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アトリエの中にいる者たちは、息を潜めている。
静寂が続いた。
5分ほど経ち、白井が傷を負った堀田を残したままアトリエ内を屈んで移動し、ゆっくりと細心の注意を払いながら外に出た。
片手に拳銃を握っていた。
里奈は放心状態になった。
これまで、サメ、シロクマと有り得ない場所で巨大生物を見てきた。
そして、今見た巨大な獣。
それは、里奈自身だけでなく、この場に居る他の者も見ている。
桐原さんの絵のせいだというの?
桐原さんは生きているの?
白井が音を立てずに戻ってきた。
その顔は沈んでいた。
「副総監は?」
堀田が尋ねると、白井は首を横に振った。
「即死かと。
車に跳ね飛ばされた後、頭から落下した、そんな感じです」
「化物はどうした?」
「まったく見当たりません。
どこに消えたんでしょうか。
それと少し離れた場所で人が2人倒れていますが、おそらくは」
「わかった。近辺の警察に来てもらってくれ。
それと救急車も」
白井とは対照的に、堀田は感情を封印したかのように落ち着いていた。
白井はスマートフォンを取り出し、電話をかけ始めた。
堀田は負傷した右腕を押さえながら立ち上がると、里奈の元に歩み寄った。
「いろいろと話を伺わなければなりません。
あなたにも署に来てもらいます」
里奈はうなずいた。
続いて堀田は、女性の前に進んだ。
「お話を伺いたいので、我々とご同行をお願いします」
堀田の言葉を聞いた女性の口元が、かすかに笑っているように見えた。
「お断りします」
里奈にとっては、思いもよらぬ言葉だった。
スマートフォンを手にした白井も、こちらを向いたまま一瞬固まった。




