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「そういうわけにはいきません。
場合によっては、あなたに殺人の容疑がかかるかもしれない」
「殺人?
私が人を殺したというのですか?
私がずっとここに居たことは、あなた方がよーくご存知のはずですよね」
「可能性がまったく無いとは言い切れません」
女性は小さく息を吐いた。
「申し訳ありませんが、私は行きません」
「これは任意ではありません。
必ず従ってもらいます」
堀田は、女性の顔をじっと見据えた。
「お断りします」
どうして、この人はこんなに平然としているの?
さっきまで悪い奴らに殺されそうになり、今度はそいつらが怪物に殺された。
怖くないの?
それに、警察の刑事さんにどうしてこんな態度なの?
混乱する中、里奈はそんなことを思った。
「どうしても来れないとおっしゃるのであれば、力づくで来ていただくことになります」
堀田はなおも女性を見据えた。
こちらも折れる気配はまったく無かった。
女性は動揺する様子も無く、静かに椅子に腰かけ、
「そんなことをすれば、ここに居る人間が1人、命を落とすことになりますね」
まるで他人事のように言うと、堀田に顔を向けたまま脚を組んだ。




