どういうことだ?」
「蛇に色を塗ったの。種類が特定されないようにね」
女性はやはり落ち着き払っていた。




